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自己肯定感や自己有用感を高め、幸せな状態(Well-being)で成長する子どもの居場所づくり


公式サイト


こどもの居場所づくりとは何か。

美術大学で高校生のあどけなさがまだ残っている大学1年生に毎年講義をしていますが、学生との接し方や学生をどのように成長させるかなどを日々考えています。わたしは毎年1歳ずつ年をとるのに対して、ある意味学生は歳をとらないのです。毎年「今の時代」の若者と接する中で、社会に出る前の数年間は、大きな可能性に満ちた大切な時期でもあり、美大という美術・芸術・デザインの分野において、どのように学生を評価すればよいかについて、日々考えています。そこで、こども家庭庁で「こどもの居場所づくり」のために推進している政策を通して、幸せな状態で成長できる教育としての居場所づくりについて簡単に分析した内容を紹介します。


全てのこどもが、安全で安心して過ごせる多くの居場所を持ちながら、様々な学びや、社会で生き抜く力を得るための糧となる多様な体験活動や外遊びの機会に接することができ、自己肯定感自己有用感を高め、幸せな状態(Well-being)で成長し、社会で活躍していけるようにすることが重要です。こども家庭庁では、「こどもの居場所づくりに関する指針(仮称)」を閣議決定し、これに基づいてこどもの居場所づくりを推進します。

出典:こども家庭庁
https://www.cfa.go.jp/policies/ibasho/


自己肯定感とは

自己肯定感とは、「ありのままの自分を肯定する感覚」のことであり、他者と比較することなく、自分自身が「今の自分」を認め尊重することで生まれる感覚です。自己肯定感が高いことにより、物事を前に進めるための原動力となります。自己肯定感が高い人は、①自分の長所に焦点を当てて活かす「主体性がある」、②自分自身を心の拠り所として「自分に自信があり、行動や思考が前向き」、③失敗を恐れずチャレンジできる「失敗を恐れない」ことができます。それに対して、自己肯定感が低い人は、①精神的に不安定な状態で「他者と比較する癖がある」、②ありのままの自分を肯定する感覚(物事や人の言動などについて自分なりに考え理解する解釈)を持てない「過去にトラウマがある」、③いかに他者から評価されるかの行動基準により「承認欲求が強く、他者に依存してしまう 」と言えます。
自己肯定感が仕事にもたらす影響は、自己肯定感が高いことのメリットとして、仕事で活躍しやすくなり、自分の長所を活かした働き方に集中することができます。一方、自己肯定感が低いと、失敗しそうなことはとにかく避けるようになります。それは、無意識のうちにさらに自己肯定感を低くする行動を取り、負のループに陥っていることが多くみられます。そこで、自己肯定感を低くしてしまう2つの悪習慣を注意することが必要です。ひとつ目は、今の自分を否定することにつながる「完璧主義から脱する」こと、ふたつ目は、「○○しなくてはいけないから」といった自分自身を縛っている思い込みであることに気付くことが大切です。では、自己肯定感を高める方法は、「今、何が不安なのか?」「どんな点で自身がないのか?」を書き出すことで、「これって、自分をただ過小評価しているだけでは?」と、自分を俯瞰的に見ることができます。いったん自分を認めてあげることで、少しずつ前向きに次のアクションを考える姿勢を持つことができるようになります。次に、不安を書き出しても、考え方を変えることができない場合は、立場を変えて「第三者としてのアドバイス」を考えてみる、「自分は、彼(彼女)にどんなアドバイスをするか?」のように客観的に考える「アドバイスをする側」になれば、当事者よりも一歩引いて課題(悩み)を眺めることができます。
自己肯定感が低くて前に進めないとき、現状を正しく見て、自己肯定感が下り続けるループから脱することが大切です。


