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(6/20)「デカルトのパロディのような懐疑論者への批判」〜スピノザ『知性改善論』ゼミ(@ソトのガクエン)レポート#6

みなさま、こんにちは。ソトのガクエンの小林です。
6月20日(木)に実施されましたスピノザ『知性改善論』ゼミ(佐々木講師)6月第3週目のレポートです。


今回は、講談社学術文庫版で38ページ、第43節から読み進めました。ここでは、スピノザがこれまで述べたことに対して想定される反論について、スピノザ自身がそれぞれに応えていく形で議論が展開されています。

第43節〜45節で想定される反論は、私たちは真の観念を与えられ、これを出発点としていると(スピノザは)いいながらも、これを推論によって立証しようとしているのは、「それが自明でないことを示しているように見える」というものです。これに対してスピノザは、真理と正しい推論を立証する場合、真理自身と正しい推論以外のいかなる道具も必要ないのだから、「正しい推論を正しく推論することによって、その正当性を確認してきたし(略)これを立証しようと努めている」(39)と応えます。佐々木講師はこの部分は考えれば考えるほど難しいとしつつ、しかし、スピノザとしてはこれ以外に言いようがないと言われていました。むしろここで個人的に感じたことは、こうしたスピノザにとって自明の事柄を前に、なぜ私たちは、真理と正しい推論のみで満足できないのか、なぜそれら以上のものを欲してしまうのかということでした。真理というものが成立するためには、世界と(命題を区別した上で)の対応が必要と考えたり、他の人々との討議的コンセンサスが必要であると考えてしまう私たち自身の先入見を指摘されているかのようです。

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また、今回読んだ箇所で、個人的に興味深かったのは、第47節(41ページ)から展開される、懐疑論者に対するスピノザの徹底的な批判でした。スピノザによれば、懐疑論者はすべてを疑い、すべてを否定するわけですから、自分が何かを肯定したり疑ったりするときも、自分が肯定しているということも、疑っているということも知らないと言わざるをえない。また彼らは、何も知らない(と思考している)あいだに自分が実在することを認めてしまうのではないかと危惧するので、彼らは知っているとも、知らないとも、はっきり言い切ることができない。よって彼らは「真理のにおいを放つ何ごとかを図らずも認めて」しまわないよう「口をつぐまざるをえない」ことになる。そのくせ、彼らは、日常的な生活では、「必要に迫られて自らが存在することを前提とし、また自らを利するものを求め、申し合わせて多くのことを肯定し否定することを強いられている」(41-42)。よって、彼らとは学問に関して議論すべきではない(しても時間の無駄ということでしょうか)。これがスピノザの回答です。

この箇所を読んでいると、まさにデカルトの『省察』に出てくる議論のパロディのように思えてきます。「何も知らない(と思考している)あいだに自分が実在する」というのは、まさにデカルトが「(我)存在する」という真理を発見するときのロジックですし、また、デカルトは、人は、哲学をするときのみ方法的懐疑の態度で臨み、一旦、哲学的思考から離れた際には、自分が生活している社会の常識や慣行に従って生活すべしと勧めていますが、まさにスピノザがここで述べている懐疑論者は、これとは全く逆のことをしてしまっており、哲学と日常生活の区別ができていない者として描かれているように思います。『知性改善論』のいたるところに、こうしたデカルトへの当て擦り(?)のようなものが見えて面白いですね。

この他には、スピノザの場合は肯定と否定をする能力を持つ主体は存在せず、意志する主体は神であり、感覚する主体は精神であるという議論や、スピノザにおける誤謬の問題、17世紀哲学に出てくる神は何を指しているのかといった疑問等々、テキスト読解を超えたさまざまな論点について、今回も、佐々木さんと参加者の方々とのやりとりの中で議論が展開されていました。

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さて、次回は6月27日(木)22時からです。『知性改善論』(講談社学術文庫)43ページの第50節(B50)から読み進めていきます。現在、ご参加いただいている方の多くは、最近哲学を勉強し始めたという方ばかりですし、どのような質問・疑問もお聞きいただけますので、ぜひ、お気軽にお越しください。お申し込みはPeatixをご利用ください。みなさまのご参加お待ちしております。


【お知らせ】
7月分の参加者募集が開始されました!Peatixからお申し込みいただけます。哲学書に挑戦してみたい方、深く哲学書を読む方法を知りたい方、哲学的発想や考え方を身に付けたい方におすすめのゼミです。ぜひお気軽にお越しください。


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ソトのガクエンの哲学思考ゼミにご参加いただきますと、月額制で、佐々木講師担当の古典ゼミだけでなく、基礎ゼミ、シネマ読書会、表現スキル思考ゼミ、大学院進学情報&原書ゼミにもご自由にご参加いただけます。ゼミメンバーであれば、これまでのゼミのアーカイブをすべてご覧いただけますし、専用Discordにて他のメンバーの方々とも交流していただけます。
哲学思考ゼミのメンバーも随時募集しておりますので、興味おありの方は「哲学思考ゼミ」のページをご覧いただけますと幸いです。

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