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デレラのマンガ本棚#3「『おやすみプンプン』ー(前編)虚構の世界をリアルに描く」

こんにちはデレラです。

デレラのマンガ本棚#3をお送りします。

マンガには、「絵柄」と「物語」という要素があります。

たくさんのコマに「絵柄」が描かれていて、読者はそのコマを順番に読むことで、「物語」を感じ取ります。

でも、なんで「絵柄」を順番に見ていくと「物語」を感じ取れるんでしょうか。

きっと「絵柄」と「物語」のあいだには、何か独特な「つながり=関係性」があるに違いありません。

そこで、この連載では、「絵柄」と「物語」の「つながり=関係性」に注目しながら、マンガを読み込んでいきます。

さて今回のマンガはこちら!

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浅野いにお 『おやすみプンプン』 2014年 小学館(最終巻出版年)※写真は第一巻

とってもエモく、感情が沸きたてられる作品です。

かなり難解な作品なので、「絵柄編」と「物語編」の二回に分けようと思います。

今回は「絵柄編」です。どうぞよろしく。

では早速始めましょう。


1.虚構の世界をリアルに構築すること

さて、マンガの世界とは、虚構の世界です。

虚構とは、現実には存在しないこと。

例えば、手が伸びるとか、手から光線が打てるとか、チェンソーに変身したり、ロボットに搭乗したり、などなど。

この虚構の世界は、絵柄によって描かれます。

その虚構の世界をいかに説得的に描くか。

言い換えれば、マンガとは、虚構をいかにリアルに描くか、という挑戦に他なりません。

つまり、マンガ家さんは、この「虚構をリアルに描く」という、針に糸を通すかのような、矛盾した命題を、見事に実現する天才たちなわけです。(すげえぜ!)


さて、マンガは、現実と虚構の間にあります。

【現実】ーーーーーマンガーーーーー【虚構】

あり得ない設定であればあるほど、右の虚構に近づき、逆に、あり得る設定であれば、左の現実に近づきます。

では、どうすれば「虚構をリアルに描く」ことができるのか。

いろいろな方法があるかと思いますが、ここでは「虚構度」に注目しましょう。

わたしは、虚構への近さを、「虚構度」と呼びます。
(わたしが勝手に作った概念です)

単純な指標で、現実的にあり得なければあり得ないほど、虚構度が高まるわけです。

虚構をリアルに描くには、この虚構度のバランスを保つ必要があります。

虚構世界に、バランスを崩すような「現実的な絵」を持ってきてしまうと、虚構世界が崩壊しかねないからです。

例えば、『ドラゴンボール』の世界に、現実に存在する「セブンイレブン」の絵は馴染みません。

ドラゴンボールの世界に登場する建物は、丸みを帯びていて、不思議な形をしていることが多いです。

なので、ドラゴンボールの世界に「セブンイレブン」が存在するなら、「セブンイレブン」が登場しても大丈夫なように、世界の描き方が変わるはずです。

一方で、新海誠さんのアニメ映画『天気の子』では、池袋や「ファミリーマート」が登場しますが、世界設定が現代日本なので、これは問題ありません。

むしろ、主人公の一人である「雨を晴らす少女=天野陽菜」をどのように、現実的な世界に馴染ませるのか、ということに労力が割かれます。

陽菜たちは、「雨を晴らすという現実離れした特殊能力」で、晴れを望むイベント主催者などから、謝礼を貰うわけですが、この大人たちは、いい感じで物語から除外されます。

なぜ晴らすことができるのか、陽菜はまだ少女なわけで、親御さんを無視してお金をあげちゃっていいのか、など、謝礼を払う大人たちは、現実的なツッコミをしないことで、中盤までの物語のリアルさを構築していきます。

