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ある日突然、もう一人の妻が現れたら・・・(1)

あらすじ

パート勤務をするメグミは夫と娘と平凡だけど、幸せに暮らしていた。
ある晩、寝る準備をしていたら「ピンポーン」とチャイムが鳴った。
そこに現れたのは、もう一人の妻を名乗る見知らぬ女性だった。
隠された夫の知らない顔、もう一人の妻は一体何者なのか。
妻メグミが出した決断とは・・・。


ピピピピ、ピピピピ・・・

7:00、アラームが鳴る。
またいつもの一日が始まる。
朝起きたら自分と家族の朝食の準備をする。

前日に多く作っておいた味噌汁の鍋を冷蔵庫から出す。
コンロで温め直しているあいだに炊飯器からご飯をよそう。
これがいつもの朝食だ。

ふりかけや鮭フレーク、海苔をテーブルに用意する。
各自好きなものを使ってもらう。
味噌汁をよそって並べると夫と子どもが起きてくる。

特に会話をすることもなく、眠気まなこで食卓につく。
「いただきまーす」とそれぞれが独り言のようにいう。
食べ始めて5分くらいすると、3歳の娘が食事に飽きだす。
「もうちょっとだ、がんばれ〜」と言いながら、スプーンを娘の口に運ぶ。

最後の一口が娘の口に入ったのを確認する。
「ごちそうさまでした〜」とまたそれぞれが独り言のようにいう。
それが合図かのように、一日で最も忙しい朝の時間が始まる。

夫は高校を卒業してから小さな町工場で働いている。
私はスーパーの衣料品売場でパート勤務をしている。
娘は近所の保育園に通っている。
どこにでもいるような普通の家族、私はこの平凡な生活に満足している。

夫が自分の身支度をしながら、娘の身支度を手伝う。
登園時間のギリギリまで遊びたい娘と、早く身支度をしてほしい夫の交渉劇が始まる。
私は家事と身支度をしながらその様子を見守る。

「よし、誰が一番早く出掛ける準備ができるか競争だ!」
夫の掛け声とともに家族が一斉に歯磨きをし、着替える。
毎回これでうまくいくわけではないが、今のところ効果があるのはこの方法だ。

8:30 夫は仕事場へ、私は娘を連れて保育園へ行く。
娘を無事に保育園まで送り届けたらパート先へ向かう。
9:30から15:30までのパート勤務を終え、夕食の買い物をして保育園に娘を迎えに行く。

16:00 「お母さん迎えに来たよ〜」という先生の声とともに娘が笑顔でこちらに手を振る。
「おかあさ〜ん!」と娘が抱きついてくる。この瞬間がたまらない。
先生に「ありがとうございました、さようなら〜」と声を掛け帰る。

「今日保育園で何した?」
「えんていでね、ジェットコースターにのったんだよ!」
もちろん園庭にジェットコースターはない。
彼女のなかではすべり台がジェットコースターなのだ。

「楽しかった?」
「うん!3かいのったんだ〜」
娘は満面の笑みを浮かべていた。
帰り道での娘との会話が最近の私の楽しみだ。

16:30 帰宅、冷蔵庫に買い物した食材をいれる。
お風呂を沸かしている間に簡単に料理の下ごしらえを済ます。
お風呂が沸いたら娘とお風呂に入る。
お風呂から出て体を拭いたり、髪を乾かしていると18時くらいになる。

ちょうど夫が仕事を終えて帰ってくる時間帯だ。
先ほど下ごしらえをしておいた料理を調理していると、ちょうど夫が帰ってきた。
「おとうさん、おかえり〜」「きょうジェットコースターにのったんだ〜」と娘が嬉しそうに話す。

「ただいまー」とキッチンをのぞく夫に「おかえりー」と答える。
「ジェットコースター乗れてよかったなあ!」と娘の話に返す夫に
「こんど、ゆうえんちのジェットコースターにものりたいな〜」と娘。

「100cm越えてれば乗れるだろうから、ちょっと測ってみよう!」と言い
娘を壁に貼ってある身長計のところに手招きする夫。
「せすじ、ピーン!」と言って、娘が背筋を伸ばして身長計の前に立つ。
「お、100cm ちょうどです!」

「イエーイ!!!」
大喜びする娘に私も夫も嬉しくなった。
つい最近まで赤ちゃんだと思っていたのに、もう100cmになったのかと成長があっという間に感じた瞬間だった。

私はこの日常のささやかな幸せな瞬間が一生続くと思っていた。
夫の笑顔を見てそう確信していた。
あの日が来るまでは・・・。

#創作大賞2024 #恋愛小説部門


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