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磐梯熱海温泉②~湯上りの地元ハイボール~

2019年5月、父方の祖父の米寿を祝うために地元郡山に帰省した私と妻は、帰省ラッシュを乗り越え宿に着いたところだった。

部屋入ると、まず座椅子に座り茶菓子とお茶を楽しんだ。

しばらく休んだ後、この町に住んでいる母方の祖母のところにお土産を渡しに行った。

宿から祖母の家までそれなりの距離があったが、初夏の午後の日差しは気持ちよく、楽しんで歩くことができた。

家に着くと、伯母が出迎えてくれた。

祖母は部屋で私たちを待っていてくれたようで、妻を見るととても喜んでくれているようだった。

ちなみに、祖母は若いころは旧日本軍に所属し満州で働いていたことがある。ゲートルの中に拳銃を隠してロシア兵から逃げた、というなかなか重い話を毎回聞かせてくれる。

今回は拳銃の話はなかったがかわりに、戦後の東京で米兵にモテたがことごとくふった、という自慢話を聞いた、貴重な話が聞けてありがたいと思った。

祖母は妻のことをとても気に入ってくれていて、何かと様子を聞いてくる。

妻も祖母を大事に思ってくれている。

そんな二人を見ていると、家族っていいなぁとほのぼの思ってしまう。

祖母も伯母もお土産に吉祥寺で買った最中を気に入ってくれたようで、嬉しかった。

それから、祖母とお互いの健康について話し、来てから1時間ぐらいで帰った。

なかなか、会うことができないので毎回毎回帰るときは今生の別れみたいになってしまうのだが、パワフルな祖母は健在で私たちを元気に見送ってくれた。

宿に帰ると、さっそく温泉に入った。

この宿は、贅沢なことに泊り客に貸切露天風呂を使わせてくれる。

貸切露天風呂は石風呂と檜風呂の2種類があり、建物の4階から辺りの景色を楽しめる。満員電車とうってかわり、貸切露天風呂の解放感は最高だった。

夕暮れの山を眺めながら、ゆっくりと湯につかるとさっきまでの疲れが消えていくのを感じた。

私が子供のころ、よく磐梯熱海温泉に来ていたが今よりもっと賑わっていて旅館の数も多かった。好きなものがなくなるのは悲しいが、入った後に肌がツルツルになる泉質も風景も祖母の昔話も変わらない。

それを大人になって、妻と一緒に共有できることに感謝している。

磐梯熱海温泉は名湯百選の一つで、それ歴史は八百年と言われている。
名前の由来はかつてこの地の領主になった、源頼朝の家臣・伊藤祐長の出身地である伊豆の熱海温泉からきている。昔は、自分のいた土地の名前を領地につけるのが流行っていたらしい。

美人の湯と呼ばれ、京の都の萩姫の不治の病(皮膚病)をもとの美しい姿に戻したという伝説がある。

「すっごいツルツルになった!」

そんな美肌の湯に妻のテンションも上がっていた。

この旅館は夕食をつけなくてもいいのが売りなのだが、辺りの店が開いていなかったりコンビニが遠いなどもあって夕食を出してもらうことにした。

食事処は旅館の入口の右側にあり、そんなに広くはない。

他のお客さんを見ると、皆お酒を飲んでいるようで、ソースカツ丼を食べている人が多い。

私たちは山菜などが入った小鉢3種とごはん、天ぷらを注文した。

そして、お酒は地元のウィスキー”963(キュウロクサン)”のハイボールを頼んだ。

これは福島県郡山市にある笹の川酒造が製造しているウィスキーで、郡山市の郵便番号963から名づけられてる。まさに地元のウィスキー。

私も郡山出身なので郵便番号の上3文字は963だった。

この963は都内でも手に入りやすいので、時々家電量販店のポイントで購入することもあるし、ふるさと納税で手に入れることもある。

そういったわけで、都内の我が家では963を常備しいる。

といっても、いつも飲んでいるウィスキーより少し高めなので大切な行事があった時やお祝いをする時に飲んでいる。

しかし、地元に帰ってきたらやっぱりこれが飲みたくなる。

これが、小鉢のワラビや、天ぷらのタラの芽とすこぶる相性がいい。

「963、ハイボールお替りお願いします」

「私も」

ついつい、何杯もお替りしたくなる味だった。

炭酸ののど越しのよさと、フルーツのような香りと、いぶされたような香りが広がっていく。

湯上りの火照った体に、冷たく香り高いハイボールの刺激がたまらない。

胃が炭酸で刺激されて食欲も出てしまう。

地元の日本酒もかなり好きなのだが、ここ数年はこの963にどハマりしている。

ハイボールもいいが、ストレートにロックももちろんおいしい。ストレートでチーズを食べるのもすごく好きだ。

気持ちよく酔った私たちは、受付の横にあるマッサージ器を利用して体のコリをほぐした。
部屋に戻ると泥のように眠った。

温泉か、963か、あるいはその両方のおかげかわからないが、日常のストレスや疲れから解放された私たちはふかふかの布団に包まれ穏やかな、優しい気持ちで朝を迎えた。


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