見出し画像

宗教の勧誘

私は無宗教である。

一応、家として宗派はあるが
それにより、生活に何らかの縛りは全くない。
好きな神社や寺を参拝するし
教会にだって行っても構わない。

 
 
困った時の神頼みではないが
私は何か困った時ばかり神を信じる。

年配者の髭や髪が白髪もしくは灰色のロングで
白いワンピースのようなものを着て
素足で
頭に金色の輪っかが浮かんでいる神様だ。

 
神様仏様と言うが
私にとっては、神様と仏様は平等だ。
どちらに対しても、それなりに好意や敬う気持ちはあるし
どちらかに対して気持ちが特に強いということもない。

 
 
宗教に対して最初に意識したのはオウム真理教事件で
次に意識したのは、高校の帰り道だった。
高校の近くには、割と有名な宗教法人があり
私は高校に通うようになってから
その宗教法人について知った。

 
だが、ただそれだけだ。
私の周りの友達に宗教にハマっている人や
家族ぐるみで何らかの宗教を信じている人はいなかった。

友達は、大学で友達から宗教の勧誘をされたと言うが
その大学が都会だからで
私には無縁の話だと思っていた。

 
人は、自分が体験していないことに関しては
何故かどこかで自信がある。
私にはあり得ない話だろう、と過信している。

誰かに起きうるのだから私にだって起こりうるし
想像できることは起こりうるし
想像以上のことも、生きている限りたくさん起きるのに。

 
 
あれは私が大学三年生の頃の話だ。

私の高校時代のクラスメートが、高校卒業と同時に海外に家族で引っ越した。
確か父親の仕事の都合だった。

そんな友達から着信があった。
家族みんなで帰国したらしい。

 
私はもっと疑うべきだった。
高校時代、みんなで遊んだことはあったが
私は彼女と個別にメールをしたのは数回だけで
電話なんて初めてした。

海外に引っ越したことで、もう半永久的に会えないだろうと思っていた彼女からの電話に
思いがけない電話に
私は素直に喜んでしまった。

 
一時間くらい雑談をしたところで、「今度選挙があるじゃない?」と話が選挙になった。
その後に続く話を聞いた時に、私はようやく、彼女が何故私に電話をしてきたか気づいたのだ。

 
「あ~…ごめんね。私、選挙興味ないんだ。アハハハハハ……。

あ、ごめん。今、友達から電話入っちゃった。またね。」

 
私は冷や汗をかいて、かわいた笑いをしながら電話を切った。
な、ななな、なんだったんだ、今のは…。
高校時代は気づかなかった。

海外に引っ越してからか?
高校時代からだったのか?
はたまた、最近宗教に入ったのか?

 
私は慌てて、同じ高校のクラスメートの子にメールや電話をしていた。
すると、聞く限り、クラスの仲の良い子は全員が連絡をもらっていた。
一人暮らしの子や携帯電話を持っていない子に至っては、実家までかかってきたらしい。

 
「怪しいと思って、電話出なかった。」

「まさかあの子がね………。」

「電話出たら、私もともかと同じパターンだった。」

 
【こうなっちゃうと、もう友達はできないね。】

 
私達は影でそう言い合った。
宗教は自由だし、何を信じても構わないとは思うが
巻き込まれるとなると話は別だ。

 
私達は全員が、彼女と距離を置いた。
選挙が近づくと、そのたびに彼女から電話やメールが来た。

私は知らなかったが、日本に戻ってから編入した大学は
その宗教を信じている人達が通うことで有名らしく
いよいよガチ感が伝わってきた。

 
電話やメールは何年か続き、やがて途切れた。
同窓会や仲間内の集まりに彼女が来ることはなかった。
おそらく幹事担当の子が、呼ばなかったのだと思う。

 

 
次に、私が宗教勧誘を体験したのは、バイトの昼休みだった。

私は大学時代にメガネ屋さんの割引クーポンを配るバイトをしていて
お昼休憩中、フードコートでカレーを食べていた。

「一人ですか?」

私に声をかけていたのは、アジアンビューティーな女性。
私と年はそんなに離れていないだろう。
友達が待ち合わせに遅れていて、暇を持て余しているらしく
私の隣に座って話しかけられた。

外国人は社交的だなぁ…
しかし美人だなぁ…………

と、鼻の下をのぼしていた私としばらく雑談をした後
彼女は本題の宗教の話に切り込んできた。

 
目的はそれかー!!!

 
私は慌ててカレーを食べきり、サッサとその場から退散した。
思いっきり社名が入っているユニフォームを着ていたし
昼食後も近隣で数時間チラシ配布をしていたので

見つかったらどうしよう………

と、ソワソワした。

 
 
その日はいつもとは違う場所でチラシ配布をしていたのだが
こんな場所でチラシなんか配るもんじゃないと、私は場所のせいにしてモヤモヤし
バイトが終わり次第私服に着替えて、髪型を変えて
一目散に退散した。

その方と会うことは、もう二度となかった。

 
 
 
学校を卒業した後に入職した施設は、上がクリスチャンで
内定をいただいた時に私はクリスチャンじゃないことを念の為に伝えたが
採用基準は宗教じゃない旨を言っていただけてホッとした。

 
 
確かに働き出してからも、大きな支障はなかった。 

せいぜい朝の打ち合わせの後にお祈りをしたり
年間行事でクリスマス会が盛大だったり
お化け騒動があった時に、「私はクリスチャンだからお払いの概念はない。」と相手にされなかったくらいだ。