自己有用感とは

「自己有用感」とは、自尊感情(セルフエスティーム)や他者と比較することなく今の自分を認める自己肯定感と異なり、「他人の役に立った」「他人に喜んでもらえた」等の相手の存在なしには生まれてこない感情です。たとえば、単に「クラスで一番足が速い」という自信ではなく、「クラスで一番足が速いので、クラスの代表に選ばれた。みんなの期待に応えられるよう頑張りたい」という形の自信です。自己有用感は自尊感情の一部ですが、自尊感情が高いことが自己有用感も高いことになるのではないということです。褒めることで自信を付けて自尊感情を高めることは、実力以上の過大評価となり逆効果になる可能性があるのです。また、社会性の基礎は、人と関わりを持つことであり、「人とかかわることが好き」といった感情を高めることが、自己有用感も高めることにつながります。同世代だけではなく、異年齢の交流活動を通して自己有用感を育むことにより、集団活動に積極的に参加するようになり、誰かの役に立つことで、集団の一員としての自信や誇りを持つことができるようになります。他者の存在を前提としない自己評価は、社会性に結びつくとは限らず、自己有用感 に裏付けられた自尊感情 が必要なのです。
さて、「何でもかんでも褒めてくれる先生」と「なかなか褒めてくれない厳しい先生」に対して、どちらのほうが良いかという話題がでることがあります。一見、何でもかんでも褒めてくれる先生は、一時は褒められることにより嬉しいのですが、先述したように過大評価となり、なかなか褒めてくれない厳しい先生に褒められたときの方の嬉しさの方が大きく、褒められたことに対する自信を強く、その自信を長く抱くことができると考えます。表面的にお世辞を言ったり、ちやほやしたりしても、子供の 「自己有用感」 はおろか、「自尊感情」 すら高めないのです。また、一般に大人の基準や水準で「褒める」ことと、一般に子どもの基準や水準で 「褒められたい」 ことが異なるため、行事に取り組むときや学習に取り組む際などには、子ども自身に目標や工夫する点や努力する点などを考えさせ、その基準に沿ってどこまで達成できたのかを評価することが大切です。この評価に対して褒めたり、認めてあげることが重要なのです。


幸せな状態(Well-being)とは

健康、幸福、福祉などに直訳されるウェルビーイング(well-being)は、1946年の世界保健機関(WHO)設立時に初めて登場した言葉です。WHOの健康とは、「単に疾病がない状態ということではなく、肉体的精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態にある」ことであり、この状態がウェルビーイングなのです。ウェルビーイングが注目されるようになった第一の理由は、「モノ」から「心の豊かさ」へと価値観が変化したことであり、地球規模で調和やよりよい社会をつくる方向へと変わろうとしている現代社会にあります。ウェビーイングの概念として有名な指標「PERMA」は、①ポジティブな感情(Positive Emotion)、②何かへの没頭(Engagement)、③人との良い関係(Relationship)、④人生の意義や目的(Meaning and Purpose)、⑤達成(Achievement/ Accomplish)の5つの頭文字をとったものです。また、2023年の世界幸福度ランキングにおいては、先進国の中ではまだまだ下位にとどまり、世界47位に位置しています。調査項目のランキング上位の国々と比べると「健康寿命」は上回っているものの、「人生の自由度」「他者への寛容さ」「社会的支援」「経済水準」などの多くの項目で下回っている傾向が見られます。この世界幸福度ランキングは世論調査によるもので、主観的な傾向がありますが、個々の事情に合った働き方ができる労働環境が充分でない、ジェンダーや学歴などの属性が生活に影響していると言えるでしょう。次に、ウェルビーイングと世界の共通目標であるSDGsは、ともに現代社会に必要不可欠なものです。SDGsは「地球上の誰一人取り残さない」、経済・社会・環境の3つのバランスがとれた社会を目指すものです。ウェルビーイングも、単に個人が幸せであればいいのではなく、個人と社会、ひいては地球全体が満たされた状態とは何かを考えるべきものです。ウェルビーイングは、SDGsを達成するための価値観の基準であるとも言えるでしょう。貧困がなくなり、質の高い教育を受けることができ、人や国の不平等がなくなり、17の目標を達成した先にあるのが、地球全体のウェルビーイングであるはずです。


特徴①:主体性がある
「ありのままの自分」に満足しているため、たとえ劣っている部分や苦手なことがあったとしても、「自分はダメな人間だ」と卑下することはありません。
自分の長所に焦点を当て活かすことを考えていきます。
また、他者に対しても相手のよい面へ自然と目を向ける傾向にあり、相手の考えや意思を素直に受け入れ尊重します。

