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海外最新事情にみる小売業のデジタル活用の方向性

こんにちは。小売業のデジタル活用が世界的に進展しています。『流通情報』では、ヨーロッパ、アメリカ、中国の注目事例、成長戦略を分析し、日本の消費者に適した小売業のデジタル化の方向性を探っています。
ここでは、そのポイントを紹介します。


「海外最新事情にみる小売業のデジタル活用の方向性」のポイント

欧米中における小売業のデジタル活用事例を紹介
[欧州]
独Metro、伊Coop、英Ocado、Dark storeの事例
[米国]ロボット配送、BOPISの動向
[中国]WALMART中国の戦略転換

「海外最新事情にみる小売業のデジタル活用の方向性」をもう少し詳しくご紹介します

(公財)流通経済研究所 客員研究員/玉川大学 教授
神谷 渉
(『流通情報』3月号「特集にあたって」より一部加筆)

 小売業のデジタル活用は拡大しているが、その様相は国や地域によって異なっている。本特集は「海外最新事情にみる小売業のデジタル活用の方向性」と題し、世界的に進展する小売業のデジタル活用の事情を確認することで、日本の消費者に適した小売業のデジタル化の方向性を探ることを企図している。
 EC の拡大やDX のようなワードに代表されるデジタル化の進展はコロナ禍を契機として加速した。しかしながら、ポストコロナの現在、街中での人流が回復するとともに、店舗への来店客も増加し、EC や店舗のデジタル化の流れが一服したようにも見える。一方で、日本では物流や小売業における人員不足の問題など、顕在化しつつある問題にデジタルを活用しようとする動きもみられ、ポストコロナ時代においてデジタル化にどのように対応すべきか、海外の動向にも着目する必要があるだろう。このような背景から、本特集では海外小売業のEC や店舗のデジタル化の動きについて有識者に寄稿いただいた。

○欧州での小売業のデジタル活用の方向性

PwCコンサルティング合同会社
シニア・アドバイザー 矢矧 晴彦

 英国の小売業のEC について取り上げられている。いくつかの英国での現状を示すデータも興味深く、特にEC におけるAmazon のシェアが高いものの、食品小売業のSainsbury’s が買収によって非食品のEC 事業を拡大させているなど、英国におけるEC の構造的な変化にも注目したい。また、グロサリーEC におけるダークストア(店舗の配送拠点への転換)と、店舗としての機能を維持した配送拠点であるマイクロフルフィルメントセンター(MFC)の取り組みについて触れられている。
 日本では大手食品小売業を中心にネットスーパーのセンター化が改めて進みつつあるが、その成否を考えるうえで英国のグロサリーEC の状況や進化の過程を理解しておくことが大切であろう。また、英国においても、コロナ禍の特需の終焉により投資が長期化していること、ポストコロナにおいてラストワンマイルでの人材不足の問題が深刻化していることが示されており、このような課題に今後英国の小売業やEC 事業者がどのように対応するのかも注目される。

○イギリスにおけるネット通販とオンライングローサリーの発展

流通経済大学 流通情報学部 教授
林 克彦

 欧州の小売業のデジタル化について取り上げられている。欧州では米国に対する複雑な感情も相まって、米国のように必ずしも前のめりでデジタル化は行われていない点が指摘されている。また、欧州の中でもフランスと英国の違いなど、国による小売業のデジタル化に対する意識の違いについて触れられていることも興味深い。最後に示されている、欧州小売業がデジタルなどの流行をあえて経営の中心に入れず、あくまで顧客への提供価値に注目するというぶれない経営を行っているとの指摘は、日本の小売業への提言として示唆に富んでいる。
 ただし、デジタル化を経営の中心においていないとは言え、欧州でデジタル化が進展している領域を見逃さないことも大切である。本論文で紹介されたTesco のピッキングシステムの基盤が、Tesco のグロサリーEC の優位性につながったとする指摘や、Ocado の設計思想など参考になる部分も少なくないだろう。

○アメリカ小売業におけるラストワンマイル効率化への取組

(公財)流通経済研究所 客員研究員/玉川大学経営学部 准教授
矢野 尚幸

 米国におけるラストワンマイルの取り組みに焦点を当てている。米国では、BOPIS(Buy Online Pick up In Store)が拡大し、コロナ禍によって定着しているとの指摘がなされている。ポストコロナによってBOPIS に対する需要も減少するかと思われたが、米国ではEC の利便性を享受しつつ、配送費を削減する手段として消費者に受け入れられている点が興味深い。BOPIS の定着化に伴う、サービスのチェーン間競争について指摘されている点も注目したい。
 また、本論文ではロボット配送にも触れられている。まだロボット配送の本格的な展開には課題もありそうであるが、簡単な配送や用途を限定した配送などへの活用の可能性が示唆されている。道路幅が広く歩道も整備された米国でも課題は少なくないため、道路幅の狭い道が多い日本ではドローン配送を含め、どのような手法での無人・省人力配送が可能か、今後も試行錯誤が続きそうである。

○ウォルマート中国の戦略転換とダークストアの展開

(公財)流通経済研究所 特任研究員
李 雪

 中国の小売業のデジタル化について取り上げられている。中国ではアリババ等のプラットフォーマーが中心となり、EC が浸透している。その結果、大型店に対するニーズは急速に縮小しており、大手チェーンにおいても店舗閉鎖が拡大し、業績も悪化している。本論文では、そのような状況に果敢に対応している小売業として、ウォルマート中国を取り上げ、彼らのドラスティックな変革に焦点を当てている。特にウォルマート中国が変革によって2019年には10%程度であったオンラインの売上構成比が2023年には約半分になったという点には驚かされる。JD(京東)との連携によるEC の強化に加え、コストコ型の会員制店舗(サムズクラブ)に重点を移すといった、ウォルマート中国の施策自体についても、日本において参考となる部分が多いだろう。

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