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Archives ポエトリー・リーディング Script 2004.11.21 嘗ての高田馬場『Ben's Cafe』にて


いつもの公園を抜けて、ふと、俺は舗道に立ち止まった。雨上がりの朝。透き通った爽やかさが、雨に濡れた舗道の寂しさを静かに湛えている。その時、確かに俺は、そこに佇んでいた。そこには、誰かが立っているような気がした。誰かだって?  俺は、呼び止めようとしたんだ。その時、確かに俺は……。俺の眼の前に佇んでいるこの俺の顔が、この俺の眼の前でぐにゃりと歪み、ゆっくりと溶けて、どろっと、崩れ落ちていった。音もなく。その時俺は、俺自身に穿たれた空ろな穴から流れ落ちる何だか分からないモノを眺めながら、不意に思い起こしていた。ああ、ついこの間も、何故か点けっぱなしのTVで見たな。あの******の顔は、すっぽりと、刳り貫かれたみたいだったが、この俺の場合は、こうか。いやだな。まったく。これから、一体どうするんだよ、お前は。どこへ行く? どこでどうする? もう、どこにも帰れねえ。……俺じゃないんだよ、俺じゃ! なんで、俺しか居ないんだよ。ここには。俺じゃない誰かがやったはずなのに。俺がやったんじゃない。俺はやられたんだよ。嘘じゃない、この顔を見てくれ、酷いだろ、どろどろに溶けて、もう無くなっちまってるよ。やられたんだ、やられたのは、この俺なんだ。俺がやったんじゃない。やられたこの俺が、この俺をやるわけないじゃないか。俺の顔は、いや、俺自身が、もうやられて無いっていうのに。いいか、俺はもうやられちまってるんだ。身体中溶けて無くなってるよ。それなのに、一体なんで、ここには俺しか居ない? ここは、どこだ? 一体この部屋は……。


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