つまり、虚構をリアルに描くためには、世界設定や、絵柄、セリフなど、虚構度のバランスを保つように、世界を構築する必要があるのだ、ということ。

さて、『おやすみプンプン』の虚構度はどのようになっているでしょうか。

『おやすみプンプン』といえば、主人公であるプンプンの絵柄が、「変な鳥の絵柄」であることが真っ先に思い浮かびますね。

また、主人公以外の登場人物の名前は「田中愛子」や「関くん」や「清水」など、現実的な名前にもかかわらず、主人公のプンプンは「プン山プンプン」なのです。

しかも、登場人物たちは、プンプンの名前が「プン山プンプン」であることも、主人公の絵柄が「変な鳥の絵柄」であることも、意に介さず、普通に同級生として接します。

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※第一巻より 鳥のような絵柄が主人公のプンプン、他のキャラクターは人間として描かれている

変です。もうそれは、変なのです。

虚構の世界をリアルに構築するためには、虚構度のバランスが必要なのに、「プン山プンプン」という主人公の名前と絵柄だけで、すでに、世界の虚構性が崩壊しそう!!

危うい!危ういぜ『おやすみプンプン』の虚構世界!

そんな、危ういマンガ『おやすみプンプン』は、どのように「虚構世界のリアルさ」を構築しているのか、見ていきましょう。

今回は、絵柄について。(次回は、物語について見ていきます)


2.多層的に描かれる絵柄

まずは、絵柄について見てみましょう。絵柄は三つに分かれます。

①主人公プンプンの絵柄・・・デフォルメされたマンガ的な鳥の絵

②他の登場人物の絵柄・・・マンガ的な絵と写実的な絵の間の絵

③背景の絵柄・・・写実的な絵(ビルや街は写実的で、渋谷など実在の街も出てくる)

①は、前章でも引用した通り、かなり虚構度が高い絵柄です。なんてったって、鳥みたいな絵柄が主人公なわけですから。

②は、①ほど、虚構度が高いわけではありませんが、現実の人間をかなり戯画的に強調しているように感じられます。

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※第九巻より ①と②についての参考画像 二コマ目の右から二番目がプンプンの絵柄

③は、①とは正反対に、虚構度は低く、むしろ現実に存在する街が描かれています。

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※第十三巻より ③についての参考画像 背景が、渋谷のスクランブル交差点、実在の広告。その中央で、頭部が黒く伸びているのが青年期のプンプン、明らかに浮いた存在だが、周りの人が気に留める様子は無い。

これらの参考画像を見れば、「③背景の絵柄」や「②他の登場人物の絵柄」に対して、いかに「①主人公プンプンの絵柄」が浮いているか、がお分かりいただけると思います。

さて、上記の三種類の絵柄を「【現実】ー【虚構】」の図式に当て込むと、以下のようになるでしょう。

【現実】ー「③背景の絵柄」ー「②他の登場人物の絵柄」ー「①プンプンの絵柄」ー【虚構】

『おやすみプンプン』というマンガは、このように三層の絵柄が使い分けられていることが分かります。

通常、③のような背景に、①の絵柄が登場すると、虚構の世界のリアルさが崩壊してしまいます。

③のような背景に、①の絵柄が登場するような「必然性」が問われてしまうからです。

例えば、『GANTZ』というマンガをご存じでしょうか?

『GANTZ』は、日本の都市に宇宙人が攻め込んできて、それを人類が迎え撃つ、というSF作品です。

このマンガでも、現実に存在する都市を背景に、あり得ない異形の生物(星人)の絵柄が現れます。このままでは、虚構度に差があり、明らかに不整合です。

そこで、「宇宙人を迎え撃つ」という世界設定を作ることで、この「虚構=星人の絵柄」と、「現実の都市の絵柄」との不整合を解消しています。

簡単に言うと、現実的な背景に、虚構度の高い絵柄を登場させるには、「ちゃんとした理由」が必要で、もし無いなら、世界が崩壊してしまうのです。

では、『おやすみプンプン』にも、虚構度の違う絵柄が多層的に描かれることを説明する「ちゃんとした理由」があるのでしょうか?

『おやすみプンプン』の世界を崩壊させないための「物語」とは?


絵柄編はここまで!次回は物語編です。

次回は、このマンガで描かれる二つの物語を参照しながら、全編を通して使われる「モノローグ」に注目します。

ポイントはモノローグ!背景が真っ黒で、そこに絵柄はなく、誰かの独白の文字だけが浮かんでいるコマが、全13巻で多様される。

それは、なぜか。

ではまた、次回!

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