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幸福として設定するのを避けた方が良い危険な幸福と幸福の設定方法

幸福なのはずなのに幸福じゃない

幸福は古代から様々定義が置かれている。100人いれば、100通りの幸福の定義があるだろうし、それは間違ってもいないだろう。幸福の定義は厳密にわかってはいないというのが現状だろう。

ただ、わかっているのは、多くの人が幸福と感じていないということだ。例えば、世界で鬱病と診断された人は2017年、約260億人にも及び、増加傾向である(1)。また、データを詳しく見ると、一見、幸福そうに見える高収入に属する人々の方がそうでない人よりもうつ病の発症率が高い(2)。

多くの人が幸福でありたいと願う中で、実際には幸福でない。あるいは、幸福であるはずのものを手に入れたはずなのに、幸福でない。この状況の中には、『そもそも求める幸福が本当に自分にとって幸福であるのかどうか?』という問題を問うていく必要があるように思える。

今回は、自身の幸福として設定すると逆に幸福から遠ざかってしまうのではないかという「危険な幸福」を紹介する。そして最後に、どう幸福を設定すればいいのかを紹介したい。

危険な幸福1:特定の状況を幸福として設定する

「あの会社で働くことができたら幸せ」、「あの人と結婚することができたら幸せ」、「〇〇という街に住むことができたら幸せ」。このような特定の状況に幸福を設定する人は多い。しかし、多くの場合このような特定の状況になっても、幸福になれないことが多いし、このような特定の状況になれなかった場合は尚更そうである。

例えば、好きな人と結婚したとしても主観的幸福度は、2年後には結婚前のものに戻る(3)。多くの人が憧れるカリフォルニアに住んだとしても、過酷と言われる中部に住んだとしても幸福度は変わらない(4)

それは、状況の中には、自分ではコントロールできないようなことや、悩まなければならないようなネガティブなものも必ずと言っていいほど伴ってくるからだと考えられる。憧れと思っていた会社が突如立ち行かなくなることもあるし、その中で気が滅入るような組織政治をしなければならないかもしれない。好きな人と結婚することは、好きな人の嫌なところを見る機会や可能性が増えるだろうし、ましてや子供をもてば当然親としての責任や家計の問題が生まれてくるだろう。また、みんなが憧れるような街は大抵高い税金や、家賃などが課される場合が多い。またそれらは、そもそもそれが達成できないことだってありうるだろう。


つまり、特定の状況を幸福と定義することはその状況を阻害するようなことが多々発生し、その問題はコントロール不可能である場合が多い、また、そもそもその状態になかった時に幸福が成し遂げられなかったりなど、維持と達成が難しいのである。こう言った自分ではコントロールできないようなことや、悩まなければならないようなネガティブなものの発生も含めて幸福と設定できればいいかもしれないが、多くの場合、その状況にあることと、そこから得られる幸福感を幸福と設定してしまっているため、その状況になっても自分の想像よりも幸福になれないことが多いのである(5)。

危険な幸福2:相対比較が容易なものに幸福を設定する

「金持ちになったら幸せ」、「豪華な家や時計を持てば幸せ」。こう言ったことを幸せと定義するのは、珍しいことではない。そもそも、古代の人類は、「より多く、より良く」という考えを持って生き残ってきた面がある(6)ので、より良いものを、より多く持ちたいと考えるのは当然だ。そもそもそういう考えがなければ、テクノロジーの成長も、経済の成長も起こらなかっただろう。

ただ、問題なのは、「より多く、より良く」という倫理を、自身の幸福として設定してしまうことである。金や物といったものは、相対的比較がしやすい分、幸福の指標として計測しやすい。しかしながら、それは脆さもある。他人の幸福と自分の幸福を相対比較しやすいのだ。つまり、年収600万で金に幸福を設定している人は、年収800万の人を見ると自分が不幸と感じるだろうし、この連鎖は続くだろう。最終的にこの幸福ゲームが収束するのは、前澤社長やジェフベゾスなどといった人々なのだろう。豪華な家だって、いくらタワーマンションに住んだって同じで、もっと豪華な家に住む人、広い土地に住む人はこの世にいくらでもいるだろう。

実際に、物質によって幸福を埋め合わそうとする物質主義は幸福を遠ざけることが知られている(7)

つまり相対比較が容易なものに幸福を定義すると、「より多く、より良く」の倫理から、幸福の相対比較にいとまがなくなってしまうし、それによって幸福でなくなる可能性が高いのである。

幸福はどう設定すればいいのか?

