ゲストハウスを綴る旅 / ゲストハウスガイド 前田有佳利 reasons why we travel
旅とは、いったい何なのだろう。
地元である和歌山に暮らしながら、年間の3分の1を県外で過ごす私の日々に、旅という言葉を当てはめていただくことは多い。でも実は、当の本人は、その正体をつかめずにいる。仕事とプライベートの境界線が曖昧なせいか、どこからが旅でどこからが旅じゃないのか、お尻と太ももの境目みたいに区別が付けられないのだ。
ただ、ひとつだけ確実に言えるのは、私にとって、そこに必ず「ゲストハウス」という存在があるということ。だから、お題を「ゲストハウスに行く理由」と恐縮ながら勝手に置き換え、思いがけずゲストハウスガイドという今の職業に至った私の原点となる9年前の出来事から話を始めたい。
初めてゲストハウスを訪れたのは、2010年のクリスマス。地元を離れ、大阪の広告会社に勤めていた当時、職場と一人暮らしの家をただ往復する毎日を送っていた。ある日、仕事で行き詰まってしまい、「とにかく普段とは違う場所に行って、普段とは異なる人たちの感覚に触れてみたい」と思った。
そこで、シェアハウスに暮らす友人のもとを訪ねてみた。その友人のシェアメイトから後日、「きっとあなたのイメージに合うはず。一度行ってみるといいよ」と勧めてもらった場所が、東京都台東区の入谷駅近くにある「ゲストハウスtoco.」だった。
東京では珍しい築約90年の古民家を改装した「ゲストハウスtoco.」
Living&Barスペースでは、職業や年齢、国籍の異なる人たちが「どこから来たの?」という言葉でゆるやかにつながっていた。初対面だからこそできる会話があり、日常を忘れながらも、日常に通ずるヒントに遭遇する。そんな居心地のよい空間を、たった1歳上の人たちがつくっていた。ただ純粋に「ああ、きっと私、ずっとこういう場所に出会いたかったんだ」と痛感し、一目惚れをした。
いつか自分もこんな場所をつくりたい。でも今すぐ会社を辞めるのは逃げでしかない。だったら将来のために、平日は仕事に打ち込んで、週末はゲストハウスについてもっと学ぼう。そんな思いで、私のゲストハウスめぐりがはじまった。
金曜の夜行バスで向かった、長野県善光寺の近くにある「1166バックパッカーズ」
同時に、備忘録としてゲストハウスに訪れたことをブログに綴ることにした。最初は、「素敵だった!」「楽しかった!」といった小学生のような感想と、買ったばかりのミラーレスのカメラで撮った写真を載せる程度だった。しかし、だんだん、運営者の考えに惹かれ、開業の経緯や思いを聞いて綴るようになっていった。
これがのちに、現在の生業をつくる看板サイト『ゲストハウス紹介サイトFootPrints』となり、5年後には『ゲストハウスガイド100 - Japan Hostel & Guesthouse Guide-』を出版させていただくことになるとは、発信をはじめた2011年元旦には微塵も想像できていなかった。
2016年7月、ワニブックスから出版。のちに韓国語と中国語に翻訳される
情報を発信するうちにアクセスが増え、「FootPrintsを見て、ゲストハウスに行きました!」と言っていただく機会も増えた。世の中にはゲストハウスについてもっと知りたい人がいるのだと気付かされた。
そして次第に、自分の中にあった「いつか自分もこんな場所をつくりたい」という思いは、「過去の自分に手紙を送るように、こんな場所があると伝えたい」という思いへと変わっていった。その後、会社を辞めて地元に移住し、紆余曲折を経て、ゲストハウスやまちづくりに関する情報を扱う仕事を始めた。
そうやって、選びたい手段は「つくる」から「伝える」に変わった。いつか戻ったり別の何かになったりするかもしれない。だけど、いずれにしても、選びたい目的は変わらず「暮らしの選択肢を広げるきっかけを届けたい」なのだと思う。
岡山県にある「KAMP Backpackers Inn&Lounge」で「ローカルクリエイター交流会」というイベントを開催させていただいたことも
最近では、過去にお世話になった人たちと交わした「また会いましょう」や「今度はあなたのまちに会いにいくね」といった、いつかの約束を少しずつ叶えることが、私がゲストハウスを訪れる理由の1つになりつつある。
だから、「はじめまして」も「おひさしぶりね」も含め、普段とは違う場所に行って、普段とは異なる人たちの感覚に触れること。その出会いが、「自分自身」や「他の誰か」の暮らしの選択肢を広げるきっかけになっていくこと。
それがきっと私にとって、旅と呼ばれるものであり、旅をする理由なのだろう。
【プロフィール】
前田有佳利
全国150軒以上のゲストハウスを旅する編集者
2011年元旦より「ゲストハウス紹介サイトFootPrints」を運営。2016年7月に書籍『ゲストハウスガイド100 -Japan Hostel & Guesthouse Guide-』を出版。2017年8月より大正大学の月刊誌『地域人』でゲストハウスの紹介コラムを連載。2018年2月よりMotionGalleryとの共同企画「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-」で、毎月各地のゲストハウスでイベントを開催する。2014年4月に地元・和歌山へUターン後、フリーランスで「noiie」という商号を掲げ、執筆・編集・企画などの役割で複数のプロジェクトに携わる。
ゲストハウス紹介サイトFootPrints
著書:『ゲストハウスガイド100 - Japan Hostel & Guesthouse Guide』(ワニブックス)
瀬戸内への旅の玄関口
福山駅前のまちやど「AREA INN FUSHIMICHO FUKUYAMA CASTLE SIDE」
●公式Webサイト
住所:伏見町4-33 FUJIMOTO BLDG. 1F(RECEPTION)
AREA INN FUSHIMICHOは、まち全体をひとつの「宿」と見立てた「まちやど」です。泊まる、食べる、くつろぐ、学ぶ、遊ぶ、さまざまな要素がまちのなかに散りばめられています。チェックインを済ませたら、伏見町、そして福山のまちから瀬戸内への旅へ。