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何も発さなかった元同僚

同僚が販売イベントに出勤していた為
私は様子を見に行った。
他のお店も興味があったのもある。

 
私は他のお店を先に見た。
すると、見覚えがある顔と聞き覚えがある声が入ってきた。

「…Aさん!」

私は声をかけた。
Aさんと目が合った。

 
 
Aさんは前の職場で同じ事業部だった。
私は責任者をやっていて
Aさんは後から入ってきたので
私の部下にあたる。

 
Aさんが入職したのは今から7年前のことだった。

Aさんとは3年一緒に働いたが
Aさんは辞めた。
いや、辞めさせられた。

 
Aさんは仕事上いくつかの課題が見られ
注意したり、促したが
なかなか直ることはなかった。

Aさんは正職員として働きぶりに難しさがあると判断され
一定期間内に指示したことができない場合
雇用形態を見直すというものだった。

 
Aさんは私達事業部を恨んだのだろう。

私達はあまり話すことはなくなったし 
避けられたし
それどころか
私の仕事態度が悪いと
文章化されて
上司に訴えるまでしてきた。

 
上司は私の仕事態度を注意しなかった。

ただ、Aさんが私の仕事態度について訴えてきたとだけ告げた。

これにより
私とAさんの関係はより悪くなった。

 
それでも私は
Aさんに退職してほしかったわけではない。

Aさんは知らないだろうが
私とBさん(Aさんより先に働いていた、同じ事業部の正職員)で
退職させるのはやめてほしい、と訴えた。
ただでさえ人手不足なのに
Aさんまで辞めたら現場は回らない……私の仕事量を増やすしか道はない。
せめて、次の人が見つかるまでは辞めさせないでほしい、と訴えた。

「それ(人手不足)は施設の問題で、Aさんを辞めさせない理由にはならない。次の人が決まるまで辞めさせない、なんてこっちの都合だろう?どうせ辞めさせるなら、早い方がいい。本人にとっても、施設にとっても。」

上司はそう、言った。

 
Aさんは結局、指示した仕事を全うすることができず、退職することになった。

 
パートさんが帰り、正職員が会議をしている間に上司はAさんに話をつけ
荷物を全てまとめさせた。

私達正職員が会議を終えて事務所に戻った時には
Aさんの姿も荷物もなく
別れの挨拶は許されなかった。

 
それが、私とAさんの最後だ。

 
Aさんはそれはもう…それはもう、恨んだのだろう。

Aさんは知らないだろうが
Aさんが退職させられた後
Aさんの代わりの人の求人は出してもらえず
私の出勤日やサービス残業は増えた。

 
そしてこの頃から
私は眠れない日々になり
安定剤を飲むようになった。

 
Aさんが抜けてから仕事が楽になることはなく
心身は疲れ
職員はみんな苛々し
人はどんどん辞めていった。

 
そしてAさんが辞めてから2年経たない内に
私には理不尽な人事異動命令が下された。
あと数週間後には、新しい利用者が複数人も入るタイミングで、だ。

 
Aさんの時と同じように
リーダーで正職員の私が異動(いなくなる)にも関わらず
求人は出されず
「後のことは私達が考えるから、辞めるか異動しなさい。」
と、上からは言われた。

 
上司からも「正職員で異動を今断っても、必ずいつか異動があるし、今従えないなら辞めるしかない。上がやれって言うんだからやるしかなないだろう。」と私は言った。

 
上司はAさんの時から何も変わらない。

 
あぁそうだ、上司は今まで何人もの同僚を、辞めさせてきた。
辞めるように仕向けた。
何年もの付き合いなのに
何人も、何人も、だ。

…今度は私の番か、と思った。

 
私は退職届を渡した。

 
 
 
Aさんが退職してから
私はずっと会っていなかったし
連絡もとっていなかった。

ただ
風の噂で某施設に今いることは知っていた。

 
転職活動中、その施設が求人を出していたし、仕事内容は気になったが
私は首を振った。

Aさんはきっと私を恨んでいる。
一緒に働くなんてきっと今更できない…。

 
そして私は別の施設に転職をした。

 
 
 
 
「Aさん、私、前同じ職場だった真咲です。今はもう退職して、別の施設にいるんです。」

Aさんは笑っていたけれど、言葉を発さなかった。

もしかしたらいきなり恨んだ相手がにこやかに話しかけてきたから困惑したのかもしれない。

 
私がAさんの施設の販売物を買っても
やはり何も言わなかった。

 
私は今の職場の販売ブースに行った。

「真咲さん!来てくれたんだ!」

利用者や同僚が笑顔で出迎えてくれる。
遊びに来ていた保護者も声をかけてくれた。
県職員の方も私に気づいて声をかけてくれた。

あぁ、ホッとする。

今の私の居場所だと思った。

 
 
帰り際、またAさんに挨拶をしたが
やはり言葉はなかった。

 
私も同じように退職しても
別の施設で頑張っていても
許すことはできないのかもしれない。

それもまぁ仕方ないのかもしれない。

 
Aさんは元気そうだった。

私には何も言わなくても
活き活きと販売し
同じ施設のみんなと仲良さそうだった。

私はそれにホッとした。

 
 
私達は道を別れた。

こうして道が交わっても
もう一緒に歩くことはできない。

退職と転職とは、そういうものだ。

 
 
もしかしたら笑って発しなかったのは
こんな気持ちだったのかな…?


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