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あなたの名前をあと何度呼べるだろう

リーダーの退職を知った土曜日。

土日と何をしても涙が止まらず、月曜日に仕事に行くのが怖かった。
リーダーに会うのが怖かった。
休みの日は別れの歌ばかり聴いて過ごした。
ご飯はろくに食べられない。夜は眠れない。

もう知らなかった頃には戻れない。

あんなにリーダーが好きで、会うのが楽しみだったのに、今一番会いたくない人になってしまった。

 
仕事に行く途中も涙が出た。
朝、既に仕事をしていたリーダーの背中に向かって挨拶をしただけで涙が出た。

花粉症のように振る舞いながら鼻をかんだり、涙を拭った。

ダメだ、顔が見れない。
怖い。

 
相当なストレスだったのか、不正出血まで見られた。

 
そんなぎこちない様子が伝わったのだろう。

新施設長から「メンタルは大丈夫ですか?」と聞かれ、私は苦笑いしながら首を振った。

 
大丈夫、なわけない。

 
午後、急遽面談が決まった。
私は相当、土曜日も今日もズタボロに見えたのだろう。

はたまた、私が相当リーダーを慕っていると気づいていたのだろう。

 
 
日中、利用者の前では泣かずに仕事ができた。
笑えたし、普通に話せた。
だけどやっぱり一人になると涙が込み上げたし、ご飯は完食できなかった。

 
 
面談で新施設長から「今後のことで不安なことはなんですか?」と言われ、私は号泣した。

全てだ。
全てだよ。
リーダーがいなくなったらもう、終わりなんだよ。
今一番好きで今一番信頼しているのはリーダーなんだよ。

 
そんなこと、言えない。

 
「まだ急な話で心の整理ができないんです…。これからもずっと一緒に働くと思っていたのに、まさかこんなタイミングでなんて……。」

 
私はそれくらいしか言えない。

 
 
前施設長と新施設長の話によると
上でさえ、退職の意向を知ったのは本当につい最近で驚いて、まだ受け入れられずにいるらしい。

本当に、創立記念パーティーで背中を押されて夢を叶えようと思って退職を決意したらしい。

ずっと来年度に向けて話を進めてきていて
本気だったのは確かで
本当に思い立ったが吉日だったようだ、と。

 
「リーダーは行動力ある人だからね。」

「裏表のない人でしょ?○○(施設名)の何かが気になって辞める、とかではないみたいよ。」

 
もしも、夢を追いかけて退職が本当ならば。
今まで私が信じてきた言葉や行動が嘘ではないのならば。

応援するしかない。
リーダーの前で泣いたり、不安をぶつけたり、退職を引き止めるなんてしてはいけない。

 
 
「何か気になることがあれば、私や○○さん(新施設長)にいつでも話していいのよ。直接言いにくかったらLINEや手紙でもいいのよ。」

ありがたい言葉だけど、
前施設長や新施設長では、ダメなんだ。

 
私の仕事の悩みは大抵があなた達の言動や価値観の違いだから。

 
 
「今度、●●さん(パートから正職員になる方)と話す機会も増えるだろうし、そうしたら分かち合えることも増えるわよ。」

ダメなんだ。
●●さんは、前施設長と学生時代からの親友だから。

●●さんが正職員になるということは、●●さんと過ごす時間が増えて、●●さんの前では話せない愚痴が増えるということなんだ。

 
それもまた不安なんて、言えない。

 
 
私「周りの職員は、みんなできる方で、私は自信が持てないんです。」

新施設長「できない利用者の気持ちが分かってよりよい支援に繋がりますよ。」

 
違う、違うんだ。
そこで褒めてほしいんだ。仕事の何かしらを認めてほしいんだ。
そういう風に言われるから、あぁやっぱり私は仕事できないって思われてるんだ、って思考になるんだ。

 
とは、言えない。

 
こんな風に私が不安や愚痴をこぼしたら
リーダーはうんうんと話を聞いてくれて、私を笑わせてくれて
大丈夫だよ、そんなに力まなくて大丈夫だよ、って
いつも思わせてくれるのに。

