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母と裕之の散髪シーン


【8月の回想録】

この日は、春馬くんがいなくなってから初めて放送されたドラマが、この『太陽の子』だった。

先に放送されたドキュメンタリーの中で、春馬くんと役が重なるシーンがあって、この作品を観るのが辛いという声が、大多数を占めていた中で、僕はこの後に放送される彼のドラマも含め、リアルタイムで観ることが出来るドラマが限られていることを思うと、出来るだけ多くの人にこのドラマをリアルタイムで観て欲しいとポストした。

そして、僕はリアルタイムでこのドラマを観た。

柳楽くんと春馬くんが海辺に座って、僕らに背中を向けて語り合うシーンや、その他胸に迫るシーンは沢山あったが、その中でも僕が最も印象的だったのは、石村兄弟の母を演じた田中裕子さんと息子である春馬くんが、二人だけで縁側で散髪をしていたシーンだった。

きっと、幼い頃からそうしていたように、母が大人になった息子の髪を散髪する。この時、僕は間違いなくこのお母さんは息子の髪の毛を、息子には気づかれないよう、若しくは息子が席を立った後にそっと半紙に包んで、息子が戦死した後は遺髪として死ぬまで持ち続けたのではないかと思った。

こうして息子を見送った後に生きていかなければならない軍国の母は、どうしようもなく辛かっただろうと思うと哀しい。

何も語らず、何も訊かずの、静かにただ髪を切るシーンだったが、直接、息子に触れることが出来る最後だと覚悟していたかもしれない。

このシーンは、二人の気持ちの場所というか心の在り様が、同じ処になければ成立しなかったのではないかと僕は思う。

本当にいいシーンだった。

そんなことをポストしたことを今もはっきりと憶えている。 

そして、一年が経ち僕は映画版『太陽の子』を観た。

一年が経ったのだと、またこのポストをするにあたり、僕はしみじみ思うのだった。

そして今日は終戦記念日だ。

2021年8月15日付・インスタグラムより転載。

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