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中今で、小さな虫がリアル巨大化した話

「シン,ニホン」の著者、安宅和人さんが、目の網膜などの感覚は脳の一部だからね、と言っていた。

私は脳で虫を見たんやな、という経験がある。

三年くらい前に二度、お寺に修行に行った。
一般の人も三泊四日から修行を体験させていただける、京都の宝泉寺という禅寺だ。

世間はお盆休みの時期で、8月で暑いはずなのにお寺はとても涼しく過ごしやすかった。
私にはバケーションと思えるほどの快適さだった。
修行体験希望者も多い時期で、私は寮ではなく本堂に寝泊まりさせてもらっていた。

美しい庭を見ながら、昼下がりに1人、畳の上でゴロゴロしていた。

修行も三日目あたりで、座禅や作法の厳しい食事にも慣れてきた頃だった。

本堂は静かで、風や虫の音がするかしないかくらい

私はそのときリラックスしていて『全くなにも考えていなかった』
目に写るものにも思考は囚われずに、ただ転がっていた。

コバエが、畳にとまっており
あ、コバエ
と思った。

私はコバエをみた。
すると、コバエが前の足で口元をこすっている。
口元は、小さい歯のような髭のようなギザギザがあり、モゴモゴと、はむように口が動いている。
目は横についていてキラリと茶色かった。

あー、コバエも一緒なんだなー

とおもった。
何と一緒って、ウサギが顔をモショモショ前足で洗う動きのような仕草だったから、なんか、我々と一緒なんだ、と思っただけである。

虫も、顔を洗い手を動かし口がモショモショしているのか…あの口でご飯を食べるのか…いま口の中に入ってるのかな?いや、空っぽだろうな…
とボンヤリ見ていると、コバエは畳から網戸に飛んだ。

びっくりした。
網戸にとまったコバエが小さかったので

あれ?
いま、めっちゃ見えてたよね?
私の目の前にリアルにでっかかったやん

と、網戸に顔を近づけて、もう一度あの目と口と前足を見ようとじっと目を凝らして眺めてみたが、ぜーんぜん見えなかった。
小さい黒い虫が居るだけだった。

あれ~?と思ったけれど、深くは考えず
コバエにもそれ以上興味はなかった。

あれはなんだったんだと不思議に思ったのは自宅に帰って、ずいぶん日にちが経ってからである。

何回かあのコバエくらいの小さい虫を見ると、じっと見て顔だけでも選別できないか?と思うけれど、もともと遠視と近視でもあり、小さくて黒い虫以上に見えることはなかった。

私は、あの瞬間「中今」と呼ばれるイマココ状態だったんだなーと思う。

そして、生物学者の南方熊楠さんや、あまたの絵描きさんなどは、きっとあの状態になっちゃってるんだ、と思った。

あんなリアルなコバエを見たら(いや、コバエかどうかは全くわからないがコバエ以外に小さな虫の呼び名を知らないのだ)もっと観察したい好奇心がムクムクするのも、ちょっとわかるなー

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