 
リーダーの前では話せない話なんか一つもない。

どんな話も必ず真正面から聞いて
私がほしい言葉をくれる。

 
私が声に出せない気持ちを察していつも助けてくれる。
こちらが言わなくても気づいてくれる。

いつだってリーダーは、スーパーマンみたいなヒーローみたいな存在だった。

あなたがいるだけでどれほど心強かったか。
あなたを思うだけでどれほど心強かったか。

 
できないことなんて一つもなくて
いつだってサッと助けてくれたり、笑わせてくれたのは
あなただけだった。

 
リーダーじゃないと、私はダメなんだよ。

 
皮肉にもまた、前施設長と新施設長の面談で
やっぱり施設長には分かってもらえないな、という思いを強めた。

 
 
それでも、号泣して、リーダーの退職の理由は嘘ではなさそうだと分かり
私はいくらかはすっきりして
ようやくリーダーと目を合わせて仕事の話が普通にできた。笑い合えた。

それが嬉しかった。

 
 
帰り道は同僚Aさんとリーダーと一緒だった。
驚いた。
リーダーが残業しないなんて月に一回もないのに。

リーダーなりの優しさだろうか。
退職を知った私たちの絶望ぶりを見て、それを早急にどうにかしなければいけないと思ったのだろうか。

 
最初にしかけたのは、Aさんだった。

 
「リーダーと帰ったり、話すのもあと少しなんですね。寂しくなるなぁ。」

「土日はまるで何も手がつかなかったよ(笑)」

「今まで、困ったことがあった時は“リーダー”って呼べたのに、これからは誰を呼べばいいの~(笑)」

 
Aさんが笑いながら言ってくれたから
職員みんなの気持ちを言ってくれたから
私もリーダーに言えた。

 
「私も土日は何も手につきませんでしたよ(笑)退職の話があった時、葬式みたいな雰囲気になっちゃったじゃないですか~!」

「退職日はハンカチ100枚持ってきてくださいね。利用者も保護者も職員も、みんなで泣くから。」

 
 
リーダーは笑いながら言った。

「俺はサラッといなくなるよ。いないことにすぐ慣れるし、次にいい人が来るよ(笑)」

「困った時は新施設長を呼べば大丈夫だよ(笑)」

 
「ずっと、いつか夢に向かって動きたい気持ちはあって、タイミングはうかがってて、創立記念パーティーの時に心が決まったんだよ。」

 
信じるよ。
その話は本当だって信じる。

今までの言葉や行動に嘘はないよね。
思うところがあったから、今日だって一緒に帰ってくれて、話す時間を作ってくれたんだよね。

そう信じていいんだよね。

 
リーダーの代わりは新しい人や新施設長では無理だけど
仕事は、組織は
誰かが欠けても、リーダーが欠けても
進んでいくしかないんだよね。
新しい形でなんとかやっていくしかないんだよね。

仕事はやるか辞めるかだから
リーダーがいなくなろうと、これから何があろうと
私が辞めない限りは
ここに残って働くしかないんだよね。

 
夢に向かって動き出したリーダーはやっぱり悔しいくらいかっこいい。
大好きだよ。

 
 
…ただ、本音を言えば
かっこ悪くてもいいから、まだここにとどまってほしかったし、一緒に働きたかったよ。

 
さすがにこれは、言えない。


 
 
これは多分、私の予想だけど。
リーダーは前の職場で長年勤めていたけど送別会がなかったらしい。
それは多分、同じような退職の伝え方だったんじゃなかろうか。

退職のそぶりはまるで見せず
全力で仕事に向き合って、周りの同僚や利用者と上手くやっていたのに 
すっと退職を言い出して、未練なく次を向いていたのが悲しかったり、寂しかったんじゃないだろうか。
潔すぎて、裏切られたような気分にさせられたんじゃなかろうか。

あくまで私の推測、だけれど。

 


 




 



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