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『TENET テネット』の「視点」の編集について。

なんと『TENET テネット』のブルーレイが12月15日発売ですって! 劇場公開が9月18日だったのでかなり早いですね。映像特典が楽しみ☆

さて演技ブログ「なぜ『TENET テネット』はこんなにも難解な映画になってしまったのか?」シリーズ第3弾、完結編。
難解になってしまった理由を、第1弾では「動機が発生する瞬間が描かれてない」第2弾では「主人公の人物像が具体的でない」と書いてきましたが・・・完結編はそれら「動機」と「人物像」が観客に伝わらなかった具体的な原因って、主にこの映画の「編集」の問題なのでは?と思う件について書いてゆきたいと思います。 (多少ネタバレ有り)

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さてボクがこの映画を観ていて一番最初に迷子になったのは(笑)、ニールとの出会いのシーンでした。

ムンバイのカフェ。プロタゴニスト(主人公)の隣の椅子にニールがやって来て座る。自己紹介して握手・・・ここまではスパイ物っぽい演出でいいんですけどね。ところがこの握手のあと、なぜかカメラはニールのバストショットに切り替わって、ずーっとニールのリアクション中心に映しはじめるんですよ。
たしかにニールが任務に関する台詞を喋りながら、その内容とは関係なくずーっとすごい目でプロタゴニストを見つめてるんですよねw。すごい心が動いてるんです。喜怒哀楽・・・わかります。いろんな思いが去来しているんでしょう。

でもね、この時点では初見の観客はニールの正体がわかってないので、彼のどんなに深い表情を見せられてもその裏にある感情の意味はわからないんですよ。むしろ単純に「情緒不安定っぽい人」に見えちゃうくらいで・・・アル中キャラ?とかボクは思っちゃいましたからw。
このニールの妙なリアクションが気になって気になって、難しい説明台詞の内容が頭に入ってこなくなって・・・ボクは迷子になりました(笑)

なぜこんな混乱が起きるのか・・・編集です。
このシーン、「視点」がプロタゴニスト視点になったり、ニール視点になったり、ふわふわしてるんですよ。

本来このシーンってあきらかに終始プロタゴニスト視点で描写すべきシーンです。ここまでずっとプロタゴニストの視点で描かれてきてるし、このシーンはプロタゴニストが新たな仲間に出会うシーンで、その仲間ニールはこの時点では信頼しきれない存在ですから。

なので2人の人物の会話をカットバック(切り返し)で編集する場合、たとえば
「プロタゴニストがニールに言葉を投げかけて」
「その言葉に対するニールの反応を」
「プロタゴニストが見る」とか。
そんな風に2人のバストショットを切り替えてゆくと内容が観客に伝わりやすいのですが・・・『TENET テネット』のこのシーンの編集、①②ときて、②「ニールの反応」が延々と続いて③「プロタゴニストがそれをどう見てるか」が無い編集なんですよね。
これだとプロタゴニスト視点で物語が進行してゆかないというか、いやここは③のショットが入って「こいつが相棒で大丈夫か?」というプロタゴニストの表情とか、そういうショットが入って欲しかった。

この感じ、キャットのシーンでも、セイターのシーンでも、プリヤのシーンでも起きてるんです。②が大きく取り上げられて③が無い編集
・・・プロタゴニストのところにカメラ(視点)が戻ってこないんです。

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これってやっぱり2回目に観る観客のことを考えて編集してるってことなのかなーと思ったりします。1回観終わって、ニールの正体・プロタゴニストの正体が理解できてる観客には呑み込める編集ではありますから。単に編集が下手でそんな感じになっちゃったってことは・・・まあ無いと思うんですよねー。

ボクの印象ではノーラン監督って、2000年のメジャーデビュー作『メメント』の時代から、巧みな編集で情報を小出しに観客に伝えていって、観客をミスリードしながら楽しませてゆく・・・という編集が上手な監督だという認識だったんです。

ボクはノーラン監督の映画としては地味な作品として知られる『インソムニア(2002)』が結構好きで、それは主演のアル・パチーノの演技が素晴らしいからなんですけど、あの映画のDVD特典のノーラン監督のコメンタリーに感動したんですよねー。ノーラン監督が彼の映画編集哲学みたいなのを延々と語ってるんです。

ここで彼は「映画全体を誰の視点で語るのか」そして「各シーンを誰の視点で描写するのか」が編集するうえで一番大事なことだと語っています。

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『インソムニア』は、アラスカの田舎町のとある殺人事件の物語です。
殺人犯のロビン・ウィリアムズと、彼を追うロス市警の刑事のアル・パチーノが、船の上で初めて出会うシーンがあるんですが、このシーンでのノーラン監督のコメンタリーが興味深いんですよ。
この船での会話シーン、前半が例のカットバック(切り返し)の編集で描かれているんですが、この会話を観客がパチーノの視点で見進められるよう工夫されています。

