ロジカルに考え、エモーショナルに作る 。「愛着」をデザインする方法とは
みなさん、こんにちは🙋♀️
DeNAデザイン本部です。
DeNAの開発・制作現場で活躍しているデザイナーのキャリアや働き方をご紹介するインタビュー企画 「Designer’s Career Crunch」。第3回目に登場するのは、デザイナーの 李 在薫(イ・ジェフン)です。李さんは韓国の学校と多摩美術大学院にてデザインを勉強、広告制作プロダクションでのCM制作とブランディングサイトなどのインタラクティブデザインの仕事を経て、DeNAにジョインしました。DeNAでは長年ゲーム制作に携わっていましたが、現在はライブ配信サービス『Pococha(ポコチャ)』のアイテムデザインとPOCOTOMOのブランディングを担当しています。デザイナー歴20年以上の李さん、Pocochaでは「自分のデザイナー人生の集大成」と言えるほど、過去の経験をすべて活かせているとのこと。詳しくお話を聞いてみました。
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<李 在薫(イ ジェフン) プロフィール>
韓国出身 多摩美術大学 グラフィックデザイン学科 広告コミュニケーション専攻 卒業。株式会社ディー・エヌ・エー デザイン本部サービスデザイン部 デザイナー。モバイルゲーム『D.O.T. Defender of Texel』『土下座パラダイス』『ポケモンマスターズ』などの開発を経て、現在はライブ配信サービス『Pococha』のクリエイティブディレクター&アートディレクターとして従事。
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CMからゲーム制作へ。 デザインスキルを活かして業界をシフト
ーー 李さんは韓国のご出身ですが、どういったきっかけで日本にいらしたのですか?
私はソウル芸術大学でビジュアルデザインを専攻していました。そこで世界のCMを見る授業があったんですが、中でも原始人とマンモスが登場するカップヌードル「Hungry?」のCMを見たときにとても感動しました。「CMでワクワクする、心を動かされることってあるんだ。自分も作りたい!」と思ったのがきっかけで、卒業をして一度はグラフィックデザイン関連の仕事についたのですが、マンガやアニメーションの学校に入り直して、韓国のCM制作会社に転職しました。
その後、2002年に日本に旅行したとき、ホテルのTVで見た日本のCMがやっぱり面白くて。当時、韓国は手の届かない美しい芸能人しかCMに出ていないような時代だったんです。それと違って、日本の広告はインパクトがあって笑えるユニークなものがたくさんありました。これは「企画力」が違うんだな、と思って企画を学ぶために憧れの中島信也さん(カップヌードル「Hungry?」の生みの親)が、当時教授をしていた多摩美術大学の大学院に入学しました。卒業後は日本の広告制作会社で、広告映像やブランディングサイトを作る仕事に就きました。
ーー デザイナーとしての最初のキャリアはCMや映像だったんですね。
その会社にはインタラクティブデザインの部署があって、広告映像以外にもWebサイトやグラフィック、デジタルサイネージなど、映像以外にもいろんなものを作りました。当時はFlashの全盛期で、Flashを使うWebサイトをたくさん制作していました。
ーー DeNAとはどのように出会いましたか?
映像制作やクライアントワークは楽しかったんですが、納品してしまうとユーザーの反応が全然わからないんです。もう少しユーザーと近い業種で働いてみたいと思ったのがきっかけで、転職を考えました。
スマートフォンが普及し始めた時期で、それに伴ってモバイルゲームの開発が盛んになってきた頃です。まだ成功事例が少なく、「ゲーム制作はこれから伸びそう」と思って、モバイルゲームを多数展開しているDeNAに転職することにしました。当時のDeNAは、モバゲーが注目されていましたね。
ーー 広告からゲーム、勝手が違う部分などありませんでしたか?
