吉田大助

1977年、埼玉県本庄市生まれ。ライター。紙媒体に掲載され、新しい号が出たためにアクセ…

吉田大助

1977年、埼玉県本庄市生まれ。ライター。紙媒体に掲載され、新しい号が出たためにアクセスしづらくなった原稿を、書評メインでちょこちょこアップしていこうと思います。Twitter@readabookreview , yoshidadaisuke0502@gmail.com

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書評の「評」は、「評価」と「評論」。

Profile. 吉田大助。ライター。1977年、埼玉県本庄市生まれ。 インタビュー→「STORY BOX」、「ダ・ヴィンチ」(以上、連載)など。 書評→「小説 野性時代」「小説新潮」「小説すばる」「小説現代」「朝日新聞」(以上、連載)など。 解説仕事→伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫)、凪良ゆう『流浪の月』(創元文芸文庫)、漫☆画太郎『漫古☆知新』(集英社)など。 書籍仕事→指原莉乃『逆転力』(構成)、『僕たちの月曜日』(アンソロジー編纂)など。 Tw

    • 【評論】 「右から左へ」から、「奥へ奥へ」──映画『アンダーカレント』

       アフタヌーン四季賞・大賞を受賞した豊田徹也の二〇〇三年のデビュー作「ゴーグル」は、審査員の谷口ジロー(『犬を飼う』、『孤独のグルメ』etc.)から「ほとんど完璧な作品だ」と絶賛を受けた。決してゴーグルを外さない少女と、彼女の面倒を見ることになった男。リアリズムを追求した絵とそのまま実写映画にできそうな正確な構図とコマ割り、そして漫画的な派手さのない人間ドラマは、作者が谷口ジローの影響下にあると感じられるものだった。しかし、豊田の今のところキャリア唯一の長編『アンダーカレント

      • 人生はいろいろあるけれど、世界は「不幸」の予感や可能性で満ちているけれど、大丈夫。──嶋津輝『襷がけの二人』(文藝春秋)と『駐車場のねこ』(文春文庫)

         滋味たっぷりな人情噺を詰め込んだ、オール讀物新人賞受賞作を含む短編集『スナック墓場』(文庫化に当たり『駐車場のねこ』と改題)で二〇一九年にデビューした、嶋津輝。待望の第二作にして初長編『襷がけの二人』は、四半世紀に及ぶ女二人の運命の物語だ。  冒頭の一章「再会 昭和二十四年(一九四九年)」で描かれるのは、鈴木千代が住み込みの女中の職を得る姿だ。独り住まいをしている三味線のお師匠さん・三村初衣は、目が見えない。口入屋も紹介をためらっていたのだが、〈千代は三村初衣という名を見

        • 二〇二二の新人と「マッチング」について

          Intro 三作の鞍替え当選  二〇二二年度の一般文芸のエンターテインメント系新人賞を眺め渡してみた時、まず最初に気付くのは、「鞍替え当選」した作品の存在だ。ある新人賞に応募して落選したものの、他の新人賞に(加筆修正後に)再応募して大賞に至った作品が少なくとも三作ある。第二一回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した小西マサテル『名探偵のままでいて』と、第一〇回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞した小川楽喜『標本作家』。もう一作は、情報が公にされていないようなので詳細は伏せ

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        書評の「評」は、「評価」と「評論」。

        • 【評論】 「右から左へ」から、「奥へ奥へ」──映画『アンダーカレント』

        • 人生はいろいろあるけれど、世界は「不幸」の予感や可能性で満ちているけれど、大丈夫。──嶋津輝『襷がけの二人』(文藝春秋)と『駐車場のねこ』(文春文庫)

        • 二〇二二の新人と「マッチング」について

          【書評】 新井すみこ『気になってる人が男じゃなかった VOL.1』

           Twitterには140文字までという文字数制限の他に、1つのツイートにつき画像は4枚までという制限がある。この制限を逆手に取って1話4ページで完結する漫画を描く、いわゆるTwitter漫画が一世を風靡している。大手出版社によってコミックス化され、ベストセラーになるケースも目立ってきた。例えば『先輩がうざい後輩の話』(しろまんた/一迅社)がそうだし、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(豊田悠/スクウェア・エニックス)、通称「チェリまほ」も出発点はTwitterに投