特徴②:自分に自信があり、行動や思考が前向き
物事を肯定的に捉えるため、思考や発言も前向きなものになります。
そして、自身の意志決定にも自信があるため、他者の目や評価に振り回されることなく、自分自身を心のよりどころとして堂々と行動ができます。

特徴③:失敗を恐れない
物事を「まあ大丈夫だろう」「なんとかなるさ」と楽観的に捉えられるため、新しいことや困難なことに対しても失敗を恐れずチャレンジします。
たとえ失敗したとしても、「また頑張ればいいか」と前向きに考え、失敗も成長の糧にしていくため、結果として成功しやすくなります。

出典:https://mba.globis.ac.jp/careernote/1327.htm

特徴①:他者と比較する癖がある
自己肯定感が低い人は、過剰に周囲の人と自分を比べてしまうという癖があります。 自己成長につながるという観点で、目標とすべき人がいること自体は決して悪いことではありません。 考え方や哲学を自身の指針として取り入れることで、行動の質が高まるというメリットがあるからです。 しかし、過剰に他者と比較してしまうと、「何でこの人はできているのに、自分はできないんだ」と自己嫌悪に陥ってしまったり、嫉妬や劣等感で苦しむようになったりと、精神的に不安定な状態になります。

特徴②:過去にトラウマがある
例えば、厳しい家庭で育ち、いつも親から怒られていた人。 優秀な兄弟と比較されながら育ってきた人。 大きな失敗をしたことがある人。 このように、過去の失敗経験や自尊心を傷付けられた経験が原因で、自己肯定感を持てないという人も少なくありません。 「自己肯定感」とは、先述したように「ありのままの自分を肯定する感覚」のことです。 感覚とは、物事や出来事に対する「解釈」で生まれるものです。 なので、自己肯定感が低い人の場合、周囲からみて十分に成果を上げていたとしても、「まだまだ自分は能力不足だ」「〇〇さんの方がすごいから」など、自分の劣っている部分に目を向けて自己否定をしたり、周囲からの評価を素直に受け入れなかったりするため、いつまでたっても自己肯定感が育まれないといったことが起こります。

特徴③:承認欲求が強く、他者に依存してしまう
自分で「自分のこと」を認められないために、他者に認めてもらうことで自分の価値を確かめようとする傾向もあります。 そのため、常に他者の目を気にしており、いかに他者から評価されるかが行動基準になります。 また、自分に自信が持てないため、主体性に欠けるという特徴もあります。 意思決定を他者にゆだねることが多く、自分ひとりで決断しないといけない場面でも「いかに他者から否定されないか」という基準で選択肢を選ぶことが多いです。

出典:https://mba.globis.ac.jp/careernote/1327.html

自己肯定感が高いことのメリット
自分の能力や働き方に自信を持ち、結果として仕事で活躍しやすくなります
長所をきちんと把握しているため、上手に活かすことができ、よい成果につなげられるからです。
自分の短所を上回る長所(例:周囲を巻き込むことが得意、提案書作りは誰にも負けない...など)を心から信じています。
そのため、短所についてはくよくよ悩まず、冷静にその短所の埋め合わせを考えることができます。
例えば、得意な人に思い切って任せる、自ら学びスキルを習得する...などの行動をどんどん起こせるのです。
基本的に、エネルギーを不必要に分散させることなく、自分の長所を活かした働き方に集中することができます。
加えて、自己肯定感が高い人は、前向きに短所を補う動きを自分で選択できるので、それが自信や評価につながり、自己肯定感はさらに高まることになります。

自己肯定感が低いとどうなる?
一方で、自己肯定感が低いと、失敗しそうなことはとにかく避けるようになります
これは、自己肯定感が低い故に、少しのミスで自分の人間性まで否定してしまうためです。
そのため、新しいことになかなか挑戦しにくくなってしまいます。
新しい挑戦の機会を、「自分なんかができるわけない」と反射的に拒否してしまうのです。
「失敗しそう」「評価が下がりそう」「嫌われそう」など、マイナスの想像で頭がいっぱいになり、結局、自分がやり慣れている仕事を選ぶようになります。
結果として、自分の存在価値を「下げない」ことはできますが、「高める」ことはますます難しくなります。

