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「快」のセンサーで反応する、「不快」のセンサーで反応する。

先日テレビで映画の宣伝番組で綾瀬はるかさんを見たり、CMで演じる人気女優さんたちを見ていてふと、あ、人気女優さんには大きく分けて2種類のタイプがあるなあと思ったんですね。

ひとつめは「役の人物の感覚と一体化しながら芝居をすることを楽しむ女優さん」で、もうひとつは「女優さん本人の感覚で納得できる演技をしたい女優さん」です。

前者は綾瀬はるかさん、石原さとみさん、芦田愛菜さんなど。
後者は高畑充希さん、上野樹里さん、吉高由里子さん、吉岡里帆さん、新垣結衣さん、杉咲花さん、あと蒼井優さんなんかまさにそれなんですが、ピンとくるでしょうか。

これって演技法の違いよりは、それ以上に「感覚の使い方」の違いのように感じます。細かく見てゆきましょう。

「役の人物」の感覚と一体化して演じる!

前者の「役の人物の感覚と一体化しながら芝居をすることを楽しむ」タイプの女優さんは、自分自身の感覚で演じるのではなく、脚本上の役の人物をしっかりプロファイルして、役の人物を把握してその役の人物の感覚を使って演じます。 だからこそ綾瀬はるかさんが織田信長の奥さんを勇ましく演じたりできるわけですよね。

芦田愛菜さんは読書好きで有名ですが、インタビューで「本の中の人物が自分とはまったく違った環境や状況の中でどんなことを感じるのかを想像したり感じるのが楽しい」と語っています。

このタイプの女優さんの最たるものは樹木希林さんだと思うのですが、樹木さん本人はあの内田裕也と結婚して対等に渡り合えるレベルに強くて超エキセントリックな女性だったわけですがw、希林さんはそれとは真逆のごくごく平凡な団地に住むオバサンを演じさせても素晴らしかったですよね。

樹木希林さんは役の人物のリサーチを徹底的にやる方だったようです。ごく普通の主婦のことをよく観察していたという話もありますし、映画『あん』の撮影の時もハンセン病の患者さん達の施設に足しげく通って、ずっと患者さんたちと話をしていたそうです。

単に「役になり切る!」だけではなく、希林さんのように脚本上の人物をプロファイルして、さらにしっかりリサーチすることが大切です。
リサーチせずに心意気だけで「役になり切る!」のでは、結局自分の思うその人を演じることになってしまうので、それはまだ自分自身の感覚なので。

役の人物の感覚を知り、その感覚で演じることが重要なのです。

俳優自身の感覚に忠実に演じる!

後者の「女優さん本人の感覚で納得できる演技をしたいタイプ」は、その女優さん自身の感覚を使って役の人物を演じます。もちろん役の人物をキャラとして演じているのですが、感覚のディテールの部分は「自分だったらこう感じる」という芝居をすることに喜びを感じるタイプです。

俳優自身のセンサー(感覚)でもって演じているので、芝居が生々しく、また女優さんの個性も強く出るのが特徴で、若干暗めの芝居になってしまうことも多いです。

そしてじつはこの後者のタイプは、そのセンサー(感覚)の使い方の違いで、さらに2つのタイプに分類されます。

それは「快」のセンサーで演じるタイプと、「不快」のセンサーで演じるタイプです。

同じシーンで同じ反応を演じる瞬間でも、「快」のセンサーで演じる俳優はその状況のポジティブな側面に反応して演じ、「不快」のセンサーで演じる俳優はその状況のネガティブな側面に反応して演じます。

たとえば「街でバッタリ知り合いに会う」というシーンを演じるとき、「わ!偶然だね!」と「快」で反応するのと、「え?どうしてこの人がここに?どうしよう」と「不快」で反応するのでは、同じシーンでも見え方が全然違ってきます。

そして「不快」のセンサーで反応して演じるのにはちょっとしたリスクがあります。

「不快」のセンサーのみで演じるのは損かも。

「不快」のセンサーで反応する俳優さんは、自分自身を緊張させてしまったり、防御の体制にしてしまいがちなので、どうしても相手との間に「心の距離」が出来てしまいます。

そして「不快」で反応すると、ついつい被害者的なスタンスになってしまいがちで、相手の台詞や行動に対して過敏に反応してしまいます。つい冷たい態度をとってしまったり、攻撃的な態度をとってしまいがちです。

もちろん演じてる本人としては攻撃してるつもりはまったく無くて、単に防御だったり、反撃をしたりしているつもりなのですが、それは客観的な位置から見ている観客にとっては先制攻撃にしか見えないんです。

なので「不快」のセンサーで反応する俳優は、観客の同意や共感を得にくく、最悪の場合観客に嫌われたりもします。これはかなり損ですよね。

でもだからといって「不快」のセンサーで反応して演じることがダメだというわけではありません。「不快」のセンサーだけを使って演じることが問題なのです。「快」のセンサーと「不快」のセンサー、その両方を使って演じる女優さんはそのせいで役の魅力が倍増することも多いからです。

「快」のセンサーと「不快」のセンサー、両方使う!