          【書評】 新井すみこ『気になってる人が男じゃなかった VOL.1』

          新たなる「罪と罰の関係性」を描く──漫F画太郎『罪と罰』(原作・ドフトエフスキー)第1話解説

           誰もが知るロシアの文豪・ドストエフスキーの五大長編小説のひとつ『罪と罰』(一八六六年)は、大学を放逐され未来に希望を見いだせずにいる貧乏青年ラスコーリニコフの、魂の彷徨を、濃厚濃密なモノローグで描き出す。冒頭のシーンは有名だ。彼は敗者意識を、ゆがんだ正義感に置き換えて、がめつい質屋の老婆を殺す。続けて、留守であるはずが偶然その場に居合わせてしまった、老婆の妹までも殺す。  目撃者がおらず、物的証拠も見つからないため、彼が犯人と名指しされることはなかった。躁鬱気質で、家族や

          新たなる「罪と罰の関係性」を描く──漫F画太郎『罪と罰』(原作・ドフトエフスキー)第1話解説

          漫☆画太郎『漫古☆知新〜バカでも読める古典文学〜』(集英社刊)、解説コメント集

          第1回 小林多喜二『蟹工船』 「まさに我が意を得たりです」 第2回 ジュール・ルナール『にんじん』 「まさに私のションベン・・・いや大便者です」 第3回 ニコライ・ゴーゴリ『鼻』 「こんなに手の内明かされたら商売上がったりだぜ!! そろそろ吉田氏の鼻の穴にクソ突っ込むか…」 第4回 夏目漱石『吾輩は猫である』 「毎回毎回こんなに的確に手の内明かされちまったら商売上がったりだバカヤロー!! てめえもケツアナ確定されてーのかこのクソヤロー!!」 第5回 チャールズ・ディケ

          漫☆画太郎『漫古☆知新〜バカでも読める古典文学〜』(集英社刊)、解説コメント集

          「男性主人公縛り」のお仕事小説&漫画アンソロジー『僕たちの月曜日』(角川文庫)

          「男性主人公縛り」のお仕事小説&漫画アンソロジー、『僕たちの月曜日』をお届けします。  編者を、という依頼が届いたのは二〇二二年三月末で、収録作のセレクトを完了させたのは六月初旬でした。探し方としては、いわゆる「働き方改革関連法」が国会で成立したのが二〇一八年六月なので、お仕事にまつわる日本人の意識の変化が明確化したのはこのあたり、とする。そのうえで、二〇一八年以降に発表・刊行された広い意味でのお仕事小説を片っ端からチェックしていきました。筆者は二〇一五年夏から「小説新潮」

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          【書評】 AI、ダンス、介護。三つ巴のアプローチで人間性(ヒューマニティ)の根幹に迫る、畢生のSF長編──長谷敏司『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』

           ライトノベルのジャンルで活躍する一方、AIを題材に取り入れ、ヒューマニティ(人間性)とは何かと問うSF作品を発表してきた長谷敏司。二〇〇九年刊の『あなたのための物語』ではAIに小説を書かせていたが、最新長編『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』ではAIにダンスを踊らせた。  物語の幕開けは二〇五〇年の東京。二七歳の気鋭のコンテンポラリーダンサー・護堂恒明は、不慮の事故で右足の膝から下を失ってしまう。絶望の淵から彼を救ったのは、高度なAIを搭載した義足だ。しかし、身体表現の最

          【書評】 AI、ダンス、介護。三つ巴のアプローチで人間性(ヒューマニティ)の根幹に迫る、畢生のSF長編──長谷敏司『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』

          【書評】 2022年のミステリー界を代表する俊英の2作──夕木春央『方舟』と白井智之『名探偵のいけにえ─人民教会殺人事件─』

          小説すばる2022年10月号、11月号掲載。 1. 「最大多数の最大幸福」にまつわるトロッコ問題をデスゲームの極限状況で展開した本格ミステリー──夕木春央『方舟』(講談社)  メフィスト賞受賞のデビュー作『絞首商会』、続く『サーカスから来た執達吏』と、大正時代を舞台に江戸川乱歩パスティーシュなミステリーを発表してきた、夕木春央。作風をがらっと一変させた第三作『方舟』は、現代日本が舞台の本格ミステリーだ。  柊一(僕)は卒業以来二年ぶりに再会した大学時代の友人らと共に、長

          【書評】 2022年のミステリー界を代表する俊英の2作──夕木春央『方舟』と白井智之『名探偵のいけにえ─人民教会殺人事件─』

          【コラム】 令和日本の恋愛小説が熱い!

