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夜の物書き①

モノローグ


新しくサークルに入った後輩君は、死んだ父に、少し似ている。
高い背丈に体育会系な言葉づかい、他の人が気づかないくらいに染まった髪色にも気付き、「髪染めました?すごく似合ってますね」とさらっと言えるところ。
そしてその良さが全く他の女には伝わっていないところ。
何より、私のことを待っている時の後ろ姿は、思わず父が生き返ったと錯覚するほど、
脚の組み方、少し下を見るところ、何もせずただただ待っていてくれるところ
それはまさに大好きな父の後ろ姿なのだ。

そんな後輩のことを、ただの先輩の目線で見ることができるはずもなく、私はただただ彼を目で追う毎日だった。
彼を見て、彼と話して、父との思い出が優しく蘇り温かい気持ちになる。
ただただ居心地の良い時間を過ごしていた。

ある日、私がショートカットにしていったら、彼は
「髪切ったんですね。すごく似合ってます。」
といつものように、同年代の男子が言えない言葉と言い方をサラッとしてきた。
「いつもありがと。」
温かくなった気持ちで、今日が少しでも良い日になってよかったなと思っていたら、予想外な言葉が飛び出した。

「僕たち、一緒にいた方が良いと思いません?」

新しい告白の仕方だなと思った。
こんな言葉を言われて、きっと他の男なら私は興醒めをして速攻Noと言っていただろう。
しかし、彼はそんな言い方さえもさまになる空気を纏っているから、「僕たち」も「一緒にいる」も「良い」もすんなりと私の中に取り込み、言葉が胸に入り込んできた。
彼のその言葉は、私の心を浄化し、新しくし、彼の成分が入ってくるキーとなった。
そこから、私たちは、ただのサークルの先輩・後輩の関係ではなくなった。


人生最大の失恋をしたその日、私は死んだ父に似ている後輩と、大学生活最後の恋愛を始めてしまった。

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