アフターデジタル_メモ01

O2Oとかいってる場合じゃない!:アフターデジタル

この本は衝撃的でした。

前回のつづきで中国をテーマにした本をご紹介します。いきなりちょっと話がそれますが、アンラーニングの大切さを耳にすることはあっても実際に自分が蓄積してきた学びを捨てることは簡単にはできません。それができる唯一の効果的な方法は、ショックを受けることだと思います。

その点において、この本はアンラーニングに最適といえます。それは『世の中のデジタルはこんなにも進んでいる』というショックよりも、『デジタル化が進んでいる国のUXはこんなにも先を行っていて、自分がこれまで積み重ねてきたUXの考えが過去のもの』と事実に直面することにショックを受けるからです。古い考えを捨てざるをえません。

これからのデジタルのUXを知りたい人におススメの本です。

アフターデジタル
藤井保文、尾原和啓
日経BP社 2019.03

僕はたまたま1カ月くらい前に、著者の藤井さんのプレゼンを聞いて中国に興味を持ちました。プレゼンの内容は主に中国のデジタル事情とUXについてですが、まずそれで衝撃を受けたので、これは本も読まねばと思い、僕にしてはめずらしく出たばかりの本を購入しました。

この本は中国の事例紹介が多いけど、中国のことだけでなくエストニア、スウェーデン、アメリカなど、デジタルサービスが進んでいる世界のいまを捉えていて、そこにどうUXが関わっているかということを紹介しています。なのでメインの読者層は、事業企画者やUXデザイナーでないかと思います。

ここでは、個人的に衝撃をうけた次の3つの気づきをまとめてみます。

1. Before Digital とAfter Digital の思考の違い
2. Design x Business x Technology が向かう先
3. グロースとイノベーションのUXの使い分け

1. Before Digital とAfter Digital の思考の違い

分かりやすくいうと、日本はBeforeで中国はAfterです。「まあ、確かに最近の中国は進んでいるよな」とは多くの人が思うことです。だけど最新のサービスや動向を知っているだけでは不十分です。大切なのは「中国のビジネス提供者の言っていることや考え方が理解できない」と知ることです。

本書の中でいくつか日本企業と現地企業のやりとりが紹介されていますが、これがリアリティのあるものでした。話がかみ合っていない=日本はBeforeにいる、ということがよくわかります。代表的なものを紹介すると、

日本:何故オンライン企業がオフライン(店舗)も持つの?
中国:オンラインとオフラインは既に溶け合っていて違いはない。顧客はチャネルで考えるのではなく一番便利な方法を選びたいだけ。
日本:当社が持っている顧客IDを何かに使えないか?
中国:大切なのは属性データではなく行動データ。あなたのデータは20代の女性はすべて一緒といっているのと同じ。

とこんな感じです。まとめると、リアルとデジタルを分ける考え方がBefore側で、境界ではなくUXの視点から最適なサービスを提供する考え方がAfter側ということです。日本で語られるUXはどちらかというとデザイナーに寄りがちな使われ方をしている印象がありますが、中国ではUXをビジネスの要として捉えています。ここに大きな違いがあります。

2. Design x Business x Technology が向かう先

Alipayの金融決済を広めることに成功したアリババは、UXをうまく活用している中国の代表的な企業です。そのアリババにあるUED大学のUX5段階という内容が紹介されていました。(UEDはUser Experience Designの略)

0. 1. デザイン x ビジネス x テクノロジー が融合したカタチ
2. toCとtoBのエクスペリエンスを設計するプラットフォーム
3. ECからはじまりオンオフが融合したエコシステムができる
4. データをもとにテクノロジーで新しいエコシステムをつくる
5. バランスの取れたロイヤルティとサスティナビリティを持たせる

※上のメモは1-6と書いてますが、0-5に頭の中で変換して見てください

言葉で書いてもイメージがつかめないかもですが、5段階のうちの1が、世の中で言われているデザイン思考をビジネスに取り入れる考え方です。アリババではそこから4段階も先にいっているということです。Afterの視点はおそらく3からで、4と5はデータとビジネスが循環している状態を表していると思われます。

知らないことだらけの考え方なのでまだまだ理解はできていないですが、気になったことは、常に顧客側と事業側の両方を見て、そこにデータやテクノロジーを取り入れるという視点は、僕のテーマであるデザインストラテジーの考え方(ビジネスとデザインをどうつなげるか)に通じるところがあるような気がします。気がしているだけかもしれませんが。

それにしても、概念だけではなくこれをビジネスで実践し証明しているのだから、驚くばかりです。

3. グロースとイノベーションのUXの使い分け

OMOという言葉を知っていますか?Online Marges with Offlineの略で、オンとオフが融合したデジタル企業の考え方です。最近よく聞かれるD2Cというビジネスモデルでも、ベースにはOMOの考え方が浸透しているかと思われます。こういった会社は、例えばUXでは定番のジャーニーマップを描くときもデジタルとリアルの区分けはなく、両者の良い点を適材適所で活用して、いかにして接点を高めてデータをもとに体験価値を高める施策を高速に回せるか、ということが関心どころだということです。

そんな会社がUXをどのように事業戦略として使っているのか、というのがグロースハックとイノベーションの2つになります。それぞれの特徴をひとことで書くと、

・UXグロースハック:事業成長に向けた体験とサービスの質の向上
・UXイノベーション:デジタルを活用した新しい接点とデータの取得

ということになるかと思います。グロースハックでは専門の人ではなく全員がUXデザイナーの視点をもって取り組むということです。そのくらいUXの考え方と重要度は組織文化として浸透しているということです。そしてただ体験だけに目を向けるのではなく、行動データをどう取得しどう役立てるか、というデジタルビジネスの視点も備えていることが重要です。ここはUXデザイナーも今後意識すべき点だといえます。

そしてイノベーションでは、ジョブ理論やアジャイル開発のスキルとマインドを持ちながらも、事業ドメインをどう結び付けるかといった体験がつなぎあうストラテジックな考え方ができることも必要とされています。すごい高度です。ここまで進んでいるとは...。

以上が本書のほんの一部をすくいとったような紹介になります。書き伝えたいことはもっともっとたくさんあるのですが、それを目指すと本を写経するようなことになってしまいそうなので、気になった人は本を読んでみてください。これはおすすめです。

僕もまだ十分に理解はできてないですが、日本のUXデザインの中でも3年後くらいに浸透しはじめることが書かれているのではと思います。そのときはO2Oなどでこれまで言われていたことの視点の狭さに気づかせてくれて、アンラーニングのキッカケがつくれるはずなので。

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デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。