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サステナビリティ先進企業紹介|外食産業のパイオニア、ワタミが描く幸せのカタチ(中編)

こんにちは。中編では外食産業のサステナビリティ先進企業である、ワタミ株式会社のサスティナブル目標と5つのSDGsタスクフォースについて、前半に引き続き百瀬さんにうかがったお話を紹介します。

公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美

※前編はこちら👇


サスティナブル目標と5つのSDGsタスクフォース

―—サスティナブル目標とKPI(Key Performance Indicators)はどのように設定されていますか?

百瀬さん:数値目標を掲げて、それに対して毎年KPIの達成状況をモニタリングしています。毎月会長や取締役など経営者層が全員出席するSDGs会議5つのタスクフォースのメンバーが進捗状況を報告しています。
 この会議では、タスクフォースがワタミのマテリアリティを実現するための事業本部を越えた組織横断のチームが、経営者層にSDGs目標を達成するための提言を行い、大まかな方針の承認を得ると、その後、事業計画にして戦略会議や政策会議で詳細を決めていきます。タスクフォースチームは各事業本部から事業本部長が選任したメンバーで構成され、会議での提言だけでなく実行部隊として決定事項を自分の部に持ち帰って実行します。
 2019年に始まった当初は、経営陣から厳しい言葉の嵐でしたが、最近ではタスクフォースチームの提言のレベルが上がってきて、お褒めの言葉をいただけるようになってきました。

5つのタスクフォースチームとそれぞれのKPI
SDGsに紐づくそれぞれのマテリアリティに対して5つのタスクフォースチームを編成、
KPIの達成状況をSDGs会議でモニタリングしている。

百瀬さん:タスクフォースとは別に、もう一つISO14001への対応を担うサスティナブルマネジメントチームがあります。「どうやって食品廃棄物を減らすか」や、「どうやって電気使用量を減らすか」といった環境負荷低減と、環境法令や労働基準法などの法律順守の課題に対して数値目標を掲げてPDCAを回しています。

 マネジメントチームは今の自分たちの仕事を改善していこうという「レスバッド」の考え方だとすれば、タスクフォースは今よりも良い状況のことを想定して、そこにどうやって持っていくのかという「モアグッド」の考え方です。
 タスクフォースは、マテリアリティをきちんと達成して、SDGs日本一になるために、「今よりも良い状況にしていきましょう、新しいことを始めましょう」という未来を考えるチームです。現在の課題ではなく、「今から7年後の2030年の状況を想定して考えないと、今の課題が7年後にも続いている可能性があるよね」、というような考え方です。

―—タスクフォースの活動成果を最大化するために、マネジメントチームの取り組みとあえて差別化することで、しっかり未来を見ることができるのですね。

RE100タスクフォースについて

―—RE100タスクフォ―スについて教えてください。

百瀬さん:再生エネルギー100%を目指して風力発電のメガソーラーへの出資・契約や、森林再生によるカーボンクレジットの創出に取り組んでいます。これはなかなか難しい挑戦で、現状再エネ使用率は10%程度ですが、将来、FIT[i] 終了後に風力発電の送電先として弊社への供給が決まっている分で、60%程度には高まるのではないかと見立てています。
 しかし、FIT終了後に風力発電やメガソーラーの機械が稼働しないリスクや、地方自治体が電気の地産地消を主張して地域外に電気が持ち出せなくなる可能性も考えられますので、現在は「自分たちで電気を自給自足する」ということへの挑戦に力を入れています。
ワタミは、1次産業、2次産業、3次産業をすべてやっている食品関連事業者なので、それらを繋ぎ、なおかつ再生エネルギー100%でやりたいという考えが元々あり、エネルギー調達に関しても、周りに任せていないで、自分たちでやらなきゃいけないという思いがとても強いです。


[i] FIT(固定価格買取制度)とは、再生可能エネルギー発電による電気を、電力会社が一定の価格・一定の期間で買い取ることを国が約束する制度のこと。電力会社が買い取る費用の一部を電気の利用者から賦課金という形で集め、今はまだコストの高い再生可能エネルギーの導入促進を図るねらいがある。

