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おいしいコーヒーの入れ方

ある日の夕方
リーダーから「コーヒー飲みますか?入れますよ。」
と言われた。

 
「お願いします。」と私は言った。その提案に驚いた。

 
コロナ禍になり
私の職場はコーヒーやお茶をいれないし、飲まないからだ。

 
前の職場は私がお茶やコーヒーを入れることがよくあり
どのコップが誰のか、誰がブラックか砂糖を入れるかを把握したものだが
転職してからは覚える必要がなかった。

 
「仕事が終わったら、ここのコーヒー飲んでもいいよ。」

入職したての頃にリーダーに言われたが
私は飲むことはなかった。

誰も飲んでいないし
役職についていない正職員はみんな定時で上がっていたからだ。

 
棚にはみんなのコップがずらりと静かに並んでいたが
使われることはなく
私は持ってこなかった。
飲まないならば持ってくる必要がない。

 
そんな私が自分のコップを持ってきたのは
転職して一年八ヶ月経ったある日だった。

ちょっと水を飲みたい時
お弁当の日にスープを飲みたい時に
私はマイカップを使った。

 
普段はマイ水筒を持ってきているため
出番はほとんどなかったが。

 
そんなタイミングでの、リーダーからの提案だった。
マイカップを持ってきてからまだ三週間も経ってなかった。

「しかし、なんでまたコーヒーを?」

私は同僚に尋ねた。

 
「ほら、Aさんが元気ないから。ご飯も最近残してるし。リーダーがコーヒーでも入れようか、って。」

なるほど、それでか。
私は納得した。

 
同僚Aさんは最近元気がない。

というのも
ここ最近
毎日某利用者が殴りに来るからだ。

 
理由は分からない。

いきなり表情が変わり
いきなり走ってAさんの元に行き
殴ろうとしたり、殴る。

「俺がコーヒーいれるなんてもうないかもしれないですね。」
「今日だけですよ。」
「ただのインスタントだから、誰がいれても同じ味ですよ。」

そんな風にリーダーは言ってコーヒーをみんなの席に置く。

 
私は嬉しかった。
感動しながらジッとコーヒーを見た。
リーダーがいれてくれたコーヒーはとてもおいしかった。

周りに職員がいなかったら写真を撮りたかったくらいだ。

 
リーダーは優しい。
憎まれ口を叩きながらも優しい。

リーダーは
おいしいコーヒーの入れ方を知っている。

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