夢を叶えた五人のサムライ成功小説【高木京子編】14(ラスト)

この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。

部屋に入ると柴田は冷えたコーヒーを二人に差し出した。
火照った身体に冷えたコーヒーは格別だった。


啓太と京子は柴田にありがとうと伝えた。
だが柴田は制止して代わりに、口にくわえた葉巻に火を点けろと言わんばかりに、大きなチャッカマンをテーブルの上に置いてせがんできた。


京子が火を点けた。
『ありがとう、京子さん。やはり葉巻は米国産に限る』
そう言ってすぐさま何事もなかったかのように、三人は打ち合わせの続きを始めた。

京子は柴田を通じて、生きることを輝いて生きることの意味を学んでもいた。


これまで夫が読者の期待に応えてきたように、京子は夫の気持ちに応えきれなくなった時に、いかに応えられる何かがないか、今、この経験のなか、見えだしてきた。

京子は自分なりに答えを見つけた。

出版を通して啓太と柴田の期待にまずは応えよう。
そして私の本を読んでくれる方の気持ちにも必ず応えてみせようと誓った。

啓太は柴田と酒を飲み交わした。
京子は部屋に戻り、帰り支度を始めている。
男二人、腹を割って飲んでいる。


京子から帰る支度が整ったと連絡を受ける。

啓太は柴田から名刺を貰った。
名刺にはこう書かれていた。

直木賞・芥川賞・柴田賞選考委員会会長
サマンサ・柴田
(その他社長業様々 趣味 人助け)

ハッとなる啓太。
思えば啓太はベストセラー作家だが無冠の帝王でもあった。


しかも柴田という名だけは思い当たる伏があった。
ただ、顔までは知ることはなかった。
どこかで会っていたにせよ、いちいち認識していない。

名刺を見つめ、柴田賞と趣味の人助けという箇所に意識をしばらく奪われたが、そのうちにまぁいいかと割りきった。


啓太は頭を深々と下げて部屋を後にした。
京子の待つ部屋に戻ると、鎮座しておしとやかに待っていた。


京子には柴田の素性を知らせないことにした。

二人は旅館の正面玄関で五目夫妻に『楽しい時間だったからまた来ます』と伝えた。


統吉と静香もまた『有り難う御座います。またのお越しをお待ちしております』と会釈し、啓太と京子が大理石の階段を登りきり、姿が消えるまで見送った。


京子は旅の幸せを帰りの列車内で伝えた。
啓太はやや疲れ果てていた。


列車はやがて山間部を通過し、二人の暮らす街へと走っていく。

時を経て書店では早くも増刷となった京子の出版した書籍が陳列されている。
しかも山積み状態だ。


柴田と啓太の協力を得た京子だったが、もともと文才はあったため、本の製作に関してはアドバイスはもらったものの、ひとりで書き上げた。


その達成感もあってか、京子は作家としてやっていきたいと啓太に心境を伝えている。


出版当初はベストセラー作家の妻という部分をクローズアップされたが、読者からは七光りではない彼女の才能を感じたという感想も多々、出版社に寄せられた。


これからは夫婦ともに作家として人生を歩んでいく。

啓太と京子が訪れた書店の片隅で、柴田は誰に点けてもらったかは分からない葉巻を口にくわえてパカパカ吸っている。


京子の本を数冊、手にとってレジへ向かう姿はさりげなさがあり、周囲の一般大衆を魅了した。


黒一色のスーツに身を包む長身のイケメンの男は会計を済ませて、無言のままその場から立ち去っていった。


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