(6/6)「理性的に知ること=記憶喪失になること」ースピノザ『知性改善論』ゼミ・6月初回レポート#4
こんにちは、ソトのガクエンの小林です。
6月6日(木)、佐々木講師によるスピノザ『知性改善論ゼミ』の6月分がスタートいたしました。今回も、前回から引き続き15名ほどの方にご参加いただきました。ありがとうございます。
今回は、『知性改善論』(講談社学術文庫)22ページから読み始めましたが、それに先立ち、直前のページを参照しつつ前回の議論を再確認することから始まりました。また、前回の参加者の方からあったデカルトとスピノザの関係についての質問、「スピノザは、知覚することの諸様式の分類から開始するのはなぜか?とりわけ、デカルトの歩みと(とても似ているが)違いはあるのか?」という質問を取り上げ、佐々木さんはこう答えていました。スピノザの場合は、真理を探究するプロセスに伴って、私もまた変様すると考えている。これに対し、デカルトの場合は、真理の探究は知識の発見・蓄積であって、これによって私は変様しません。ここに両者の違いがある。さらに、スピノザは、デカルトと自らの思想的差異を補うために、別の思想家を参照していること(アリストテレスなど)も指摘されていました。
さて、ここから実際にテキストを読んでいきます。今回も佐々木さんは、一見すると見落としてしまう語句に着目し、その意味、そして、スピノザ哲学全体におけるその位置付けを丁寧に説明し、読解を進めていきました。例えば「自分の師から証明抜きで伝え聞いたままの手続きをいまだ忘れずにいる」(26頁)という箇所にある「忘れる」(oblivisci)というラテン語に着目し、普遍的な公理を形成することは、過去の認識の仕方を忘れてしまう、すなわち、理性的に知るということは記憶喪失となることに近いとする、ズーラヴィチヴィリの研究書を紹介されていました。
フランソワ・ズーラヴィシヴィリ(François Zourabichvili 1965-2006)の二巻のスピノザ本のうち、とりわけ後者の『スピノザの逆説的保守主義』が紹介されていました。
Spinoza. Une physique de la pensée, Paris, Presses universitaires de France, coll. « Philosophie d'aujourd'hui », 2002.
Le conservatisme paradoxal de Spinoza. Enfance et royauté, Paris, Presses universitaires de France, coll. « Pratiques théoriques », 2002.
いずれも未邦訳ですが、ズーラヴィシヴィリのドゥルーズ本は邦訳があります。『ドゥルーズ・ひとつの出来事の哲学』(小沢秋広訳、河出書房新社)
また、算術比(2, 3, 4)と幾何比(2, 2√2, 4)の違いから、前者はアナロギア(類比)であり、トマスからデカルトのへと至る存在の類比性に連なるものであるのに対し、後者は、存在の一義性、全体にも部分にも共通している共通概念につながるという議論を紹介されていました。ちなみに、佐々木さんは、企業との企画予算を計算するときに幾何比を利用したことがあるそうです(成功しているか否かはわかりませんが、と言いつつ)。
このあたりのスピノザにおける"Proportio"についての問題は、佐々木さん自身が『共生学ジャーナル』2022年号に、論文(「スピノザ『エチカ』における共通概念の対象 ― Proportio の概念史的な含意―」)を寄せているので、こちらも参照ください。
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/86426/ksgj_006_058.pdf
さて、参加者の方々からの質問や議論では、死体になることなく「死ぬ」ということとは何か、私たちが苦しいのは悲しみの記憶であること(映画「エターナルサンシャイン」に言及しつつ)、子供が大人に成長すること、コナトゥスと死、未来に対する今の私の変様について等々、スピノザにおけるさまざまな論点について、佐々木さんと参加者の方々との間でとても興味深い議論が繰り広げられていました。
次回は、6月13日(木)22時からです。その場で皆さんで実際に読みつつ、佐々木さんの丁寧な読解と解説を聞くことで、テキストを深く理解することができます。ひとりで本を読むのとは全く違う読書体験をしていただけると思います。どなたでもご参加いただけますので、ぜひお越しください。
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