完璧主義から脱する
成長意欲が高いことは決して悪いことではありません。
しかし、「もっと頑張らなくては」「もっとこの部分を直さなければ」と過度に「もっと、もっと」と完璧を追求しすぎてしまうと、今の自分を否定することにつながります。
人間なので、完璧というのはありえません。
自分の足りない部分ばかりに焦点を当て完璧主義を目指すのではなく、よい所も悪い所もある自分を認め、長所をさらに伸ばすにはどうしたらいいか、活かしていくにはどうしたらいいかについて考えていくようにしましょう。

思い込みに気付く
自己肯定感が低い人は、「〇〇しなくてはいけない」「〇〇しないと嫌われる」といったようなネガティブな思い込みを持っている人が多くいます。
例えば、人に迷惑をかけてはいけない、失敗してはいけない、目立ってはいけない、弱音を吐いてはいけない、などです。
たいていは、育った環境や過去に親や先生に言われたこと、経験したことなどが影響しています。
思い込みは、最終的には手放すことが理想ですが、ファーストステップとしては「思い込みであることに気付く」ことが大事です。
自分では当たり前のものになっていて気付かないことが多いので、これまでの自分の行動を振り返り、どのような基準で物事を判断してきたかを考えてみてください。
そこに「〇〇しなくてはいけないから」といった言葉が出てくるようであれば、それが自身を縛っている思い込みである可能性があります。

方法①:不安を書き出し、今の自分を認めてあげる
まずは、「今、何が不安なのか?」「どんな点で自信がないのか?」を書き出してみることをおすすめします。
紙に書き出すことで、自分が抱えているぼんやりとした不安を、頭からいったん取り出し、「あぁ、自分は今こんな状態なのか」と外から眺めることができます。
また、自己肯定感が低いが故に、必要以上に悩んでしまっていた場合、それを書き出してみると、「これって、自分をただ過小評価しているだけでは?」とふと現実的な見方ができることがあります。
また、不安や悩みを見つめることで、自分を認めてあげるきっかけをつかむこともできます。
例えば、以前の自分なら持っていなかったであろう不安や悩みの場合、「一年前だったら、もっと小さなことで悩んでただろうに。自分も成長したな。結構頑張ってるじゃん」と今の自分を認めてあげることができます。
逆に、依然とあまり変わらない悩みだったら「これを解決しようとしている時点で、今までの自分からはすでに一皮むけているじゃん」といったように視点を変えることで前向き捉えられるかもしれません。
いったん自分を認めてあげると、少しずつ前向きに次のアクションを考える姿勢を持つことができるようになります。

方法②:第三者としてアドバイスを考えてみる
不安を書き出しても、考え方を変えることができない...。
そんなときは、立場を変えて「第三者としてのアドバイス」を考えてみる方法がおすすめです。
親しい友人が、自分と同じくらい自己肯定感が低く、同じ不安や悩みを抱えていると仮定しましょう。
そして、「自分は、彼/彼女にどんなアドバイスをするか?」を想像することで、考え方を変えるヒントを得られるかもしれません。
こうすることで、客観的に状況を見つめることができるようになります。
例えば、「どれだけ頑張っても上司が認めてくれない。いつもダメ出しばかり。もう自分なんて必要ないんじゃないかと思う」と感じている場合。
それと全く同じ悩みを、友人に相談されたと想像してみてください。
すると、「なぜここまでネガティブに考えているんだろう」と疑問に思うかもしれません。
つまり、この友人は現実を正しく捉えないまま、不必要にネガティブになっているのでは、と感じます。
そして、同じ悩みを持っている自分も、この友人と同じような状態になっていたんだ、ということに気付けるかもしれません。
「アドバイスをする側」になれば、当事者よりも一歩引いて課題を眺めることができます
そのため、ぜひそのように一歩引いた立場で「どう考えを変えられそうか」を想像してみてください。
「その上司のスタイルかもよ?あなただけでなく、ほかの人に対してもそのように接してるかも」「この間、〇〇さんがあなたのこと褒めてたよ」そんな声掛けが頭の中に浮かんできたら、それをそのまま「自分宛のアドバイス」として受け取ってみましょう。
別の角度から現状を眺めることで、次のアクションにつながる糸口が見つかるかもしれません。

