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"生きている"英語を学ぶなら、紙の教科書ではなくリアルなコンテンツで

授業で教科書は使っていません。大学に指定されていれば使うし、過去に何度か自分で選んで使ったこともあります。でも、他人が作った教科書を使いこなすのはそんなにかんたんではありません。さらに、日々進化していく「ことば」を学ぶのに、印刷されて何年も変わらないテキストを使っていていいとも思えない。ということで、今は基本的には教科書はナシで授業しています。

■教科書は使わない、その理由

もちろん、文法の復習をする時に、教科書が学生たちの「よりどころ」になる、ということはあるかもしれません。ただ、自分が100%内容に同意できる教科書を見つけるのはほとんど不可能です。選んだ教科書の解説に私自身が納得していなかったり、例文がつまらないと感じたりすると、説明に説得力がなくなります。学生は結構な値段の教科書を買わされているので、教員がそれをちゃんと活用できなかったら最悪です。

リスニングやリーディングに関して言えば、そもそも今時英語を学ぶのに、印刷物やCDを使っていていいのかと思います。数年前に大学に指定されて使った、海外に行った時の日常会話を学ぶリスニングの教科書は、初版発行が1999年。教科書として使い勝手は悪くはなかったけれど、航空券のリコンファームとか(これはまだ必須の航空会社もいくつかはあるらしいですが)、ホテルでのファックスサービスの利用とか、今覚えてもほぼ使うことはない表現が結構出てきて、逆に、今知っていた方がいい表現は学べないというのが残念でした。

未だに教室にカセットデッキを抱えていく先生を時々見かけます。カセットデッキが悪いとは言わないけれど、カセットテープに入っている何十年も前に作られたコンテンツを、今もそのまま使い続けるというのはいかがなものでしょう。

カセットにもCDにも書籍にも役に立つコンテンツはあります。でも、「ことば」は、どんどん変化・進化しています。新しい表現も次々に生まれています。そんな「ことば」を通してリアルな世の中について学んだり考えたりするなら、Web上のビデオや読み物を使い、随時更新が可能なネットで発信しながら学ぶことは必要不可欠だと思います。

■教科書の代わりに使うwebコンテンツとは?

Web上のリアルなコンテンツを教材にするのは、結構大変です。タイムリーで、内容が面白く、わかりやすくて、あまり長くない(観るのも読むのも)...という条件をクリアする教材を毎回授業の前に探していたらいくら時間があっても足りません。ただ、あちこち見ていると、ここ数年の間にアップされてしばらく使えるいいコンテンツが結構見つかります。

例えば、2021年度の授業では、以下のようなビデオを使いました。

Sky Brownは東京五輪で銅メダルを取った12歳のskateboarder (and surfer)です。Draw My LifeはYouTubeでは人気コンテンツなので、これ以外にもたくさんありますが、長いビデオが多くてなかなか適当なものがありませんでした。これを見つけたのはオリンピックの1年前ですが、1年経ってよりタイムリーな話題となり(といっても、オリンピックを見ていなくて彼女を知らない学生の方が多かったですが..orz)わかりやすく、比較的短いので、彼女のことをみんなで調べつつ、聞き取りにチャレンジしました。もちろん、学生たちはその後、自分たちのDraw My Lifeのビデオを作成します。

これは2016年のビデオでちょっと古いのですが、シンプルで視覚的にもわかりやすく、環境問題(ゴミの問題)についてディスカッションするきっかけになるので、最近毎年のように使っています。"未来形"の使い方の復習にもぴったりです。Rob Greenfieldは完全自給自足の生活をするなど環境活動家として活躍していて、授業で使えそうな新しい面白いビデオがたくさんあります。

Minerva Universityの学生へのインタビューです。あるYouTuberが彼女への取材の形で作ったビデオなので、大学のプロモーションビデオとは違う視点でわかりやすいです。このビデオで大学といってもいろんな学びの形があることを知り、Minerva Universityについてさらに色々調べたりした後で、自分自身の大学での学びについて改めて考えて意見を言ってもらったりします。

A day in the life of a university studentはほぼ必ず学生に話してもらうテーマです。これもYouTube上にたくさんのコンテンツがありますが、パンデミックの中で海外の学生がどんな生活をしているかわかるビデオです。これ以外のビデオも色々見た上で、学生たちは自分の1日について紹介します。英語学習の観点から言うと、"現在形"を使う練習ができます。

これはCMとしては長い(1分)ですが、15秒、30秒という単位は、学生が絶対に寝てしまうことがない長さなので、これ以外にもCMはよく見ます。海外のリアルな生活習慣が反映されているのもCMを見る魅力の一つです。このCMは、食に関するさまざまな問題を考えたり、或いは自分の好きなjunk foodの紹介をしてもらったりする時に使います。ちなみに、食糧不足などについて考える時は、以下のようなビデオも見ます。ビデオはやや古いですが、ここで紹介されているEat GrubというLondonの店は今も営業しているので、このビデオを起点にして、新しいいろんな情報を得ることができます。

Technologyの話題も必ず扱います。ゲームで3Dの世界に親しんでいる若者たちにとって、Metaverseはそれほど"新しい"という感覚ではないのかもしれません。ただ、この2つのビデオや他の情報から、グループで話し合い、自分たちなりに理解したWhat is Metaverse?についてTeamsの共有画面(Class Notebookのコラボスペース)で説明し、さらにこれからどんなふうに使われるかについても考えてもらいましたが、これは結構タフな課題だったようです。こういうテーマへの取り組み方(予習、授業中に割く時間、グループワークのファシリテートの仕方、コラボスペースの使い方、成果物の共有など)は、まだこれから検討、改善していく必要があります。

■果てしなく続くコンテンツ探し

これらは授業で活用しているもののほんの一部ですが、もちろんリアルでタイムリーなものは、すぐに内容が古くなるものもあるし、どんどん削除されていきます。そのため、できるだけ多くの新しい情報を集めるのに、オススメのサイトを学生たちに紹介してもらったりもします。学生たち一人一人、関心事は違うので、毎回全員が興味を持つコンテンツを提供することは不可能です。その意味でも、いろんな視点で情報を集めるというのも大事です。

集めたデータの管理は、1人でちまちまとスプレッドシートで行っていますが、メンテナンスができていないので、すでにデッドリンクになっているページもたくさんあります。こういう情報を必要とする人たちがどれだけいるかわかりませんが、使えるサイトを探したり、集めたデータを管理するデータベースを作って、オンラインでいろんな人たちとシェアしたいとも考えています。