蒼井優さんは「不快」のセンサーを使った芝居が素晴らしい女優ですが、彼女は「快」のセンサーもそれと同じくらい使って演じているんですね。

蒼井優さんの映画でよくあるのは映画の冒頭、「不快」に暮らしていた蒼井さん演じる主人公が、誰かと出会うことによって「快」に転じて喜びに溢れまくり、でも関係がこじれていって最悪の「不快」を感じ、でもラストで最高の「快」を爆発させて終わる!という。見たことありますよねw。

「不快」のセンサーで反応する俳優は映画の最初から最後まで「不快」のセンサーで演じ続けてしまうケースが多いのですが、蒼井優さんの場合は状況に素直に反応して「快」「不快」のセンサーを全開で使い分けて演じるんですよね。
そしてまた「快」が「不快」に転じる瞬間、そして「不快」が「快」に転じる瞬間の蒼井さんの芝居がメチャクチャ切ないんですよ。

そのほかに「快」と「不快」を行ったり来たりすることで見事な芝居を演じたのは、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』のガッキーですね。

このドラマは基本的にお互いが相手に対して疑念を抱き続けるストーリーなので、「不快」のセンサーで反応してしまいがちなのですが、ガッキーも星野さんも見事に状況の変化にリアルに反応して「快」と「不快」行ったり来たり、まさにジェットコースターのような芝居展開を演じていました。

ガッキーは『逃げ恥』以降の映画やCMでは、わりと「不快」のセンサーのみで反応する芝居をするようになりましたよね。「不快」と「快」ではなく「安心」を行ったり来たりする芝居を演じられてますよね。いやー残念。

キムタクもここ数年は「不快」のセンサーで反応するような役を演じていますが、かつては彼の「快」と「不快」を行ったり来たりする芝居に日本中がワクワクしたものですよねえ。

状況によって「快」「不快」での反応を使い分け、そして「快」のセンサーで反応して演じることをけっして忘れない、これが役の魅力を、そして俳優の魅力を出すのに本当に大切なのです。

センサーの性能を高めるために

といった感じで、この「快」のセンサーと「不快」のセンサーの高い性能が、芝居をイキイキさせることに必要不可欠なのですが、さてこの「快」「不快」のセンサーはどうやったら磨くことが出来るのでしょうか?

ボクはセンサー(感覚)は日常生活の中でしか磨かれないと思っています。日常の中でどれだけ強烈に喜怒哀楽を感じながら生活しているかが重要なのです。

なので俳優が日常生活の中でやってはいけないのは「スルーする」ことと「冷笑する」ことです。なにかが起きてもそれに向き合わずに「スルー」してしまうと、日常生活の中で感じるべきことを感じることが出来ません。
そして「冷笑」は問題や相手をくだらない!と笑い飛ばすことで、これもまた感じるべき感覚を感じることから逃げています。

「スルー」も「冷笑」も防御反応なので社会生活をする人間としては必要かなとは思いますが、俳優は感じたことが無い感覚は演じることが出来ないので、俳優としては「スルー」も「冷笑」もあまり良くないのではないかなーとボクは思っています。

「防御」だけが発達してしまうと、反応が「不快」オンリーになるので、芝居がネガティブなオーラを帯びて脚本から逸脱するし、なによりも役や俳優自身に観客が魅力を感じにくくなるのが問題です。

ふと「冷笑」したい衝動に駆られても簡単に相手のことをバカだ!と断じるのではなく、自分とは違う感覚の使い方をする人がいるんだな~と思って相手の話をよく聞いてみましょう。案外そのコミュニケーションの先には喜びがあるかもしれません。

たくさん笑って、たくさん泣いて、たくさん怒って、たくさんほのぼのする。さまざまな感覚を感じて、自分自身のセンサー(感覚)を磨いてゆきましょう。

それが人気女優への道かもしれませんよ。

小林でび <でびノート☆彡>


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