梅の花と手袋と温かいお茶、当たり前のことだからこそ愛おしい。
『私は夏女。
だから冬は苦手。とにかく寒い間は冬眠してやり過ごしたい。』
……って、若い頃からずっとそう思っていました。
だけど一昨年、最後の抗がん剤が終わった冬のこと、
「あれ?なんか冬も素敵やな……」
って思う事が何度かあったけど、いやいや夏女の私に限ってそんな事あるはずない。きっとこれは幻や。(冬好きの人ごめんなさい)
と、気付かない振りをしてまた春を待ったのでした。
そして今朝、5歳の息子と手を繋いで幼稚園に向かうまでの道中、
私はあることを思い出しました。
凍結してスケートリンクみたいになっているいつもの道、その道の端に溜まった霜が降りて白くなっている葉っぱ、「寒い寒い。冬きらい!」と冬に対して文句を言う手袋をした息子の手を揺らして私は自信たっぷりに言いました。
「ママはな、夏も好きやけど、冬も好きやで!冬はめっちゃ素敵やねんで!
雪合戦したり、水溜りが凍ってたり、サンタさんも冬に来るし、お正月もあるやろ?嬉しいことも楽しいことも綺麗なものも、冬にはいっぱいあるやん!だから寒いけど、寒い時の楽しいこと幼稚園で見つけてみてな!」
冬は素敵。
さっき思い出した昔の記憶のおかげでそれが確信に変わりました。
息子はそれでもまだ「寒い寒い」と言っていたけど、教室の前に5体も並んだ雪だるまを見つけると、リュックを揺らして教室めがけて走っていきました。
私は家に戻るとすぐに母に尋ねました。
「昔、玄関にあった梅の木って、今どうなってる!?」
私が実家を離れている3年の間に改装のため撤去されていなくなってしまった梅の木。思い出したのはこの木のことでした。あの木に毎年毎年励まされて冬を越してきたこと。夏女の私は、冬に学校へ行くのが嫌で時間ギリギリまでヒーターの前に座り込んでいるような学生でした。いざ時間が来て玄関を開けて……その凍てつく風と寒さに泣きそうになりながらトボトボと学校へ向かう。
「まだ1月やん……地獄や……もう無理や……限界や…」
と、毎年心が折れかける冬も真っただ中に、咲かすんです。
薄いピンクのお花を、それもひとつだけ。
『先にひとつだけ見せてやるから。もう少しやで。』
毎年、毎年、梅の木はそれはそれは可愛いお花をひとつだけ咲かせて私を励ましてくれていたのでした。それを見つけると、自然と口角が上がり足取りも軽く学校に向かえる単純な私。
なんや……幻なんかじゃなかった。
ちゃんと冬の素敵なこと、昔から知ってるやん。
母は
「ああ、あんたが好きやったあの子ね。あの子は伐採じゃなくて根っこから抜いてもらったから、どこかで生きてるよ。」
撤去された後どうなったのか、本当はきっとその業者さんしかわからないけど……当時私が恋した男子の話でもするかのように、にこやかにそう励ましてくれる母。
温かい日本茶を飲みながら、母と梅の木の思い出を語り合いました。
もう1月も半ば。もう少ししか今年の冬は味わうことができない。
いっぱいいっぱい幸せ感じられる冬にしよう。
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