ウィリアムズを映す時はパチーノからウィリアムズがどう見えているのかを描写し、パチーノを映す時にはパチーノが何を感じているのかを詳細に描写する。

これがノーラン監督が会話のカットバックを撮影するときのやり方・・・決して2人を平等には撮らないんです。そして先ほどの①②③の過程を丁寧に踏みながら会話を編集してゆきます。

そしてこの船での密会のシーン、後半は超長回しのツーショットで撮影されています。ノーラン監督はコメンタリーしています。ツーショットに切り替えるのは、2人の関係性の変化・距離感の変化を描写したいからだ、と。 明解☆

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ノーラン監督の作品は、この後もずーっとこの方法で編集されてきたように思います。 たとえば『インターステラー(2014)』も本当に複雑にたくさんの人物の思惑が絡み合う映画ですが、主演のマシュー・マコノヒーの視点を観客が決して見失わないような編集になっています。

この映画は多くのシーンがツーショットで描写されていますが、この壮大な宇宙の物語を、元パイロットではあるけれども今は2児の父でしかも農夫であるマシューがその宇宙の話をどのように感じているかを示す無言のショットが、常にシーンの終わりに挿入されています。
だから例えばアン・ハサウェイがどんなに感情をむき出しにするシーンがあったとしても、アン・ハサウェイのショットでシーンが終わることはなく、必ずカメラはマシューの方に帰ってきます。そして彼が彼女に対してどのように感じているかを表す「彼女を見る無言のショット」でシーンが終わるんです。無言ですがすごく雄弁な編集です。(マシューの「見る演技」も素晴らしい)

この見る対象がアン・ハサウェイでなくトウモロコシ畑の火事でも、ブラックホールでも、異星での巨大な津波でも・・・編集のスタンスはまったく同じで、観客はマシューがそれを見てどう感じているかを常に共有することができています。 なのでどんなに難解で複雑な設定や物語であっても、観客はギリ迷子にならずに最後まで見進めることができていたんですね。

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そんなノーラン監督が、なぜ『TENET テネット』ではその方式を採らなかったのか。 可能性としては、今回編集技師が新しい人に変わったから、というのはありえますよね。

『メメント(2000)』『インソムニア(2002)』までの編集技師はドディ・ドーン。そして『バットマン ビギンズ(2005)』から『ダンケルク(2017)』までの編集技師はリー・スミスだったんですが、今回の『TENET テネット』ではジェニファー・レイムという『マリッジ・ストーリー(2019)』等の小規模な映画で活躍する若い編集技師に変わったんですよね。 彼女とノーランのコラボが、なにかノーランの編集哲学に変化を与えたのかもしれませんねー。

でも正直言って、そもそもこの『TENET テネット』でよく見られる、カットバックで短いショットをバンバン切り替えてゆくって、ちょっと90年代的というか、演技のディテールを描写することを重要視してなかった時代の編集センスの気配を感じるんですが・・・いやいやいや、でもぶっちゃけ、『TENET テネット』の編集の現場は芝居をどう見せるかとか言ってる場合じゃなかったんじゃないかって気もするんですよね! 順行逆行とか、そのあたりの映像的なつじつまを合わせるのに必死で、どんどん芝居に尺を使えなくなってバンバン短くしたらこんな感じになっちゃった!とかねw。
撮影台本がどうなってるかわかればそのあたりは判明するんですけどねー・・・読んでみたいなあ。

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とまあそんな感じで「でびノート☆彡」の『TENET テネット』3部作、終了です。 設定が難解だ!ストーリーが難解だ!と言われたこの映画、じつは難解だったのは演技や、編集の問題もあったのかもよーということを3回にわたって書かせていただきました。長文に最後までお付き合いありがとうございました。

・・・ついでに映画『TENET テネット』の率直な感想でも書いちゃおうかなw。 超ワクワクしました!時間を逆行するって発想、ホントおもしかった。でも非常に残念だったのは・・・最後、アルゴリズムが実際に発動してしまって、世界中の時間が逆行してしまうシーンが見たかったー!

やっぱり映画なんだから、最悪の事態が起きてしまったシーンが見たいんですよ。「食い止める!」って言って、本当に事前で食い止めちゃったらつまらないと思うんですよねー(笑)というのがボクの素直な感想でした。
いや~映画って楽しいですね。ではまた~☆

小林でび <でびノート☆彡>


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