出典:https://mba.globis.ac.jp/careernote/1327.html


「自尊感情」とは
心理学用語 Self Esteem の訳語として定着した概念です。一般的には、「自己肯定感」「自己存在感」「自己効力感」等の語などと、ほぼ同じ意味合いで用いられているようです。

自分に対する自己評価が中心
一般の英語の辞書で Self-esteem を引くと、自尊心プライドうぬぼれ、…等の訳語が見つかります。元々は、プラス面もマイナス面も含んだ中立的な語であることがわかります。それを考えると、プラス面のみを想起させる「自尊感情」という訳語は名訳と言えるかも知れません。
しかし、 「自尊感情」を高めるべく大人が子供を褒める機会を増やしても、必ずしも好ましい結果をもたらすとは言えないのも事実です。そもそも褒める以前に叱ったり行動を改めさせたりすることから始めるしかない児童生徒に悩むことは、少なくありません。また、大人が褒めることで自信を付けさせることができたとしても、実力以上に過大評価してしまったり、周りの子供からの評価を得られずに元に戻ってしまったり、自他の評価のギャップにストレスを感じるようになったり、ということが起きうるからです。

「自己有用感」とは
「自己有用感」は、他人の役に立った、他人に喜んでもらえた、…等、相手の存在なしには生まれてこない点で、「自尊感情」や「自己肯定感」等の語とは異なります。

自分に対する他者からの評価が中心
最終的には自己評価であるとしても、他者からの評価やまなざしを強く感じた上でなされるという点がポイントです。単に「クラスで一番足が速い」という自信ではなく、「クラスで一番足が速いので、クラスの代表に選ばれた。みんなの期待に応えられるよう頑張りたい」という形の自信です。その意味では、「クラスで一番」かどうかは、さほど重要ではなくなっている、とさえ言えます。
「自己有用感」の獲得が「自尊感情」の獲得につながるであろうことは、容易に想像できます。しかしながら、「自尊感情」 が高いことは、必ずしも 「自己有用感」 の高さを意味しません。あえて、「自己有用感」 という語にこだわるのは、そのためです。

平成 13 〜 15 年度文部科学省委嘱研究「児童生徒の社会性を育むための生徒指導プログラムの開発」の研究グループは、その当時の子供たちの一番の問題を「社会性の基礎となる部分」、すなわち「人と関わりたい」という意欲そのものが低下しているところにあると考えました。そのことが人間関係の希薄化を生んだり、他人を平気で傷つけたり、ルールを守らなかったり、集団への参加を妨げたり、といった現象になっていくのではないか、という仮説を立てたのです。
その仮説の下で調査研究を行った結果、報告書の中で効果的な解決策として提言されたのが、「異年齢の交流活動の推進」によって 「 自己有用感 」 を育むことでした。その知見は、現行の小中学校の学習指導要領にも 「 異年齢集団による交流 」 の重要性として盛り込まれています。
★社会性の基礎となるもの「人(他の子供)とかかわりたい」と思う気持ちは、自らの体験によってのみ、獲得されるものです。他の子供と一緒に遊んだりすることを通して、「人とかかわることって楽しい」「人とかかわることって苦痛なことではない」と感じるところから「人とのかかわり」は始まります。それが、「社会性の基礎」を形づくっていくのです。
年少者の課題は、一言で表現するなら、「人とかかわることが好き」ということ、集団活動に進んで参加できることです。そして、年長者になるにつれ、そうしたかかわりを通して、進んで協力できた、自分から働きかけができた、誰かの役に立つことができた、という集団の一員としての自信や誇りの獲得が課題となります。

