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機械翻訳、もっと授業で使ってみる?

コミュニケーションを楽しめる環境を作るのが教員の役目

英語の授業で機械翻訳を使うことに意味があるのか?という議論は時代遅れだと思っています。そこらじゅうで使えるようになっているものを利用しないという選択肢はないので、学生が機械翻訳を使うのはもちろん問題なし。ただ、現状では機械翻訳はまだいろんな間違いをやらかしてくれるので、自分の言いたいことを正しく伝えたいなら、翻訳された英語を検証して責任を持って発信するように、とは言います。まぁ、英語がわからないから使ってるのに、どうやって検証するのか…という矛盾はありますが。

私が見ている限り、学生が機械翻訳を使うとき、その使い方はざっくり分けると2つのパターンがあります。1つは、英語でコミュニケーションしたいけれど、語彙力や文法の知識が十分でなく、もっと”ちゃんとした”(whatever it means!) 表現を使いたいと思って、機械翻訳に頼るパターン。この使い方をする学生は、英語に関心があるので、翻訳された英語をわかって使おうとするし、ヘンテコな訳になったとしても指摘されると理解して修正できます。

問題なのは、英語の学習を半分諦めている学生たちの使い方。彼らは、自分は英語はできないと思い込んでいて、自力で英文を作る気はなく、課題の提出ギリギリになってチョロチョロっと作った日本語を機械翻訳し、理解も検証もせずにそのままコピペして提出します。もちろん誤訳も多いので、これを伝わる英語にするのにどうアドバイスしたらいいか、と頭を悩ませて、彼らが課題をやるのに使った何倍もの時間をかけてチェックしている自分に「?」となることもしばしばです。

ただ、後者の学生たちは、たぶん今までとてもつまらない英語学習をしてきたか、あるいは途中でわからなくなってすっかり置いていかれたか、いずれにしろ英語にポジティブに取り組む機会に恵まれなかっただけだと思います。彼らはもちろん無能などではなく、私が知っている範囲でも、ビデオの編集力が抜群だったり、絵や歌やダンスがうまかったり、簿記が得意だったり、スポーツで優れた成績を収めていたり、難しいゲームを次々クリアしていたり、英語以外の場面では素晴らしいポテンシャルを発揮している。つまり、発信してコミュニケーションするネタを十分に持った面白い学生たちです。

だったら、英語に興味がある学生も、今のところ背を向けている学生もすべてひっくるめて、機械翻訳を活用しながら、自分の言いたいことがちゃんと伝わって、言われたこともわかって、コミュニケーションができる環境を作る、というのが英語教員の役目であるはず。そのために、これからもっと積極的に機械翻訳を使うことが必要だと考えています。

機械翻訳、どれを選ぶ?

それにしても、機械翻訳も色々あってそれぞれの特徴もあり、どれを推奨するのかも判断が難しいところ。学生たちが使っているのはGoogle翻訳やLINE英語通訳が多いようですが、英語学習に積極的な学生は、DeepLも知っています。DeepLや、今回デモ版を試してみたMIrai Translatorは、変な日本語も意訳してくれるので便利ですが、学生にとっていいのか悪いのかよくわかりません。

例えば、春学期に大学の学食紹介のビデオを作っていたとき、ある学生が、

I eat a school cafeteria with my friends. 

と書いていて、「え?学食を食べる??」と聞いたら、「はい、友達と学食食べるんです」と。私にとって(というか普通は)「学食」は、「学生食堂」の略ですが、彼女にとっては「学生食堂で食べる食事」のことだったようで、どうもこれ、学生の間ではわりに普通に使われているらしい。そもそも日本語が通じていませんでした。

この「昼は友達と学食を食べます」という私にとっては妙な日本語の文をそれぞれの機械翻訳で訳してみました。そして、その英文をまた翻訳して日本語に戻すとこんな感じになりました。

Google
I eat the school cafeteria with my friends at noon.
私は正午に友達と学校の食堂で食事をします。

LINE
I eat school cafeteria with my friends for lunch.
私は昼食に友達と学食を食べます。

DeepL
I eat lunch at the school cafeteria with my friends.
お昼は学食で友達と一緒に食べます。

Mirai Translator デモ版
I eat lunch in the school cafeteria with my friends.
私は友達と学食で昼食を食べます。

Googleは、カフェテリアを食べることになっていて、英語はおかしいけれど、その変な英文を日本語にするときは意訳して、もともと学生が意図した意味に戻っています。LINEはどっちも変ですが、学生にとって学食=食事なら、学生はこれで自分の言いたいことが英語にできたと満足しそうです。

DeepLとMirai Translatorはさすがというか余計なお世話というか、しっかり意訳して最初から学生が意図した意味の英文ができています。日本語ももちろんあっていますが、DeepLは、日本語訳は口語っぽく主語も省略。Iでなければ略さないのかと思って主語を変えてみたら、
He eats lunch at the school cafeteria. お昼は学食で食べている。
She eats lunch at the school cafeteria. お昼は学食で食べているそうです。
と、なんだかずいぶん自由な訳で、よくわからなくなりました。

さすがに機械翻訳が出てきた頃の、「私は」を省くとすべて主語が itに置き換わるといった現象はGoogleでも起きなくなりましたが、それぞれに特徴があるし、”不得意”分野もありそうです。それをすべて検証してから使うのはかなり大変でしょう。その意味では、立命館のように大学として決まったAI翻訳をフルサービスを利用できるのは、システム提供側にもまとまったデータが提供できるし、なかなかいい形で羨ましい感じです。

いずれにしろ、これからどう機械翻訳を”うまく”使って学生のモチベーションをアップするのか、その方法を学生たちも巻き込んで色々考えるのが、楽しみになってきました。いろいろやって報告したいと思います。