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#6 雨下の迷い者たち

 水色のふわりとしたレインコートをかぶり、黄色い長靴を履き、手には杖と、もう片方の手には青色のじょうろを持っている。ありえないことが起きているってことだけはわかった。まるで、ヒーローの変身シーンのようだ。
 シユは杖で地面に円を描き、その真ん中に立つ。それから足元にじょうろで水をたらし、こう叫んだ。
「レフヨメア! レフヨメア!」
その瞬間に、目の前が薄暗くなった。どこからともなく、雨の降る前のにおいがする。そしてシユが両手を広げると、ぽたぽたと雨が降ってきた。
「すご!」
思わず声に出る。何も考えられないくらいに、びっくりした。本当に、雨が降ってきた! 
「ふふん。これが雨ふらしの力! こういうのは血筋が大事なやつだから、アメヨミでもできないんだよ!
 やってることはごく単純だからね。昔から変わらず。雨乞い師がやってるのは、禁忌をおかすか、空の神様に、自分たちの今理想とする状態を伝えること。そのために、火を焚いて煙をおこして雲に見立て、水を振りまいて雨に見立て、太鼓の音で雷を表現するとかは、簡単な例。実際、今あたしがやったことも、じょうろで雨を降らせてほしいってのを表現したの」
テンが胸を張ってにこやかに見上げてくる。自慢げで、子供っぽいその姿から、さっきの超能力を使った少女なんて想像できない。
「おテンさまー!」
そのとき、下の方から声がした。びっくりして足元を見ると、なんとかえるやら、カタツムリやらが集まってきて、僕たちの周りを取り囲んでいる。シユはいつのまにかもっていた傘を僕に差し出してから、こう言った。
「わーみんなひさしぶり!」
シユはしゃがんで、かえるやらカタツムリやらとふつうに話をしている。傘をさしながら、僕は、そういえばかえるとかカタツムリって話せたのか、と思った。すごく自然で全然違和感なかったけど、それっておかしいことだよね? 
テンはかえるたちの方を向きながら、僕に向かってさっきの話の続きをし始める。僕はその前に、とてもいいアイデアが浮かんでしまった。
「まあ、でも最近は、雨降らす仕事はほとんどなくて。それより」
だからその言葉をさえぎって、僕は叫んでいた。
「ねえ! 僕の願い、かなえてくれない?」

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