Un homme et une femme
元婚約者に連れてこられた外国の寒い街で、たくさんのものを失って
スターバックスで泣きながらあなたへの手紙を書いていたとき
声をかけてくれたのが彼だった。
フランス語の読めない彼は、私が書いていた手紙の内容なんて知る由もなかったけど
私の悩みを真摯に受け止めて、笑いとばして、励ましてくれた。
「上と前をむいて、歩かないと」
彼の話すカタコトの日本語は、不思議と心に突き刺さった。
次の週末は近所のブルワリーでふたり、酔いつぶれるまで飲んで
その翌週は彼の家で、ラーメンを食べて、酒を飲んで、ギターを弾いて、
大声で日本語の歌を歌って、不幸を笑い飛ばした。
縁もゆかりもない海外の街で、こんなにリラックスできる場所を見つけることができるなんて!
相談できる相手もいない、人生のどん底だったけど
きっと神様が、私と彼を出会わせてくれたんだ!
私は一人じゃ生きていけない。なにがあっても、この新しい親友を大切にしなくちゃ!
ソファーに身をゆだねて、最高に幸せだなあとニヤニヤしていたとき
彼は私を抱きしめ、唇にやさしくキスをした。
「あっ・・・」
私と彼の最高の関係は、あっけなく終わった。
ああいう瞬間の、男性の力強さには抗いようがなくって
私は何度も謝りながら、あなたのことは愛していないと伝えた。
なんでこんなこと、言わなきゃいけないんだろう。
虚しさでボロボロになった身体を起こし、彼の家をあとにする。
彼はタバコを吸いながら見送りに出てくれたけど
もう私を見てはいなかった。
おいしい味噌汁を飲みにいきます。