むしろ、やれることが増えたのが良かったです。
ゲームは複数の要素が組み合わさった「トータルエンターテイメント」なので、映像、キャラクターデザイン、ストーリーテリングなど、自分が持っているスキルを総合的に活かせると思いました。全体のコミュニケーションを設計するのが得意でしたし、ゲーム全体の世界観を作ることが楽しかったです。技術的にやれる範囲の中で、ゲーム画面にマンガを入れてキャラクターの性質やイベントのテーマ(ストーリー)を伝えるなど、ユーザーがゲームの世界観に没入でき、より楽しめる「全体のコミュニケーション」をデザインしていました。ゲーム内のマンガは「ユーザーをより楽しませる、ワクワクさせる」という自分のものづくりの哲学に基づいたひとつの手段として行っていました。
『土下座パラダイス』というゲームを作ったときは、少人数のチームだったのでデザインやストーリーはほとんど自分で考えました。反響も大きく、開発はすごく楽しかったです。全体のテーマとキャラを作り、ステージごとにストーリーを考え、次が気になって止められないUXを提供したのが話題のきっかけになったかなと思います。今だとNetflixを止められずに深夜まで一気に見てしまう感覚に、インタラクティブ性を加えたコンテンツだと思います。「ゲームはインタラクティブ性があるドラマである!そういうゲームを作りたい!」と思っていたので、それが達成できてとても嬉しく、個人的にも思い入れの強い仕事でした。
その後は「ガンダムロワイヤル」や「ポケモンマスターズ」など、版権系のゲームにも関わりました。UIチームのリーダーで、UIデザインやトランジション演出を主に担当しました。 UIの仕事でも自分のものづくりのスタンスは変わらず、使いやすさだけではなく、エモーショナルなアプローチと冒険したくなるUIUXを追求しました。
”POCOTOMO”誕生! IPを作ることは「愛着をデザイン」すること
ーー ゲーム事業で7年間ほど働いてから、ライブ配信サービス『Pococha(ポコチャ)』へ異動されたんですね。これはどういった経緯があったのでしょうか。
自ら「ゲーム以外のサービス開発をしたい」と希望しました。入社時から状況は大きく変わって、モバイルゲームはかなり定着しました。ゲームを作る環境も変化し、それぞれの工程にスペシャリストがつくようになって、一人ひとりの担当の幅が狭くなっていったんです。大きいプロジェクトになればなるほど、グラフィックアセットの担当、企画の担当、UIの担当など分業化されていきました。得意な領域を突き詰めるには最適でしたが、一方で領域を広げることが難しくなる感覚がありました。このままゲームの世界にいると、自分はUIUXの専門家になれそうだと思ったんですが、逆に使うスキルが絞られていく可能性もあるのではないかと思ってしまいました。
自分は広くデザインをやりたかったし、ゲーム以外のサービスにもゲーミフィケーションの知見が活かせるのではないかと思い、思い切って部署異動を希望しました。実は転職も考えていたんですけど、「そういえばDeNA内だけでもいろいろサービスはあるよな……。」と思いついて。デザイン本部については詳しく知らなかったので、DeNA社内とはいえ転職する感覚でした。
ーー Pocochaでは何を担当されているんですか?
今はPococha内で使用されるアイテムを作ったり、『POCOTOMO』というキャラクターを育てたりしています。アイテムは、配信中にリスナーがライバーに贈るもので、贈るとライバーと視聴者、両方の画面に表示されます。アイテムは基本的にはイラストですが、ゴージャスなものになると画面全体に大きく表示されたり、華やかなアニメーションになったり、配信を盛り上げる要素のひとつです。
アイテムはアニメーションや画面の演出、キャラクターデザインなど、自分が歩んで来たデザインの経験が全て凝縮されているようなイメージでした。10秒以内の短い時間で気持ちを伝える要素はCMと似ています。久しぶりに自分で絵コンテを描いて提案して、すごく楽しく作っています。新しいアイテムをリリースしたら、リアルタイムでユーザーの反応がわかるのも面白い。
アイテムはサービスの中の一部分ですが、これだけでもまだまだ良くできる可能性がたくさんあって、自分の経験の集大成だと思って取り組んでいます。
ーー アイテムで一番思い入れのあるものは?
最近リリースした、Pococha オリジナルキャラクター『POCOTOMO』のひとり、ピンキの「大好き」です。これは3Dで制作しています。
ーー か、かわいい……!モデリングもアニメーションもクオリティが高いですね!
制作は私が尊敬するデザイナーの鈴木 隆治さんです。これまでアイテムは平面のものが多かったんですが、そこからアイテムのトンマナの多様性、UXのスケール、POCOTOMOの愛着と世界観を広げるために3D表現のアイテムを作ってみました。アイテムの表現を増やすことによって、ユーザーの感情表現が多様にできるようになりますし、かっこいい、かわいい、シュールなど、色々な要素が入り混じった世界を作ることができます。
デザインもアニメーションも、使うシチュエーションのUXも簡単には真似できない洗練されたクオリティを出すことで、他サービスとの差別化をしていこうと考えています。ユーザーの期待を越えて、驚かせていきたいです。
データやインサイトの分析を徹底的に行い、それをクリエイティブに反映させています。ロジカルとエモーショナルをうまく融合させるのが、自分の仕事なんです。
ーー 李さんが手掛けるPocochaのオリジナルキャラクター『POCOTOMO』はどのように誕生したのでしょうか?
