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『バーチャル・アパレル』は実現するのか ~リモートワーク用アバターと服飾問題~

リモートワーク普及で注目されるアバターツール

 このところの社会事情や技術的な進展にともなって、リモートワーク(テレワーク)を行う業種は増えている。自宅や飲食店、外部のワークスペースなどからネットワークを通じてやり取りするというスタイルは、通勤時間の省略や地理的な制約の解消といった面で大いに役立っている。
 その一方、プライベートな領域をデスクにすることで、通話環境に苦慮している方も少なくない。たとえば、作業専用の部屋を用意できないワンルーム物件では、ビデオチャットの際に生活空間も映り込んでしまう可能性がある。普段から整った環境を作っているならともかく、応急的な事情からリモートワークになった社員には色々と辛い状況である。
 そんな不安を解消する方法として、アバターツールを用いたビデオチャットが提案されている。代表的なものとしては、既存のモデルと自作モデルの双方が使えるFaceRigなどが挙げられるだろう。詳しい設定方法や使い方はnoteでも記事にしている方が何名かおられるので、こちらのリンクからチェックしてみると良いだろう。

 もし、一時的な業務形態として数人でビデオチャットを使うなら、ツール上で既に用意されているアバターを選ぶだけで良い。また、人間のキャラクターである必要もない。要は各々の見分けがつけば良いのだから、キャラクターが何であれ会議として成立するのである。
 しかし、リモートワークという形態が代替的なものでなく、主たる働き方になった場合、社員個人を特定するものとして人物固有のキャラクターを用意する必要が出てくるかもしれない。
 ここで断定ができないのは、現在の状況が依然として長引くか、徐々に解消されていくか未だ読み切れないためだ。一時の利用に留まって再び通勤が当たり前の社会に戻る可能性も高い。とはいえ、イラストレーターを中心に個人事業主の間ではアバターの利用が盛んになっていることを考えると、今後企業の中でも『第二の顔』としてアバターツールが用いられるようになる状況もありうるだろう。

 そして予想通りの仕事風景へと変わっていった場合、アバター運用においては一つの問題が浮上してくるのではないかと僕は見ている。それは、
「アバターの服装を固定するのか、着せ替えの仕掛けを普及するのか」
という問題である。

視覚的変化のないアバターが与える影響

 普段のリアルな生活において、僕達は意外と服装の変化を気にして生きている。それは毎日スーツに身を包んでいる会社員であっても同じである。
 全身のコーディネートを社内規定や周りの傾向に合わせていても、季節や天候、あるいは自身のできごと次第で変化が生じる。夏場と冬場で衣替えをするし、ネクタイやスカーフ、靴や手袋といったサブの品も、その日その時次第で柄と色彩を変えて使っている。意識上は毎日同じような恰好をしていても、実際には同じ装いで過ごす日の方が少ないのである。
 また、服装に変化が生じることを話題の種として、社内でコミュニケーションを取っているのもまた事実である。たとえ印象的なできごとに遭遇しなかったとしても、とりあえず相手の姿を見て変化があればネタにできる。あわよくば、そこから自分の活動や仕事へのヒントを見出すことさえ可能である。会話を円滑にする要素のひとつとして、装いの変化は欠かすことができない。

 一方、アバターツールの場合はそこまで柔軟に服装を変えられない。現在使われている状況では、イラスト制作やモデル作成に長けた方であっても、服装のバリエーションを何種類か用意するに留まっている。少なくとも、日替わりのコーディネートを作れるほどバラエティーに富んだ環境は揃っていないと言えるだろう。
 自作モデルを用意するにはそれ相応の時間と手間を必要とするため、そう頻繁に着替えるほど種類を用意していられないことは確かだ。他人に発注するとなれば、モデルを増やすほど代金もかさんでいくわけで、クローゼットを埋める(と言って良いかわからないが)数を揃えるのは非現実的である。
 しかも、これはYouTubeなどで配信を行っている方の場合であって、一般的な社内運用ツールとする場合、現状では社員一人につきほぼ一種類しか提供できないと思われる。差分があるとしても、せいぜいシーズン単位の服装くらいだろう。そうなると、リモートワーク中の社員は毎日変化のない相手と顔を突き合わせることになってしまう。

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