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#8 雨下の迷い者たち

 理科室の中は、異空間だった。
 ものづくり部は、見たところ五、六人しかいない(不良のような恰好の人はいないようだ)。そして、その人数以上に、たくさんの機械が置かれていた。
 ロボットがお茶を運んでいたり(メイド服を着ている)、ペットロボットがウールにちょっかいをかけていたり。飛行機のはねみたいなのを作っている人もいれば、ドラマでしか見たことないようなマスクをつけて、火花を散らしている人もいる。ビーカーの中のカラフルな液体も、けむりをぷかぷかふかせている。
「こ、これ……」
昼間の理科室と雰囲気全然違う。いつの間にか、アニメでみる発明所のような異空間に僕は立っているようだ。しばらく、ぽかんと口を開けたまま、それを閉じることができなかった。
「あ! オキャクサマ!」
遠くでそんな声が聞こえたと思ったら、猛スピードでこちらにかけてくる少女がいる。カタカナのオキャクサマを言ってやってきた子は、僕のクラスメイト、雪口メイクだった。長くてくるくるした髪の毛をかきあげて、目はぱっちりと大きく、まつげはくるんとしている。見た目はギャルのようだが、性格は「ド」が百個くらいつく不思議ちゃんだってことをクラスメイトは知っている。ちなみに、この子がイチゴ先生の名付け親だ。
「あら、ユー氏とかわよいコウハイちゃんね!」
にこやかに対応するメイク。メイクって、ものづくり部だったんだ。しかもなんだかこの感じ、部長な気がする。
「先輩、ものづくり部って、なんでも作れるんですよね?」
なんでも、を強調し、挑戦的な目を向けるテン。その姿に一瞬あっけにとられたかのように見えたメイクは、ふふふ、といたずらっぽく笑う。まるで、挑戦状を手にした探偵のようだ。
「もちのろんだよ。うちはなんでも作ってるの! 人が飛べるようになる羽とか、宿題代行ロボットとか、走るとき筋力を強化するサポーターとか! 行事の時に借りる人が多いのはレンタル彼氏とかかなあ、我のタイプを存分に表現したちょーイケメンが勢ぞろいしてるから」
「だったら、雨を降らせる機械って、作れますか?」
メイク(先輩)の言葉をさえぎって、そう口にするテン。メイクはまた、一瞬あっけにとられ、でもすぐににこやかに笑う。
「あー、そーゆー科学的なのだったら、イズ氏かなあ……。ちょい! イズ氏こっち!」
メイクが「イズ氏」と呼ぶと、背丈がテンとほぼ変わらないくらいの小さな男の子が出てきた。灰色の目と髪の毛をしていて、男の子には珍しく、大きなたれ目をしている。テンがこそこそと耳打ちしてきた。
「この子、出雲テルくん。あたしのクラスにいる子。なんか、日を重ねるごとに色素が抜けていってるらしいよ」
どゆこと、とつっこんでから、イズの方を向く。確かに、目も髪も、薄い色してるな、と思った。
「イズ氏ぃー、この子たちがな、なんか雨降らす機械が欲しいんだとよ」
「え」
メイクの声に、こっちがびっくりするくらいびっくりするイズ。表情はあまり変わらなかったけど、目を思いっきり見開いている。
 一瞬の沈黙。なんでそんなびっくりするのか聞こうと思った瞬間、メイー! と別の生徒に呼ばれ、メイクは言ってしまった。その声が沈黙を破り、イズが話し出す。
「それ、誰から聞いたの?」
見た目の通り、男にしては高い声をしている。
「え、誰からって、あたしたちの依頼なんだけど」
「そ、そうだよね、いやあのね、その依頼、ほかの子からも受けてたから……」
語尾をにごして下を向くイズ。隠していることがあるのか、ただシャイなだけなのか、これだけではわからない。
「え?」
「あ、ううん、なんでもないよ。じゃ、じゃあ、ちょっとまっててね」
隠れるように向こうに行ってしまったイズ。イズの態度も気になったが、それよりもさっきからこの教室に漂うにおいも気になる。このにおい、どっかでかいだことあるんだよな。

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