「褒めること」と「認めること」の違いは?
大人の側にしてみれば、この両者の違いはあってないようなものでしょう。「認めてあげようと思って、褒めている」 「褒めることは、そのまま認めること」という感覚なのではないでしょうか。そして、多くの子供も、そんな感じで受け止めていることでしょう。とりわけ、年齢が低いほど、その差はないに等しいに違いありません。
しかし、「認めてほしい」 「認めてもらいたい」 と強く思っている子供には、そんな大人の言い分は通じないかも知れません。中には、「褒められてもうれしくない」 といった子供も出てきたりするのです。一体、何が違うのでしょうか。
大人が子供を「褒める」ときは、一般に大人の基準や水準で「褒める」ことが多いように思われます。そして、大人の側がわの基準で一定の水準に達した、水準を超えたと評価するのが 「褒める」 という行為と言えます。反対に言えば、水準に達しない場合には 「頑張りなさい」 と叱咤激励することはあっても、褒めることは稀
まれでしょう。
それに対して、子供が 「認めてもらいたい」 ときというのは、一般に子供の基準や水準で 「褒められたい」 のではないでしょうか。子供なりのこだわりで努力したり工夫したりしたことを 「認められたい」 のです。だから、大人の考えた基準に達していなくとも 「褒めてほしい」と考えたり、大人の考えた水準に到達して 「褒められた」 場合でさえ、大人の基準とは異なる子供の基準でも 「褒めてほしい」 と考えたりするわけです。
だから、自分がさほど努力もしていない、自分の功績ではないことを、「みなさん、よく頑張りましたね」 と全員を一括りにして褒められても、さほどうれしくもなく、励みにもならないのかも知れません。子供の実際の行動と向き合うことなく、表面的にお世辞を言ったり、ちやほやしたりしても、子供の 「自己有用感」 はおろか、「自尊感情」 すら高めない可能性が高いのです。
行事に取り組む、学習に取り組む際などに、子供自身に目標や工夫する点、努力する点などを考えさせておき、その基準に沿ってどこまで達成できたのかを評価することが 「認める」 という行為では重要になります。それが、「自己有用感」を育むのです。単に良かった・悪かったと評価するだけの 「褒める」 では、「自尊感情」 を育むことはできても、「自己有用感」 を育むことにはなりにくいのです。
例えば、「ふりかえりシート」 を用いているのであれば、児童生徒の振り返りに対して、ただ 「頑張ったね」 とだけ書くのではなく、その児童生徒が 「こだわった」 「見てほしかった」点に触れた記述を返しましょう。そのためにも、一人一人をきちんと見ることが大切です。

出典:文部科学省 国立教育政策研究所
https://www.nier.go.jp/shido/leaf/leaf18.pdf


ウェルビーイングの意味と定義

「ウェルビーイング(well-being)」は、健康、幸福、福祉などに直訳されます。このことばが初めて登場したのは、1946年の世界保健機関(WHO)設立時です。
世界保健機関憲章では、「健康とは、単に疾病がない状態ということではなく、肉体的精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態にある」とするなかで「ウェルビーイング」を使用しています("Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.")。
「Health:健康」は、狭い意味での心身の健康のみを指すのではなく、感情として幸せを感じたり、社会的に良好な状態を維持していることなど、全てが満たされている広い意味での「健康」である、と解釈できます。
また「Social well-being」は、広い意味でよい社会であると同時に、家族や友人、職場の仲間などごく近しい人間関係においても良好である、と考えるのが適切でしょう。
似たようなことばとの違いについて見てみましょう。満たされた状態が持続することがウェルビーイングであるのに対し、Happiness「幸福(Happiness)」は、一時的な幸せの感情を指すことばです。
また、医療や福祉の分野で使われる「ウェルフェア」ということばもあります。ウェルフェアは福祉という意味ですが、福利厚生という意味で使われることも多くあります。社会弱者を救済するという保護的な考えが含まれており、ひとりひとりが尊重され自己実現していくウェルビーイングとはやや意味合いが異なります。ウェルフェアは手段でウェルビーイングは目的、という文脈で使い分けられることも多いようです。

