ヒット作が出ないまま10年間個人アプリ開発を続けたエンジニアの末路
この記事は 個人開発 Advent Calendar 2021 の18日目の記事です。
「もうスマホアプリ市場はレッドオーシャン」とか、「個人アプリは埋もれてしまって全然ダウンロードされない」とかいう話をちらほら聞きます。
実際、過去に個人でアプリをリリースしたけれど、ヒットしなくて辞めてしまった、という人もいるのではないでしょうか。
では、もし…
ヒット作が出ないまま10年間個人アプリ開発を続けたら、どうなってしまうのか
という話をします。
作ったもの
まずは、これまで作ったアプリやダウンロード数などのデータをまとめます。
これまでにリリースしたアプリは、
iOS(ツール系):39本
Android(ツール系):1本
ゲーム:29本
で、計68本です。
(Androidアプリは、iOSアプリのAndroid版なので合計にはノーカウント)
ツール系アプリは、「写真/ビデオ」カテゴリが多いです。
ゲームは、主にUnityで開発したカジュアルゲームです。
ダウンロード数
つい先日、iOSとAndroidの合計ダウンロード数が200万を突破しました🎉
しかし、一番ダウンロードされているアプリでも10万ダウンロードを超える程度で、ヒット作と呼べるには程遠いです。。
iOSのダウンロード数の推移
10年間のiOSアプリのダウンロード数とリリース数の推移は、以下になります(Androidは省略)。
(12/22追記:記事公開後に2本リリースし、2021年は18本になりました)
2020年からは、「ロックダウン」x「完全に残業なし」x「在宅勤務」のコンボで、個人アプリ開発の時間が増えたため、リリース数もダウンロード数も増えました。
両OS合わせると、最初の9年間で100万ダウンロードされ、今年は1年間で100万ダウンロードされました。
ジャンル別の内訳
ジャンル別のダウンロード数は、
ツール系:ゲーム = 1:1
です。
ちなみに、両OS合わせると、1本あたりのダウンロード数はゲームの方が多いですが、iOSアプリに限定するとツール系のほうが多いです。
OSの内訳
OS別のダウンロード数は、
iOS:Android = 4:1
です。
AndroidはほぼUnityのゲームアプリですが、スペックの低い端末ではまともに動かないゲームもあったからか、あまりAndroidでは広まらなかったのかもしれません。数年前まで端末を持っていなかったので、実機で動作確認せずにリリースしていました。
収益
東京都の平均給与より多少高いぐらいです。
収益の推移は、先ほどのiOSのダウンロード数の推移と同じような感じです。
本業と個人開発の歴史
社会人になってから、ずっとフルタイムの会社員として働いていて、終業後や土日に個人開発をしています。
ここでは、本業や個人開発のスタンスの移り変わりについて書いていきます。
個人開発のきっかけ
昔からものを作るのが好きで、大学では学部と院で6年間情報工学を学び、新卒でキヤノンに入社しました。
しかし、キヤノンに限らず日系大手メーカーでは、ソフトウェア開発を子会社に丸投げし、それらの会社を管理するのが主な仕事です。
このままだと技術力が身につかず、ただのおっさんになってしまうという危機感が半分と、単純にプログラミングが好きで何か作りたかったからが半分で、個人開発をはじめました。
iOSアプリ開発をはじめる
最初はWeb系を考えていましたが、勉強していたGoogle App Engineが有償化し、Googleにハシゴを外されてしまいました。
その頃iPhoneを使っていたこともあり、iOSアプリの開発をはじめました。
大学時代に画像処理の研究をしていた経験を活かし、画像処理を応用した写真加工アプリやエンタメアプリをいくつかリリースしました。
この頃は、個人アプリ開発は勉強という側面が強く、新しい技術を試すためにアプリを作るという感じでした。
Unityをはじめる
アプリ開発をはじめてから約2年後、アプリのダウンロード数はゲームが一番多いという情報を聞き、ゲームも作りたいなと考えていたところ、Unityと出会いました。
