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瀬戸内海芸術の秋① ~直島~

2020/11/11

特急いしづちに乗り、高松へ向けて出発。流石は特急列車とでも言うべきか、単線でカーブが多いにもかかわらず物凄いスピードで走り抜けていく。途中の詫間~海岸寺駅間には海が車窓一面に広がる場所があり、千と千尋の神隠しのサントラ「六番目の駅」を聴きながらその景色を眺めると幾ばくか旅情をそそられる。

この日の目的地はアートの島として有名な香川県直島。高松駅からすぐの所にある港で直島行きのフェリーに乗り込むと、4,50分くらいで直島の宮ノ浦港に到着する。港の隣には草間彌生の赤い南瓜がどっしりと佇んでおり、アートの島の玄関口に相応しい姿だった。宮ノ浦港周辺には他にも、白い金網でできた巨大なオブジェ「直島パビリオン」や、奇抜な外観の銭湯「I♥️湯」などがある。今回はこの町のレンタサイクル店で自転車を借り、島を一周することにした。


港から東に向けて15分ほど走ると、古い街並みが特徴的な本村エリアに入る。街の路地裏や壁の至るところにアートが隠されていて歩き回るだけでも楽しいのだが、本村エリアの一番の見所は何といっても「家プロジェクト」であろう。これは街に点在する古民家を改修し作品化したもので、共通チケットを買えば7軒中の6軒を見てまわれる。内部は撮影禁止なので画像は無いが、絵とは思えないほど躍動感に満ちた滝の作品がある「石橋」、水面に色とりどりのデジタルカウンターが散りばめられた「角屋」、オンボロな見た目でありながら中には錯覚を起こすような空間がある「はいしゃ」、人一人しか歩けないような狭い道の先に神秘的な光輝く階段がある「護王神社」、そして真っ暗闇の中で目を慣らすと同時に不思議な感覚を味わう「南寺」と、外観からは想像がつかないような衝撃的な体験ができる家屋がたくさんあるので、非常にお勧めだ。昼は「あいすなお」にてヴィーガン料理を頂いて、本村地区を後にした。


自転車で島の南部へ移動すると次は美術館エリアに入る。文字通りこのエリアには大きな美術館がいくつかあるのだが、屋外にも作品は多い。琴弾地(ごたんぢ)の浜辺に来るとそこにも草間彌生の黄色い南瓜が置いてあり、先程の赤い南瓜と同じくらいの存在感がある。


時間的に美術館には寄れないので、所々の屋外作品を観ながら港に戻ろうと思ったが、ここで思わぬ事態に出くわす。なんとそこから先の道はパッと見40度くらいはあるんじゃないかと思える程の急勾配だったのだ。到底簡単に進めるような坂ではないが、しかし観たい作品は確かにこの道の先だし、来た道を戻って遠回りするのも面倒なので、自転車を押して進むことにした。この季節に汗をかきながら押し続けること15分、何とか坂の頂上付近まで登り詰めることに成功。予想外の道ではあったが、高台から眺める紅葉と海の景色はとても良く、それまで人工的なモノを主に観てきた直島の、自然的な一面にも触れることができた。


道が平らなところに来ると、道路脇にトトロのバス停が現れる。ここに来て急に二次創作的なものがきたので驚いたが、これもまた直島の隠れたスポットだ。内陸部へさらに進めば、桜の木が縦横綺麗に植えられた「桜の迷宮」と、巨大なゴミ箱のオブジェ「もうひとつの再生」がある。作品名に深い意味がありそうだと考えるも、特に何も分からずにその場を去った。

宮ノ浦港へ戻っていく途中の公園で一休みしてた時、一人の地元のおじいさんに「観光の方?」と尋ねられた。そうですと答えると「これ、僕が描いたんです」と言い、持っていた色紙を見せてくれた。その絵はこの先の街の風景画で、家の窓や標識、電信柱などがとても緻密に描写されている。話によるとその方は直島の至るところでこのような風景画を描かれているようで、美術館にも作品の一つが展示されているらしい。アートの島には隠れた絵画の天才も住んでいるんだと感じたし、自分の作品を嬉しそうな笑顔で語るおじいさんの姿がとても微笑ましかった。


港に戻り自転車を返却した後、16時半のフェリーで直島を出発。30分ほどでフェリーは岡山県の宇野港に到着した。この日は小豆島のホテルに泊まるのでここで乗り継ぎとなるが、小豆島行きの船はかなり小さく、乗り場も小ぢんまりとしているので見つけるのに時間がかかった。宇野港には「宇野のチヌ」というゴミで出来た魚のオブジェがあり、これもまた見ごたえがある。目を凝らすとゴミの中には有名なキャラクターの錆びた人形が混じっていて、若干ホラーである。

宇野港を出ると船は途中豊島に止まる。実は豊島とその近くの犬島もアートの島として名高い所なので、いつか行ってみたいものだ。

そして18時半頃、遂にこの旅の最終目的地となる小豆島・土庄港に到着。一日一日が途轍もなく長く感じるが、明日でもう最終日かと考えると、あっという間だったなと思う。

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