 
 
職員によっては教会に行こうと誘われたらしく

それは問題なんじゃあ……

とは思ったが
両者が合意の上なら、私が口出すことはない。

 
 
 
 
2020年春に仕事を辞め
神様でも仏様でも構わないから
仕事や恋愛をどうにかしてほしいと願っていた頃

私には別の意味で春がやってきた。
異性から告白されたのである。

 
その人は保阪尚希さんに少し似ていた。
優しかったし、イケメンだったし、スタイルがいいし、趣味は似ていたし
せっかちな私は

就職より先に結婚が決まったりして♡

と、浮かれた。

 
 
彼と結婚したら住まいは●●あたりで
そうしたら仕事は○○あたりで探して
二人でまったりゆったり過ごすのだ。

 
 
私は早々と未来を描いた。

二人でメダカを見に行ったり、散歩をしたりと
所帯染みたデートが続いた。

 
 
 
こんなコロナや無職で暗くなりがちな時期に
イケメンが私に「かわいい。」とか「好き。」とか言ってくれるなんて

 
世の中に神様はいるじゃん!!!

 
と、思っていたあの頃。

 
 
 
 
だが、そのささやかな未来予想図は、あっという間に白紙になった。
 

 
彼「今日、母親が○○県に行ってるんだ。」

 
○○県はずいぶん遠い。………このコロナの外出自粛の時期に行くには、違和感があった。

 
私「法事?」

 
彼「いや、パワーがある場所があってさ。コロナ前は昔から家族全員で毎月行っていたんだ。」

 
私「なんて場所?」

 
彼「正式名は忘れた(笑)でも、すごくパワーもらえるから、そこに行けばともかちゃんも仕事見つかるんじゃない?今度行こうよ。」

 
私「コロナが心配だし、転職活動中だから、今は他県行きは控えたいかな。」

   
 
私は引っ掛かりを感じた。

・コロナの中、他県までパワースポットに行く。
・家族全員で毎月行く。
・毎月行くのに、場所の名前を教えてくれない。
・私に行こうと誘う。
・彼は嘘がつけない性格なのに、場所の名前を教えてくれない。

 
 
 
 
私は友達と電話している時に、一部始終話した。
 
 
友達「それ、宗教じゃない?○○県って宗教法人多いんだよ。」

 
私「嘘!?(ググッて見た)……………あ、本当だ、たくさんあるね。」

 
友達「○○も●●も(有名)あるよ。」

 
私「知らなかった………。」

 
友達「毎月家族で行っていて、コロナ禍の中でも母親が行っているんだよね?」

 
私「泊まり込みって言ってた。親戚はあっちにいない、とも。」

 
友達「泊まり込み?毎月!?」

 
私「うん……そうらしい。」

 
友達「それは………アウトじゃない?まずは雑談して仲良くなって、他県まで連れて行って、話をするパターンじゃない?逃げ場ないよ。」

 
私「…………だよね。」

 
 
私は微かな不安が膨大に膨れ上がった。

やっぱり保阪尚希似のイケメンがフリーで私を好きになるなんてできすぎた話だった。
これだ、きっとこれが目的だ。
今まで何度もフラれてきたと言っていた。
フラれる時、女性は理由を明かさなかったと言っていた。

優しいのに。イケメンなのに。保阪尚希似なのに。こんな顔なら、きっと選び放題なのに。

 
これか!?
理由はこれか!?
これが理由だから、みんな何も言わずに逃げたのか!?

  
 
私は彼と関係を絶った。

私の一身上の都合ということにし
宗教のしの字も言わなかった。
私が全て悪いということにした。


宗教の疑いの件は言わなかった。
仮に宗教だとしても、それは悪いことじゃない。
価値観のズレだ。
私が合わないだけだ。

相手の好きなものや信じるものを否定することは失礼だ。
私だってされたくない。

 
だから私は本当の理由は、言わない。
言わなかった。

 
 
優しかった彼は半狂乱になり、私は怖くなった。
刺されると思った。
殺される、と。

 
彼は泣きながらそのパワースポットの場所とやらに行って、私と再び繫がれることを願ったらしいし
共通の知り合いにも、片っ端から連絡し、私のことを聞き出したりしたらしいが
私はひたすらに怖くて、怖かった。

 
私は神様に願った。
どうか彼に早く彼女ができて、私へ無関心になりますように、と。
刺されませんように、と。

 
 
しばらくスマホを見るのも
自宅にいるのも
出掛けるのすら怖くて
私はオドオドキョドキョドしながら生活していた。

 
ダメだ…やっぱり男性怖い。
恋愛が絡むと男性怖い。

鳴り止まない電話やLINEに私はビクビクした。
もはや拒否さえ怖かった。
何をしても刺されそうで怖かった。

 
 
鳴り止まない連絡から一週間後、私は我慢が限界に達し、着信拒否をした。

それはそれでハラハラしたが
とりあえず今のところ、まだ生きている。
無事である。

 
 
 
信じるものは救われるという。
だが、信じるとは非常に難しい。

誰かを好きになるよりも
誰かを信じることの方が
もっともっともっと………難しい。

 
 
 
 
 
余談だが、今から10年以上前
某宗教関連の冊子を雑に扱って一週間もしない内に
父親が派手に骨折をした。
たまたまかもしれないし、偶然だろうが

私や家族が神様を信じた瞬間だった。


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?