見出し画像

【論文紹介】「攻撃パターンを自動的に発見してみた」【プレミアリーグ】

はじめに

データマイニング分野のトップカンファレンスであるKDDに採択された論文から、我らが愛するサッカーに関するものをまとめよう企画!第2弾の今回は、ベルギーのルーヴェン大学とオランダのスポーツデータを扱うSciSports社の方々が共著で執筆した「Automatic Discovery of Tactics in Spatio-Temporal Soccer Match Data」というタイトルの論文です。

(ちなみに第一弾の前回は「パス成功率って、そのままでいいの?」)

論文タイトルを意訳するならば、今回の記事の見出しにしている「攻撃パターンを自動的に発見してみた」といったところでしょうか。モチベーションとしては、カオスなスポーツであるサッカーのデータから各チームの攻撃パターンを自動的に分類・可視化して、サッカーファミリー全体をハッピーにしましょう!という具合になっています。実験ではプレミアリーグ15/16シーズンの全試合のデータを用いており、例えばマンチェスター・シティのデータから以下のような攻撃パターンが自動的に発見できました。(赤点が攻撃の開始地点で黒線がボールの通った軌道)

この攻撃パターンは右後方からボールの前進が始まっており、中盤を経由して左のウィングへボールを配給後、直接のシュートやクロスからのシュートで攻撃が終わっています。実際にこのシーズンではペジェグリーニ監督がデ・ブルイネを右にシルバを中央に、そしてスターリングを左に配置しており、この面々が下記のような攻撃を再現性を持って繰り返していたことがわかりました。

論文の具体的な手法

はじめにイントロダクションではサッカーのデータ活用に関する難しさが3点記されていました。

(1) 重要なパターンは時空間的な要素をもつ(ピッチ上の場所、タイムスタンプや順序)
(2) 同じような条件がほとんどない(同じ選手が同じ場所で同じ時間帯に同じプレイ)
(3) サッカーに対する豊富なドメイン知識がある(どのイベントが重要か、など)

上記の課題を克服するために、本論文の手法は以下の5つの手順を踏みます。

1. どちらがボールを保持しているかで、試合をphaseに分割する
2. phaseを各種特徴によりクラスタリングする
3. それぞれのクラスタをシュート数に基づきランキングする
4. 各phaseに注釈をつけるため、パターンマイニングを行う
5.  それぞれのパターンをランキングする

実験結果

手法の説明は以上のシンプルなものにとどめて、面白かった実験結果をまとめてみます。まずはアーセナルの上位12個の攻撃パターン(クラスタ)を以下に示します。右上や2段目中央のパターンではGKのゴールキックから丁寧にボールを繋いで前進しているのに加えて、多くのシュートを放っていることから、アーセナルのプレーモデルがデータからも伺える結果となっています。

また、手法の手順4. によって得られる各攻撃パターンに対する注釈情報の結果を以下に示します。上記の攻撃パターン(クラスタ)に付与された注釈情報なのですが、3rd Clusterに代表されるように、中盤のゾーンでのパス交換を多く行なっているという結果になりました。

次は論文中にアーセナルと対照的なチームとして示されていた”ミラクル”レスターについての実験結果をお見せ致します。面白かったのは最上段中央の攻撃パターンで、右サイドからゴール前へ黒い線が描かれており、右サイドにいたマフレズが起点となったものになっています。また、下の注釈情報の結果(2nd Cluster)を参照すると、その多くのパスやクロスが直接的にボックス内に届けられており、最後はシュートで終わっていることもわかります。”ミラクル”レスターのハイライトでよくみたマフレズ→ヴァーディーですね。

まとめ

論文中では統計的な指標とともに、他にもいくつかの実験結果がありましたが、今回はここまでにしたいと思います。この技術のアプリケーションとしては、アナリストののビデオ分析とそれに伴う相手の戦術特定の作業の代替であったり、ハーフタイムでのスタッツ情報の改良ができるのではないかと考えています。Twitter上の戦術クラスタの方々が議論されているチームの「戦術」や「型」である再現性のある攻撃パターンを自動的に、そして定量的に発見できますよ!という論文でした。でもやっぱり課題はオリジナルデータのアノテーション(このプレイはパス?orシュート?)を自動的に行うことだなぁ...

#論文紹介 #KDD #KDD2018 #データマイニング #データ分析 #Python
#サッカー #フットボール #アナリティクス #Jリーグ #データサイエンティスト #スポーツアナリスト



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?