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#9 雨下の迷い者たち

「なんか、イズくん変だったね」
理科室から出て廊下を歩きだす。テンは少し後ろを振り返ってから、あーあ、と疲れたように声を出した。
「いつもはさ、優しくて、おとなしい子だよ、見た目通り。いつもみない焦り方だったなあ。ていうかなに! 雨降らせたいなんて人、あたしたち以外にいる⁉ そうならあたしに頼んでくれたら一瞬なのにい」
ぶつくさと文句を言うテン。まあまあ、と今度は僕がなだめる。
「あ、ユウくん!」
その時、昨日の、それこそほんとに晴れのような、お日様のような声がした。この声はスイだ。一瞬にして僕の心臓が跳ね上がった。まだ話すのなれないんだよな。でも、ちらりと横を向くと、、テンの顔がこわばっているのが分かった。そっか、スイは、ハレノト、だっけ? こんな明るい子が怖いって、よくわからないな、と思いつつ、かばうように一歩前に出る。
「こんなところで何しとんの?」
スイがそう聞く。確かに、放課後にこんなとこに用事がある人なんて、ものづくり部員か、そのものづくり部に依頼のある人だけだよなあ、と思った。それくらい、人気がない。
「いや、なんでも」
答えをそうはぐらかす。いいウソが思いつかなかった。それに、スイには会いたかったけど、今会うのは少し複雑だ。もしかしたら僕、伴奏断るかもしれないのに。
「あ、そだ。ねえねえ、合唱聞きに来てみーへん? 一回」
「ああ、うん」
どきどきしていると、うまく頭が回らない。脳が全部、僕の心臓の音に集中しているみたいに、それ以外のことに集中できなくなるのだ。だから、何もわからないままうなずいてしまって、少し後に後悔した。行きにくいけど仕方がない。
「あなたも来る?」
スイが少し目線を下げてそうテンに話しかける。
「い、いえ、ダイジョブですので! よ、用事がありますので!」
テンは明らかに焦りながら、ものすごい勢いで走っていく。はや。スイと一緒にテンのことを目で少し追った後、顔を見合わせる。
「そっかあ、感想は多い方がいいのに。まいっか。来て! 音楽室!」

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