5つの要素による構成
ウェルビーイングの概念として有名なものに、「PERMA」という指標があります。これは、「ポジティブ心理学」という自己実現理論を唱え発展させた、マーティン・セリングマンによって考案されたものです。
人は以下の5つの要素を満たしていると幸せである、とするもので、頭文字をとって「PERMA」と呼ばれています。
Positive Emotion(ポジティブな感情)
Engagement(何かへの没頭)
Relationship(人との良い関係)
Meaning and Purpose(人生の意義や目的)
Achievement/ Accomplish(達成)

また、世論調査やコンサルティング業務を行うアメリカのギャラップ社が定義した5つの要素もよく知られています。Career Wellbeing:仕事に限らず、自分で選択したキャリアの幸せ
Social Wellbeing:どれだけ人と良い関係を築けるか
Financial Wellbeing:経済的に満足できているか
Physical Wellbeing:心身ともに健康であるか
Community Wellbeing:地域社会とつながっているか
この分野の研究はこれまで欧米がリードしてきましたが、近年は日本でも東洋と西洋、集団主義と個人主義などの違いに着目し、また日本の国民性を考慮に入れたウェルビーイング研究が進められています。

注目されている政治的・社会的背景
ここのところ、ウェルビーイングにいっそうの注目が集まってきた要因や背景についても考えてみます。
・価値観の変化
ウェルビーイングが注目されるようになった第一の理由に「モノ」から「心の豊かさ」へと価値観が変化してきたことがあげられます。
効率や利益、売り上げなどの経済指標を優先してきた結果、格差の拡大や地球環境の悪化、貧困などさまざまな問題が起きました。これらはこれまでの「モノ」の価値観では解決できない課題ばかりで、成長を追い求めることに限界がきていると認識され、地球規模で調和やよりよい社会をつくる方向へと変わろうとしてきたのです。
・働き方改革
日本では高度経済成長期を経て、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少に直面し、さらにブラック企業の社会問題化もあって、働き方の多様化が進みました。政府は一億総活躍社会の実現を掲げ、2019年から働き方改革関連法の施行を開始しました。
この法律は、働くひとりひとりが多様な働き方を選択でき、より良い将来の展望を持てるようになることを目指したものです。長時間労働の是正、雇用形態にかかわらない公正な待遇、高齢者や女性の就労促進などが掲げられています。ただし、働き方改革の関連法案にはウェルビーイングということばは入っていません。
・健康経営
経済産業省が推奨する「健康経営」によって、企業の健康への関心も高まりました。健康経営とは、健康管理を経営的な視点でとらえ、従業員への健康投資が生産力の向上、ひいては企業の業績向上につながることを期待する経営手法をいいますが、当初は心身の健康増進にとどまる傾向がありました。
・新型コロナウイルス感染拡大
働き方改革や健康経営によって取り入れられるようになったウェルビーイングの視点が、より重要視されるようになった背景に、コロナ禍における価値観の変化があります。リモートワークが普及し、自分らしい働き方を考え直す人も増えました。しかしその一方でコミュニケーション不足やメンタルヘルスの問題も指摘されています。
・大阪万博のテーマに
これらの時代背景とともに計画が進められてきた大阪万博(2025年開催予定)のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」です。そのままウェルビーイングの考え方と重なるこのテーマが、どのように万博に反映されていくのかが注目されます。
国内の大きな動きとしては、2021年に政府が毎年発表する「成長戦略実行計画」において、「国民がwell-beingを実感できる社会の実現」という文脈でウェルビーイングが登場しています。またイギリスに続き、世界で2番目に「孤独・孤立対策」の担当大臣が任命されました。
さらに2021年9月には、「日経Well-beingシンポジウム」が開催され、政府や企業関係者、有識者等によって、ウェルビーイングの実現へ向けた議論が行われています。2021年は、日本におけるウェルビーイング元年となりましたが、今後もウェルビーイングに向かう時代の流れは進んでいくでしょう。