もともとアイテムで使われていたキャラクターにきちんと設定をつけて、長期的に発展させていこうと思っていました。Pocochaの中でユーザーの代わりに気持ちを伝えてくれるのが「POCOTOMO(ポコトモ)」です。自分を投影できる「友達」のようなキャラクターを見つけられれば、ライバーとリスナーのコミュニケーションはもっと活性化します。ユーザーにより「アットホーム」な雰囲気を感じてもらい、キャラクターにもサービスにも愛着を持って欲しいのです。
キャラクターたちはもともと顔だけがデザインされたので胴体をチューニングし、それに名前、性格など設定をつけて、しっかり設定資料に落とし込みました。キャラクターデザインは「共感できる」ことを重視しました。リサーチチームとユーザーの属性を調べて把握し、見た目や表情など表向きに分かる情報から、抱いている夢やコンプレックスといった内面まで詳細に作り込んであります。それぞれのユーザーが自分にマッチしたキャラクターを見つけられるように、見た目も性格も多様性を重視しつつ繊細なチューニングを続けています。
多様性というのは、Pocochaでも大事に思っている感覚です。ライブ配信はライバーの見た目の良さばかりに注目が行きがちなジャンルなんですが、Pocochaはユーザーそれぞれの個性やスキルを活かして、自分らしさを強みに活躍できる「居心地の良い場」を提供したいんです。それをPOCOTOMOを使って表現できるといいなと思います。
ーー 「共感」や「愛着」がキャラクター作りのポイントなんですね。「愛着」はデザインできるのでしょうか?
「愛着」についてはかなり詳しく分析しています。愛着ステージというものを独自に開発し、度々測定していますね。いくつか指標を作って、それに合わせて戦略を立てています。何が足りないか?何をすればいいか?効率よく伝えるためのクリエイティブはなんなのか?などを考え、コンテンツやアイテムに落とし込んでいます。
キャラクターごとの個性が分かるマンガやキャラ診断など、キャラクターをより良く理解したり、自分と照らし合わせたりできるコンテンツやグッズとの連動に挑戦しています。キャラクターの個性を知っていると「自分と近いかも」「この子を応援したい」といった共感が生まれるので、さらに愛着が深くなります。その辺も達成したい目標から仮説を立てて取り組んでいますね。
POCOTOMOのリリースからユーザーとの様々な接点を作って活動をしていますが、キャラクターへの愛着が増加しているようでした。
ーー 今後POCOTOMOはどのように展開していきたいと考えていますか?
まずはPococha ユーザーの友達になり、ライバーやリスナーの活動を支え応援する存在として定着させることです。それができたらPOCOTOMOが単独ブランドとして親しまれるようになって欲しいな、と思っています。企業から発信するキャラクターは、ブランディングやPRとしての意味合いが大きいと思われますが、愛着を起点として企業とユーザーとの関係構築の橋渡しができるはずです。
特に今はコンテンツとグッズの連動展開を考えています。グッズひとつでも、ストーリーがあることで思い入れの度合いが違ってくるし、見せ方もかなり考えています。いくらかわいいグッズを作ったとしても、その魅力を伝えないことにはモノの良さが伝わらないと思っているので。ぬいぐるみだったらさらに魅力的に見えるよう、きちんとプロップを揃えて撮影したり、PVを作ってみたり、見た人の「欲しい!」という気持ちが増加するようにコミュニケーションや見せ方を工夫しています。また、POCOTOMOのキャラがストレートにユーザーへ応援メッセージを送る「ポコエール」という直球型のコンテンツも開発し運営しています。こういった戦略や働き方には広告出身者としての知見が活かせていると思います。
デザイナー歴20年以上でもまだまだ成長できる 「デザイナーが先頭に立てる環境」
ーー 今後はどんなクリエイターやビジネスパーソンになりたいですか?
いろいろと考えますが、企業やサービスのオリジナリティ、「志」を伝えるためにロジカルに考え、共感でき、心を揺さぶるデザインでジャンプさせ、エモーショナルに伝えられるクリエイターになりたいですね。また、0からサービスや世界観を作り上げて社会に貢献したいという思いはクリエイター人生の中でも一貫していると思います。
職種は特に気にしてはいないのですが、総合的に物事を作るクリエイティブディレクターのような立ち位置が目標です。企画から全体の体験、クリエイティブをパッケージとして設計したいと思っています。ストーリーや共感をデザインすることは、これから先さらに重要視されると思うので。
ーー デザイナーから見る、DeNAの良いところはどこですか?
人間関係がフラットなところがいいと思います。立場や役職でなにかを制限されることが少ないです。「ユーザーのことを誰よりも考えられる人が偉い!」という文化があると感じています。
POCOTOMOやアイテムを作るときは、自分が社長になったつもりでやっています。(わがままの話ではなく、思いやりは持ちつつ遠慮はしないスタンス)会社のリソースを借りて、優秀な仲間たちと作り上げていく。会社に「使われている」と感じることはないですね。自分で考えて、やりたいことができる分、やりたいことをしっかり言葉にして周りを納得させることも必要なんですが。自分の考えを言語化できて、行動できる人にとってはとても充実すると思います。プロジェクトに取り組みながら学習も挑戦もできるので、自分の成長を感じます。特に自分はPocochaをやっている今が一番成長していると思います!
いまはVUCA時代と呼ばれ、先のことが予想できない時代です。そんな中でも、デザイナーの立場はどんどん上がっていくと思います。考えていることを可視化出来る人は事業促進にとても大事なので、デザイナーが先頭に立って指揮をしていくプロジェクトや会社がもっと増えていくはずです。それがDeNAではすでに実証されていて、デザイナーがビジョンを描いて挑戦していける環境だと思います。
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