オーガニックタスクフォースについて

ワタミの有機農園

百瀬さん:有機農業の畑や牧場は約500haもあります。有機栽培で作った野菜は居酒屋でも出してはいますが、野菜は採ってすぐに使わなければならないため、例えば、レタスが10万個できても、すべては自社で消化できないのでスーパーなどへ卸しています。現在は自社で採れたものを自分たちで加工してお店や、お弁当にして売っていく方向で、オーガニック市場の開発を目指しています。

 最近のヒット商品は有機栽培のトマトを使ったカクテルや、北海道美幌町にある牧場で牧草のみを食べて育った牛の牛乳を使った、低脂肪・高たんぱくの「さっぱり味な」アイスクリームなどがあります。

北海道美幌町の牧場で作られるグラスフェッドアイス

 有機栽培で作った農産品は化学肥料や農薬由来のCO2が排出されず、牛に関しても、輸入品の穀物飼料を用いないことで脱炭素における環境配慮性が認められています。有機農業をやることの大きな目標はもちろん農業者やお客様の健康ですが、脱炭素や生物多様性にも貢献しています

 有機野菜とSDGsや環境経営は、これまでどう繋がっているのか分かり難かったのですが、タスクォースやマテリアリティで考えていくと、さまざまな成果や有効性のつながりが見えてきたという感じです。
 オーガニックは今まで食べる人の健康や農業者の健康に良いという点だけに注目してきました。最近は、そこに生きている生き物たちの命や、土壌そのものの健康など、地球や生き物たちの健康というより大きな貢献につながってきたのかなと感じています。

全国に広がるワタミのオーガニックファーム

食品ロス・リサイクルタスクフォースについて

百瀬さん:全国にはワタミのお弁当工場が5つ、冷凍食品の工場が1つありますが、そこで出る食品廃棄物を捨てないで飼料にリサイクルし、それを与えて育った鶏が産んだ卵をお弁当の材料にするという、食品リサイクルループを構築しています。店舗でも同じように、お客様の食べ残しで出る残飯や調理くず、余ってしまった材料などを飼料化、肥料化してお米や卵を作るのに利用し、それをまた買い取ってお料理にして出すというリサイクルループを作っています。
 事業から出る廃棄物の中で処理が一番大変なのが食品ですが、それをきちんとリサイクルできれば、将来ゼロエミッションを達成できるのではないかと思っています。

京都市でのSEF-Net

―—外食や小売は小規模排出店舗の林立が、廃棄物回収コストの高止まりを招き、リサイクルの課題となっていました。しかし登録再生利用事業者の認定を受けることにより、市町村の荷卸し地の許可を不要にして、一般廃棄物の越境運搬が可能となります。そうすれば企業が連携して廃棄物をまとめて回収業者に引き取ってもらうことが可能になり、回収業者も運搬効率が高まることから、事業者とのマッチングが成立しやすくなります。こうした取り組みはもっと広がるべきことだと思いました。

―—これまで紹介していただいた食品ロス削減やリサイクルのほかに、どのような取り組みをされていますか?

百瀬さん:例えば、以下のような取り組みがあります。本部や店舗のスタッフ全員がアイデアを出し合いながら、食品ロス削減に全力で取り組んでいます。

・食べない人が多い刺身のつま(大根)をオニオンスライスに変更することで食べ残しの廃棄を削減
・コロッケなどの単品オーダーもOKにすることで、人数分の食事を注文でき、食べ残しを防止
・食材の仕入れに関しても、計画的に仕入れて食材の廃棄がないようにする
・キャベツの葉などのどうしても出てしまう食品残渣はリサイクルして肥料や飼料に
・食品を捨てないためには、まずはごみの分別と計量による原因調査が大事。そのために計量器の全店導入を計画中。

ワタミ店舗での食品ロス削減の取り組み例

人権方針タスクフォースについて

―—人権の問題についてはどのように取り組まれていますか?