1作目は全然ダウンロードされませんでしたが、2,3作目がそこそこダウンロードされ、収入もお小遣い稼ぎぐらいになったので、Unityゲームの開発が増えてきました。
この頃になると、アプリ開発の技術はある程度習得していたため、個人アプリ開発は趣味の側面が強くなってきました。
面白法人カヤックに転職
なんやかんやで、キヤノンからカヤックに転職しました。
カヤックではスマホゲーム用のSDK「Lobi SDK」の開発を担当したこともあり、個人アプリもゲームが中心になります。
しかし、そんなある日、Lobi SDKのサービスが終了することになりました。
その頃リリースしていた個人アプリはLobi SDKを前提とした難易度設定にしていたこともあり、継続率は下がり、収益も下がりました。
そんなわけで、ゲーム開発熱も少しずつ治まり、ツール系アプリもときどき開発するようになりました。
オランダ移住
海外移住するつもりは全然なかったのですが、なんやかんやでオランダの会社で働くことになりました。
会社では在宅勤務が奨励されていて、1年目の終わり頃から在宅勤務になって通勤時間がなくなりました。
オランダの会社では残業は完全に存在しないため、さぞかし個人開発が進むだろうと思いきや、全然そんなことはありませんでした。
なぜかというと、平均して月1ペースで海外旅行をしたためです。ほぼ1年中旅行の準備をしていて、個人開発は全然できませんでした。
この頃までは、自分が作りたいもの優先でアプリ開発をしており、ダウンロード数や収益はそこまで重視していませんでした。
しかし、2019年には、将来のことを考えてマネタイズを強化する方針を立てました。言い換えると、ダウンロード数や収益を重視するようになった、ということです。
ただ、2019年は、個人開発より旅行やワーケーションを優先してしまい、マネタイズ以前にアプリをリリースできませんでした。。
ロックダウンで個人開発時間が増えた
2020年、オランダでロックダウンが始まりました。
特にすることもないため、個人開発の時間が増えました。
引き続きゲームを多めにリリースしていましたが、以前ほどはダウンロードされなくなりました。そこで、ちょっとアプリ開発の方針を見直すことにしました。
2019年頃から薄々気づいていたのですが、ダウンロード数は、ゲームより(あまりリリースしていない)ツール系アプリの方が断然多いという状況でした。
「1インストールあたりの収益はゲームのほうが高いけど、ダウンロードされなくなってきている。それならダウンロードされてるツール系アプリの収益を上げるようにすれば全体の収益は上がるのでは?」
と仮説を立て、下期はゲーム開発を封印し、ツール系アプリだけを開発する方針にしました。
この方針はうまくいき、ダウンロード数も収益もいい感じに推移しています。
(開発コストもツール系アプリはゲームの半分以下です)
マーケティングを意識しすぎて失敗
2020年にリリースしたアプリを分析した結果、事前にマーケット調査をしたアプリほどダウンロードされたことを発見しました。
そこで、2021年はマーケットを重視し、マーケットの大きそうな分野を狙ってアプリを開発しました。
結果から言うと、全然ダメでした。
変にマーケットを意識して、定番アプリの劣化版のようなアプリを作ったり、既存アプリと無理やり差別化しようとしてよくわからないアプリを作ったりしてしまいました。
結局、今年リリースしたアプリで一番ダウンロードされたのは、気分転換に1週間で作ったUnityゲーム「連打力検定」でした🥺
リリースしてから半年後ぐらいに、App Storeのゲーム総合6位まで謎に上昇し、ピーク時は1日に1万ダウンロードされました。
2022年は、初心に返って自分が使うアプリや作りたいアプリを作っていこうと思います。
なんというか、プロダクトアウトでアプリを企画し、その企画がいけそうかを市場調査等でふるいにかける、というイメージです。
以上が、本業や個人開発のスタンスの移り変わりとなります。
これまでの個人開発を振り返って
10年間の個人開発を振り返って、自分の経験から言える個人開発について書いていきます。
(とは言え、アプリのカテゴリによっても状況は違うと思います。僕が作ったアプリを参照しつつ、こういうアプリを作った人はこういう感想を持つのかと話半分で読んでいただければと思います)
