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この店の大将が出す肴は、キリがない。

私は「小料理屋なみ」という店に行く前に、実は小料理屋という概念をあまり理解していなかった。結局は、昔ながらの落ち着いたの雰囲気を醸し出している居酒屋なのだろうかと。雑居ビルの一角にあり、暖簾の裏側には木造扉を構えいて、店の外には温かみのある白熱球の光が漏れているような。店内は中年男性が酒を片手に世間話や愚痴を行っているような情景が浮かんだ。もちろん、私一人やデートで行くようなところではないととも感じた。
もし彼が私を連れて大学時代にアルバイトしていた小料理屋に行こうと誘わなかったら、私はここに行く計画すら立てなかった。

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△小料理屋なみ

小料理は、その名の通り「ちょっとした料理」で手軽な一品料理。なんだかミシュラン和食と日本式深夜食堂の中間地帯のようだ。あまり日常的ではない料理もあるが、ここは家庭の食卓のような雰囲気で食事をしてもいいし、一杯だけ飲んで帰ってもいい。

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△種類豊富な焼酎達

私達が入店した時間は夕飯時だが、小料理屋へ来る常連はまだ家すら出ていないだろう。

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△御通しとエビス

席に着いて、エビスを注文した。お通しを食べながら、第一陣が来るのを待った。そう、刺し盛りだ。彼の予約のおかげで、待ったというほどでもなくすぐ来た。刺身の種類は時期替りのようで決まってはいない。今回は平政、鯛、平目、雲丹、縞鯵、中トロ、鯨ベーコン。(文句のつけようがないくらいVIP対応だ。ちなみに、特別扱いではな通常メニューだ。)まさに、大将の豪華な空砲が放たれた瞬間であった。

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△輝く刺身盛り

そもそも刺身は美味しいと思うが、鮮度だけでは語れない。大将は刺身の熟成も重要視している。余分な水分を取り除き、一定の時間を置く。そうすることで、タンパク質が分解し、舌の先で踊るアミノ酸に変わる。最適な温度・時間管理の集大成が、最高の刺身を完成させる。

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△刺身盛り(別アングル)

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△雲丹

ちなみに、この日のランチは唐戸市場の新鮮なお寿司だったが、ここの刺身はそれを凌駕する美味しさだった。ヒラマサとヒラメは熟成の効果もあるのか、弾力があり、噛むたびに旨味を感じる。ウニは言わずもがな濃厚だ。中トロはしっとりした食感に酸味と甘みのバランスがいい。タイはカボスの果汁をつけると数段旨味が増す。(お店の土佐醤油(刺身)は自家製です。鰹の香りが刺身の旨味を引き出す。この醤油は刺身に最適だ。)
ただ、熟成した鯨ベーコンは生臭い匂いを感じあまり好みではなかった。一口でお箸を置いてしまった。鯨ベーコンは初めて挑戦したが失敗した。※彼は好物のようだが。。。

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△鯨ベーコン

続いて流れる水のようにテンポよくテーブルに並べられたのは、ポテトサラダ、フグの揚げ物、白子(鱈)と牡蠣のバターソテー。

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△特製ポテトサラダとフグの唐揚げ

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△白子と牡蠣のバターソテー

もちろん最高に美味しい。この店の料理のレベルには感心した。

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△明太子と数の子

明太子と数の子が提供された時、この料理は「魚魚魚魚」、と軽いジョークを添えられたが、急に扉が開き冷気が入り込んだのかと思うくらい冷えた。

明太子は言うまでもなく、九州名物で、卵として絶妙な塩気で、生臭さもなく、ミルクの香りがする。数子さんは以前に一度食べたことがあるが、良い印象ではなかった。しかし、今回の食感と味を考えると、料理人の腕によって味が変わることを再認識した。つまり美味しかった。

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△肉豆腐(山椒入り)

次に肉豆腐だ。大将は私が中国人であることを知っている。豆腐と牛肉を醤油ベースで整えた味は、確かに日本人が愛用している味付けだ。また、共に山椒が煮込まれおり、四川料理のような痺れは少なく、香ばしさと優しさを感じた。

日常的な料理だが、ちゃんと面白い一工夫がある。この大将が作る料理は驚きの連続だ。

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△並々に注がれる日本酒

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△鯵ヶ澤(青森は尾崎酒造)

その後、日本酒に合うラインナップへと料理が変化し、思わず日本酒を頼んだ。

隣の席に座っている白髪おじさんはこのお店の常連だ。何気ない会話で親しくなった。そして、急に魚の干物を皆に渡し始めた。おじさんの故郷である北海道ならではの、𩸽の干物だ。激しく喜んで頂いた。

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△𩸽の干物

よく冷えた辛口の日本酒にとても合う。

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△三千盛(岐阜は三千盛)

滔々と流れる語りの中で、「鬼滅の刃」の話が出てきた。日本人はアニメオタクなので違和感はないが、中国の汾酒 (フンチュウ) についても中国人の私より詳しいとは驚きだった。

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△平政の西京焼き

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△ホタルイカの干物

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△THE HITOYOSHI(熊本は人吉の米焼酎)
※シェリー樽で熟成させており、仄かにウイスキーの香りがして美味しい。


そして、今回のお気に入りは「揚げ出し白子」だ。

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△揚げ出し白子

揚げだしは日本の伝統的な料理法だ。揚げ物の狂気的な香りと、日本の家庭料理の柔らかな味付けが最高に融合していた。一般的に居酒屋の揚げだしは、豆腐が多い。白子は豆腐より断然濃厚で甘い香り感じ、出汁に浸った衣が美味しい。

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△チーズパオ

最後の〆は私が注文した揚げチーズ。※〆が炭水化物とは限らない。
料理の名前はチーズパオ。私は生粋のチーズマニア。パオ=包むという意味はすぐわかった。

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△チーズ(ニュージーランド産)

ニュージーランド産のチーズを日本の餃子の皮で包んだこの料理の名前は中国語。なんて、グローバルなんだ。


食事が終わり、二人で飲み食いした結果、料金は驚くほど安かった。
食べた料理はほとんどメニューに書いてない。入店後、カウンターに座っているだけで次々に料理が運ばれた。大将は私たちが何が食べたいのかわかっている。私達は、ただ安心して他のお客さんと会話し、お酒を飲めばいい。大将はお客と阿吽の呼吸で美味しい料理を提供している。

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△調理中の大将

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△陽気な大将

おそらく、調理場には無限の食材が眠っており、夜な夜な来店するお客のドラえもん役になっているのではないだろうか。

ご馳走様でした。
また来ます。




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