2023年の世界幸福度ランキング
国際連合の「持続可能開発ソリューションネットワーク」が毎年発行している世界各国の幸福度を調査した「世界幸福度報告」は、ニュースなどで目にした方も多いことでしょう。
その最新となる2023年の世界幸福度ランキングで、日本は世界47位に位置しています。2021年は56位、2022年は54位で上昇は見られるものの、先進国の中ではまだまだ下位にとどまる(G7では最下位)という結果でした。アジアではシンガポールが25位でトップでした。
調査された項目のうち、ランキング上位の国々と比べると「健康寿命」は上回っているものの、「人生の自由度」「他者への寛容さ」「社会的支援」「経済水準」など、多くの項目で下回っている傾向が見られました。
この世界幸福度ランキングは世論調査によるもので、アンケートの表記内容や国ごとの価値観、経済規模などの影響を受けるため、主観的な傾向があり結果がすべてではありません。しかし、個々の事情に合った働き方ができる労働環境が充分でない、ジェンダーや学歴などの属性が生活に影響することも多い、といった印象が強い日本において、この結果は納得しやすいものであるでしょう。
日本のウェルビーイングは、まだスタート地点に立ったばかりだと言えるかもしれません。

SDGsとの関連
ウェルビーイングと、世界の共通目標であるSDGsは、ともに現代社会に必要不可欠なものです。
SDGsの目標3には、「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」―あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進するとあります。
ここでのウェルビーイングは「福祉」と訳され、ターゲットを見ても、妊産婦や新生児の死亡率、感染症対策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジなどについて示されているように、「健康」「福祉」などの意味あいが強く感じられます。
しかし全体で捉えると、SDGsは「地球上の誰一人取り残さない」、経済・社会・環境の3つのバランスがとれた社会を目指すものです。
ウェルビーイングも、単に個人が幸せであればいいのではなく、個人と社会、ひいては地球全体が満たされた状態とは何かを考えるべきものです。ウェルビーイングは、SDGsを達成するための価値観の基準であるとも言えるでしょう。貧困がなくなり、質の高い教育を受けることができ、人や国の不平等がなくなり、17の目標を達成した先にあるのが、地球全体のウェルビーイングであるはずです。

出典:https://sdgs.kodansha.co.jp/news/knowledge/40247/

「居たい、行きたい、やってみたい」居場所づくり

こども家庭庁の「こどもの居場所づくりに関する調査研究」関する動画の要点は、以下です。

・居場所づくりにおいて重要なことは、こども若者の主体性の尊重である
・その場を居場所と感じるかどうか等、本人が決めることである
・こうした観点から、こども・若者の声(視点)を軸に「居たい行きたいやってみたい」の3つの視点で整理

課題
① 居場所の安心・安全の確保
② こども・若者の声を聴き、こども・若者の視点に立った居場所づくり
③ 居場所とこども・若者をつなぐこと
④ 多様な居場所を増やすこと
⑤ 持続可能な居場所にすること

解決策
① こども・若者の声を聴き、こども・若者の視点に立った居場所づくり
② 居場所における支援の質向上と環境整備
③ 地域の居場所をコーディネートする人材確保、育成への支援
④ 居場所づくりに取り組む団体を支援する「中間支援団体」への支援
⑤ 官民の役割分担(共助、公助の組み合わせ)

参考:「こどもの居場所づくりに関する調査研究」について
https://youtu.be/eXtkNToEWeU

こどもの居場所づくりの概要

こども家庭庁では、こどもが安心して過ごすことができる場の整備に関する事務を所掌し、政府の取組を中心的に担います。
こども家庭庁設立以降、速やかに指針の策定を進められるようにするため、令和4年度には「こどもの居場所づくりに関する調査研究検討委員会」を開催・検討し、こども・若者の居場所づくりにおける理念や大切にしたい視点を報告書としてまとめました。
この報告書を踏まえ、より良い居場所づくりを進めていくために、「こどもの居場所づくりに関する指針(案)」を策定し、全てのこどもたちが自分らしく幸せな状態(Well-being)でいられる居場所づくりを目指します。
また、「NPO等と連携したこどもの居場所づくり支援モデル事業」を実施し、NPO等と連携し、様々な居場所(サードプレイス)づくりやこどもの可能性を引き出すための取組への効果的な支援方法を検討していきます。

出典:こども家庭庁
https://www.cfa.go.jp/policies/ibasho/


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