個人開発で学んだこと
お金は儲けようと思わなければ儲けられないです。逆に、マネタイズをちゃんとしておけば、ヒットしなくてもそれなりの収益になります。
(日本の失われた30年は、「お金儲けは悪」という日本の風潮が原動力になっているような気もします)質より量。何が当たるかわかりません。自分の場合は、軽い気持ちで作ったものほどダウンロードされました。
アプリが人気出るかどうかは、リリース直後にほぼわかります。リリースして数日で1日1桁ダウンロードのアプリは、コンセプトレベルでアプリを変えないと、どうにもならないです。本当に需要のあるアプリは、宣伝なしでも初日から1日2,3桁ダウンロードされます。リリース数カ月後してから急にダウンロードされ始めてランキング入りしたアプリも、1日2,3桁ダウンロードされていました。
個人的な経験から得た教訓は、だいたい定番のビジネス書に書いてあります。昔読んだときはふーんと読み流していたようなことが、個人開発で実感できて、本ってすごいんだなと思う今日このごろです。
個人開発にかけた時間と成果は比例します。2019年までは年に3〜5本しかアプリをリリースしていませんでしたが、全然足りなかったと感じます。企画に時間をかけたアプリや、作り込みがすごいようなアプリならともかく、ちょっとした思いつきで作ったアプリを年に3〜5本しかリリースしなかったら、そりゃ結果出せなくて当然だと思います。
個人開発のメリット
ビジネス書で得たマーケティング、行動経済学、データ分析などの知識を、その日から実践できる
会社のプロダクトでは使えないような新しい技術を試せる
自分が欲しいアプリを自分で作ることができる
実力主義
これから個人アプリ開発を始めてもお金を稼げるか
稼げると思います。
とは言え、10年前に比べると難易度は上がっています。
定番ジャンルのアプリを何の工夫もなしにリリースしても全然ダウンロードされないでしょう。
しかし、年々新しいトレンドや技術が誕生しているので、それに乗っかればダウンロードされるアプリを作れる可能性はあります。
例えば「写真/ビデオ」カテゴリの場合、4年前にインスタのストーリーが登場してからしばらくは、ストーリー作成アプリがランキングで目立ちました。
最近だと、去年登場したiOS14からウィジェットが使えるようになり、ウィジェットアプリ市場が生まれました(僕もウィジェットアプリをいくつかリリースしました。その波には乗れませんでしたけど😇)。
これからも、メタバースなど新しいトレンドが生まれると思うので、それらに乗っかれば全然稼げる可能性はあると思います。
ちなみに、先ほど今年は100万ダウンロードされたと書きましたが、そのうち30万ダウンロードは今年リリースしたアプリで、40万ダウンロードは去年リリースしたアプリです。
例えば、カテゴリランキング入りするかどうか程度のアプリしか作れなくても、マネタイズをしっかり考えてアプリ開発を続ければ、普通の会社員ぐらいの収益は実現できると思います。
今後の予定
ヨーロッパに飽きるほど旅行もしたし、1人でできることはだいたい楽しんだ感があるので、そろそろ家庭を築きたいなと思っています。
オランダにいる限りは結婚できそうにないため、日本へ移住するつもりです。
(もともと結婚願望はあって、オランダに移住しても何かしらのサムシングはあるやろーと楽観的に考えていましたが、どうにもなりませんでした。例えばマッチングアプリの場合、オランダで1年間でマッチする数と、日本で1日でマッチする数は同じぐらいです😇)
お金の使い道のないオランダ生活で貯金ができて、個人アプリの収益だけで生活できるようにもなってきたので、日本移住後しばらくの間は、
本業を婚活にし、副業で個人アプリ開発を続けていく予定です。
(個人開発だけで生きていくつもりはないので、婚活が落ち着いたらまた就職するつもりです)
次回予告
というわけで、来年のアドベントカレンダーの記事は、
「オランダから帰ってきて無職のまま1年間婚活を続けた個人開発者の末路」
です。
良い結果を報告できるようにがんばります。
(みなさんにもご協力していただけると、非常にありがたいです😊)