           一般文芸において、恋愛小説の存在感が低くなって久しい。現実社会において、恋愛そのものの存在感が低下したからだ。現代人が恋愛しない/できない理由について世の中から漏れ聞こえてくる声を拾うならば、恋愛はコスパが悪い。面倒臭い。もろい。他の人間関係があればいい。今、一般文芸において恋愛小説の代わりに存在感を高めているのは、従来とは異なる新しい家族的関係の可能性を探る、広義の家族小説だ。  近年、脈のない相手に好意を告白する行為が「告ハラ(告白ハラスメント)」と呼ばれるようになっ

          【コラム】 令和日本の恋愛小説が熱い!

          【評論】 呪いと、それを解くための幾つかの方法。──浅野いにお『おやすみプンプン』

          0.二度の二万字インタビュー  浅野いにおには、何度もインタビューをしている。文字量が二万字を越える、ロングインタビューの記事も二度作った。タイミング的には、『おやすみプンプン』の連載開始直前と、連載終了直後。一度目は「Quick Japan」編集部からの依頼を受けたものだったが、二度目は場作りからおこなった。『おやすみプンプン』の最終回に衝撃を受け、その意味をより深く理解するために、「完全ネタバレインタビューをやりませんか?」と企画を立てたのだ(テキストサイト「cakes

          【評論】 呪いと、それを解くための幾つかの方法。──浅野いにお『おやすみプンプン』

          【全文公開】 二〇二一の新人と「新しさ」について

          小説新潮2022年6月号、「2021年に生まれた新人作家」特集に寄稿した評論を全文公開します。2021年にエンタメ系の公募小説新人賞を受賞(受賞発表or受賞作刊行)した、20作を分類&書評しています。 Prologue.1 「新しさ」を考える  小説の歴史は、先人たちの作品、物語のデータベースを、新人たちがアップデート(更新)する営みの連鎖だ。先人たちの後に作品を世に出したからではなく、小説の歴史に何かしらの「新しさ」を付け加えるからこそ、新人と呼ばれるのだ。それはデビュ

          【全文公開】 二〇二一の新人と「新しさ」について

          【解説】 語り直した、その先に、あらわれるもの──新海誠『小説・秒速5センチメートル』

          2012年10月に「MF文庫ダ・ヴィンチ」レーベルから刊行された、『小説・秒速5センチメートル』の巻末に寄せた解説です(当時は「小説」の後に中黒がありました)。 『小説・秒速5センチメートル』は、アニメーション監督・新海誠の小説家デビュー作だ。脚本・監督を務めた劇場用商業アニメ第二作『秒速5センチメートル』(二〇〇七年三月公開)を、自らの手でノベライズ。全三編の連作短編形式はそのまま、ストーリーだけでなくビジュアルをも言葉で再現しつつ、小説ならではのさまざまなマジックを振り

          【解説】 語り直した、その先に、あらわれるもの──新海誠『小説・秒速5センチメートル』

          【書評】 人生の主人公になることと、誰かにとっての観客になること。──乗代雄介『パパイヤ・ママイヤ』

          すばる2022年8月号掲載。本文ラストに登場する「舞台」の一語から想像力を広げました。  <これは、わたしたちの一夏の物語。>と宣言することから始まるこの小説は、十数行先で、舞台となる場所の名前が明かされる。小櫃川河口干潟だ。千葉県中西部に位置し、東京湾に唯一残された自然干潟として知られるこの場所に、六月の終わりのある日、パパイヤという人物が訪れる。笹藪に挟まれた「人ひとりがやっと通れるほどのまっすぐな砂利道」を通り、彼岸と此岸の境界線を思わせる「無数のカニの群れ」を踏み越

          【書評】 人生の主人公になることと、誰かにとっての観客になること。──乗代雄介『パパイヤ・ママイヤ』

          【書評】 常識と快感のリミッターを外し人間存在の真実へと掘り進む──加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる』

          「小説 野性時代」2018年2月号掲載。画像は2022年6月刊の文庫版ですが、内容は書評執筆時の単行本版に基づいています。下巻の内容にも触れていますので、背中を押されたい方向きです。  作家ならば誰もが一度は挑戦してみたいと思う、上下巻。自他共に認める代表作となることが義務付けられた、大長編。加藤シゲアキは作家デビュー六年目の第五作『チュベローズで待ってる』でついに、実行に移した。上巻は「AGE22」(第1部)、下巻は「AGE32」(第2部)と銘打たれている。それぞれの物語

          【書評】 常識と快感のリミッターを外し人間存在の真実へと掘り進む──加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる』