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私たちが考えている、高校時代の勉強の意義 ~なぜ勉強するのか~

プロローグ

――ある数学の授業にて。
 「先生、Σ(シグマ)って何の役に立つんですか?」
 私がひとしきり Σ の意味や扱い方について説明したあとで、それを聞いていたA君が(ややこしいですねぇ)とつぶやきながら質問をしました。
 「いい質問ですね。日常生活ではあまり役に立ちません。」


 数学に限ったことではありませんが、学校、特に高校で学ぶ内容の多くは、日常生活を送るうえで役に立つという実感があまり持てないかもしれません。私が担当している数学はその傾向が顕著です。高校数学で学習する Σ やベクトル方程式を知らなくても幸せに生きている人は大勢いらっしゃいます。
 しかし、そんなことは高校に入学する前からあらかじめわかっていたことで、日常生活でのそのつどのやり取りをうまく処理することを超えた何かをめざして勉強しているはずです。

高校時代の勉強の意義

 では、高校生が一生懸命勉強することにどのような意義があるのか。私たち塾の講師や学校の先生は、日常生活で役に立ちそうもない(ように思われがちな)ことを生徒に伝えて一体何の価値があるのか。
 このテーマは、すでに議論され尽くした感がありますが、高校生たちからたびたび質問を受けることでもあるので、伝える側である私たちの立場を明らかにするために、現時点で私たちが考えていることを中間報告として記しておきたいと思います。

➀頭脳訓練

 頭は、鍛えれば良くなります。したがって、頭を鍛えるための訓練として勉強は有用です。頭を鍛えた結果として「いま、ここで、考える力」を高めることができれば、これからの時代に必要だと叫ばれている「新しいものを創造する力」と「変化に適応する力」にもアプローチできると考えています。
 また、高校時代の学習経験を通じて、自分なりの「効果的な勉強の仕方」を掴むことも大切な経験だと考えています。定年の延長および長寿命化により一生の中でさまざまな働き方が求められる機会が増え、誰しも「学びなおし」が必要となる場面に遭遇することが予想されています。勉強の仕方を掴んでいれば、この「学びなおし」をスムーズに行えると思います。

②視座を高める

 頭脳訓練と同様に大切だと考えているのは、「視座を高める」ということです。特に英語や国語は、文法や読解の方法を学習するに際し、それらは良質な文章に織り込まれて生徒たちに提供されます。その良質な文章は、偉人の伝記であったり教訓的な寓話であったりするわけですが、それらには内容そのものに人生の指針となるメッセージが込められているものです。
 また、数学や物理などは日常生活にとっては無用の用ともいうべき科目かもしれません。直接的な利用価値は高くなくとも、思考のバランスをとったり、論理的で一貫した思索を支えてくれる土台になると思います。
 それら各教科の学習を通じて視座が高まり、世界や周囲の状況に対する自分のあり方をどうするべきかが少しずつ自覚されるようになるでしょう。

③情緒的に成熟する

 情緒的に成熟するためにも勉強は有用だと考えています。
 勉強は継続して行うものであるため、自分で決めたことを継続してやり抜く自主性や、自己を律する心などが養われます。
 また、学校の成績が芳しくないと、「自分はダメな人間ではないか」と自信を喪失し、やがて「どうせ自分は…」と自己卑下に陥ってしまうことがよくあります。そのような状況でも、勉強に積極的に取り組んで成績が改善することで、「自分はやればできる」という自己肯定感をもて、それに根ざして積極的かつ自律的に自分の未来に向き合うことができるようになる生徒さんを何人も見てきました。

 ただし、「勉強ができるから偉い」という勘違いはして欲しくないと考えています。勉強ができる環境を与えてくれた家族や学校の先生方、また、教科書に掲載されているさまざまな知見を得た先人などに対する感謝の気持ちを忘れないで欲しいと願っています。

④希望する大学へ進学できる

 高校生にとってはこれが勉強の最大の動機になるだろうと思います。例えば大企業に入りたいのであれば、依然として偏差値の高い大学が有利ですし、一部の職種では出身大学が重要であるケースも多少はあるかもしれません。
 しかし多くの場合、学歴よりも「あなたはどのように世の中の役に立てるのか」が問われます。そのあたりも考慮して、自分の意志で(周りのみんなが大学に行くから、といった受動的な動機ではなく)大学進学に向き合っていただきたいと考えています。

⑤自分が何の苗かを知る

 さらに、高校時代の勉強を通して、自分が何の苗なのかを知る(自分の適性を知る)ということも大切だと考えています。自分は何が好きで何が嫌いなのかは、実際にやってみないとわかりません。英語でも数学でも化学でもまずは一生懸命やってみて、それでだめならその方向に自分の適性は無いということが分かります。それだけでも勉強をした価値があると思います。

⑥楽しさ

 人は本来的に成長を感じると喜びを感じます。このため、新しい知識を得ることは、成長した自分に出会う喜びの旅になるはずです。

⑦先人が得た知見を後世に伝承する

 学習内容それ自体も、当然に価値があるものです。先人が得た知見のエッセンスが教科書にまとめられて高校生たちに伝えられます。一部の高校生は、将来、その知見をさらに発展させてそれを次の世代に伝えてくれることでしょう。
 このような知見の伝承は、自然科学の分野においては文明の発展に、人文科学の分野においては文化の発展に、それぞれ寄与するでしょう。


まとめ

 以上のとおり、私たちは、日常生活を超えて、さらにテストで良い点を取るという目的をも超えて、勉強の価値をとらえています。
 もちろんテストに向けた指導も行っていますが、基本的なスタンスとしては、勉強を楽しみつつ、頭を鍛えて考える力を養ってもらえるよう、「本わかり」を大切にした指導を行っています。その結果、テストで良い点をとれることは当然で、意欲的に授業に臨んでくれる生徒さんにおいては、東大などの高い思考力が要求される入試問題にも対応できるようになっています。

 そういうわけで、学校の成績が向上するのは頭を鍛えたことによる付随的な当然の結果にすぎず、「本わかり」をとおして「いま、ここで、考える力」を養い、その過程で自己の適性も掴んでいく、というところに高校時代の勉強の意義がある、と私たちは考えています。

(副塾長いとう)


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