以上あげたのが幸福として設定するのが危険な幸福だが、ところで、幸福はどう設定すればいいのだろうか?それは、価値を充す行動を幸福と設定することである。特定の状況や相対的比較可能なモノではなく価値を充すこと、そして行動に幸福を定義するのだ。

ここでいう価値とは、心の中の深い欲望、動機付ける主要な原理である(8)。いささか抽象的であるので、例を出すと、「金持ちになりたい」という目標の奥にあるのは、「より成長したい」という思いかもしれないし、「社会に貢献しているという実感を得たい」という欲望なのかもしれない。価値とは、このように、目標のさらに根元にある動機や、思い、感情を指すのである。つまり、この人の幸福を価値に基づいて再設定すると、「金持ちになりたい」ではなく、「より成長したい」や「社会に貢献したい」というものにある。

価値を充すことそのための行動をしていることを幸福として設定する利点は、コントロールできないことや相対比較を避けやすいことである。先の例をあげれば、「金持ちになる」ということを幸福とすれば、それ以外の状態や他の人を見れば、たちまち幸福ではなくなってしまうが、「より成長したい」ということや「社会貢献したい」ということを幸福と設定すれば、どんな状況や他人がいても、その中でできる最善の行動をすることによって価値は充足できるだろう。そして、その価値というのは相対的な比較が難しいため、他人との相対比較に晒される機会も少ない。

価値に基づいて幸福を追い求めることを推奨している、学者の一人であるラスハリスは自身の本の中で、家族、恋愛等親密な関係、友人、仕事、教育自己啓発、余暇、スピリチュアル、社会での活動、環境・自然、健康の10項目について、価値を特定し、日々の生活の中でそれが達成できるような行動を積極的に取ることを推奨している(9)。

価値を充すことを幸福に設定することは、状況やモノを幸福として設定するよりもより行動といったコントロール可能な要因に主眼が置かれ、幸福感を得られやすいのだろう。

まとめ

以上、幸福として設定するのが危険な幸福と、幸福の設定方法を紹介した。幸福として設定すると危険な幸福は、特定の状況や、相対比較によって幸福を設定することであり、逆に価値に基づいて幸福を設定、行動すれば、幸福感を得やすいと考えられる。

神よ、変えることのできるものについて、
それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、
それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、
識別する知恵を与えたまえ(10)。

いかに価値に沿って生きられるのか、私自分も試してみたい。

【脚注、参考文献】

(1)Number of people with depression, by religion, 1990 to 2017(https://ourworldindata.org/grapher/number-suffering-from-depression-by-region)

(2)WHO.2017"Depression and Other
Common Mental Disorders"(https://www.who.int/publications/i/item/depression-global-health-estimates)

(3)Richard E. Lucaset al.2003."Reexamining Adaptation and the Set Point Model of Happiness:Reactions to Changes in Marital Status".Journal of Personality and Social Psychology.2003, Vol. 84, No. 3, 527–539

(4)David A. Schkade, Daniel Kahneman.1998"Does Living in California Make People Happy? A Focusing Illusion in Judgments of Life Satisfaction"Psychological Science,Vol 9, Issue 5, 1998 .

(5)Daniel Kahneman et al.2006,"Would You Be Happier If You Were Richer? A Focusing Illusion".Science 30 Jun 2006,Vol. 312, Issue 5782, pp. 1908-1910.

 (6)ラス・ハリス『幸福になりたいなら、幸福になろうとしてはいけない』、岩下慶一訳、2015年、筑摩書房。

(7)クラウディア・ハモンド『MIND OVER MONEY 193の心理研究でわかったお金に支配されない13の真実』、木尾糸己訳、あさ出版。

(8)前掲(6)

(9)前掲(6)

(10)ニーバーの祈り(http://home.interlink.or.jp/~suno/yoshi/poetry/p_niebuhr.htm)



・価値に基づいた幸福設定について書かれた本の紹介


【ダクト飯他記事】






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