百瀬さん:ワタミは以前ブラック企業と揶揄された時期があります。未だに「ブラックでしょ」と言われるのですよ。じゃあ何が問題だったのかということをまず知ろうということで、人権デューディリジェンス[i]を行った結果、ワタミだけではなくワタミのサプライヤーの人権についても尊重しなければいけないということになりました。
 例えば、水産業は未だに厳しい労働環境があると言われており、ワタミでは仕入れた水産物がきちんと人権が尊重された漁船で獲ってきたものなのかということを、大規模なサプライヤーに対してはヒアリングを行っています。
 また、サプライヤー様約200社にアンケートを取って、サプライヤーガイドラインを作成し、ワタミの人権方針を説明しながら、そのサプライヤー自身に加え、サプライヤーの相手先や、相手先の仕入れ先、生産地などにも同じように人権尊重をしていただけるかということについて対話を行っている最中です。

ワタミグループのサプライチェーン上の人権尊重の取り組み

[i] 企業がサプライチェーン上を含めた事業における人権リスク(例:強制労働など)を特定し、その防止・軽減を図り、取組みの実効性や対処方法について説明・情報開示する、という一連の行為を指す。

―—大手サプライヤーさんとのやりとりの中で何か感じたことはありましたか?

百瀬さん:大手さんでも本当にサプライチェーンの人権について全部把握されているかというと、実は難しいことだと思いました。特定の商品やサプライチェーンの一部、原産地は大丈夫ということがわかっても、1次加工、2次加工、輸送のサプライチェーン全体で人権が尊重されているかを把握することはまだまだできていないと聞きました。

―—そうなのですね。ワタミさんの取り組みにおいて、特に原産地を抑えるということは特にしっかりやっていこうというお考えですか?

百瀬さん:そうですね。ただ、原産地を押さえるにしても現地に100人体制で見に行ったりすることはできません。間に入っている商社や卸、1次加工メーカーと協力してやっていくしかないので、サプライヤーガイドラインは大事なのかなと思っています。それを活用して、自社が1つ前のサプライヤーに対して責任を持つということが重要です。

 これは、人権だけではなくて、当然CO2や生物多様性の問題にも言えることですが、「サプライチェーン上で問題がない」という確認はなかなか難しいです。
 CO2についても、スコープ3は自社で出すものよりも、他社から調達した商品に関係しているものがすごく多いです。自分たちが再生エネルギー100%にしたところで、サプライチェーン全体での排出量の10%くらいしかCO2は減らせないということがわかりました。
 どこを減らさなければいけないのかを考えたときに、仕入れる製品からの排出を減らさなければならない。そうすると、1つ前のサプライヤーが1つ前のサプライヤーに責任を持たないとCO2削減はできないということになります。

―—なるほど、サプライチェーンの実情把握やマネジメントが大きな課題ということですね。

―—さて、2024年度は人権方針タスクフォースではどのようなことに取り組む予定ですか?

百瀬さん:農業や製造業、外食産業など、ワタミモデルの各業態固有の人権に関する課題の調査と改善の仕組みづくりに取り組む予定です。
 例えば、残業について、農業ではレタスの収穫は朝の3時や4時から行います。その収穫の繁忙期はどうしても時間外労働が起きることや、工場では機械の不具合があった時には本人の仕事の段取りにかかわらず時間外労働を行う必要があることなどを想定しています。
 他にもハラスメントの問題など、業種によってきっと違う要素があるのではないかということで、事例をたくさん集めて、業種別の課題抽出をする予定です。
 タスクチームが調査研究をして、経営層がその報告を受けて方向付けをし、対策を打ち、その効果測定を行うというPDCAを回すことを人権問題でもやっていきたいと考えています。
 また、サプライヤーに関しても、サプライチェーンごとに固有の事情があるのかどうか、アンケートやダイアログを通してより深くかかわっていった方がいいのではないかと思っています。

写真右:ワタミ株式会社・百瀬さん 左:公益財団法人流通経済研究所・寺田

※後編では、サステナビリティ推進と社員のウェルビーイングについてうかがったお話を紹介します。

サステナビリティ取り組み企業の紹介 その他の記事はこちら

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