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彼氏と肉まん半分この夢

肉まんといったら、なんといっても塾の思い出だ。

 
私が中学生の頃
週に二回、学習塾に通っていた。

食べ盛りの中学生だ。
夕飯を食べてから塾に行っていたとは言え
二時間の授業の後に小腹は空く。

 
塾が終わったら、隣のセブンイレブンで親と待ち合わせをしていた。
セブンイレブンでは何らかのお菓子などが一つ買ってもらえた。
夏場はアイスが美味しいが、冬場はやはり肉まんがありがたい。

私「私、肉まん。」

母「肉まん一つください。」

 
塾の迎えに来た母親はお店の人にお金を払い、私は肉まんを手に待つ。

肉まんは正方形型の紙を45度ずらしたような紙包みに包まるように入っていて
セブンイレブンロゴマーク入りのオレンジ色のテープで留められている。
左手で肉まんを持ちながら、テープをピッと右手ではがし
正方形型の紙をめくると
キレイなキレイな白い半球体状の肉まんがあらわれる。
ホカホカとしたほどよい熱さに両手は温まり 
紙をめくってからより強く香る肉まんの匂いや立ち上る白い煙は
食べる前から、美味しさしかないことを私に伝えてくる。

 
私は両手でその真っ白な半球体を持ち、ガブッと頂点をかぶりつく。
白い生地の間からは茶色の肉や具材が顔を覗かせた。
口の中は幸せな肉まんの味や熱さに包まれ、私は熱さに負けじと咀嚼に夢中になる。
更にもう一口かじると、更に肉まんの中身の様子が見えてくる。
発掘作業のようで嬉しい。

肉まんの後ろ側には半透明で模様が描いてある薄紙があるから
二口位食べたところで正方形型の紙を更にめくり
肉まんを引っ張りだし
私はベロンと一気にその薄紙をめくった。
薄紙には肉まんの白い皮部分が多少張り付いていて
今、私の手により役目は終わったと思った。

  
私は肉まんを両手でパカッと半分にした。
半分にした瞬間に香りと煙の量が倍になり
私をますます幸せな気持ちにさせた。
視覚的にも、中身を晒された肉まんは実に美しく
私はその半月状の肉まんを一つずつ丁寧に食べた。

 
今日塾であったことを母親に話し、肉まんを頬張る間も車は自宅へと進んでいく。
肉まんを食べ終わる頃には自宅に到着し、私は肉まんを腹の中に入れて食欲を満たした状態で、「ただいま~。」と玄関の扉を開けた。

 
 
 
冬の間、一週間の内、セブンイレブンで二回だけ食べられる特別な食べ物が肉まんだった。

 
当時、自宅近隣にはセブンイレブンしかなく
コンビニといったらセブンイレブンだし
セブンイレブンといったらコンビニであり
セブンイレブンいい気分に私はいつもなっていた。

だからいまだに、コンビニはセブンイレブン派である。
我が県はセブンイレブンがやたらとあり
今も昔もセブンイレブンの天下であった。

 

私と姉は浮気しないタイプで、セブンイレブンでは必ず肉まんを食べた。
売り切れの時だけ、ピザまんを食べた。
母親はアンまん派だった。
父親は肉まんシリーズは食べない。

 
一週間に二回食べても肉まんには全く飽きなかったが
ある日急に、肉まんの味が変わった。
味付けが変わったのか、その日は何らかで味が変わったのかは分からなかったが

美味しくない…

と感じた。
 
 
私と肉まんのお別れは急にやってきた。

 
 
味の違和感を受け入れられなかった私は
その日を境にピザまん派に寝返った。
ピザまんはチーズがみょ~んと伸びたり、具材が赤いことで洋風感が漂った。
チーズは裏切らない。
ピザまんを食べた瞬間に熱々のチーズが伸びるあの光景は
私に新たな幸せを与えた。
ピザソースの味も堪らない美味しさだ。

 
姉も肉まんの味変化が気になり
私とほぼ同じ時期にピザまん派に切り替わった。

 
 
だから私が中学生の頃は姉妹揃って肉まん派だったが
中学校を卒業する頃にはピザまん派だった。
中学校だけでなく、肉まんからも卒業するとは思いもしなかったが
あれから私は
肉まんを買わなくなった。

他のコンビニでさえも。

 
 
そこからピザまんライフは長い。

高校、大学、専門学校、社会人と
私はピザまんに一筋だった。
ピザまんが売り切れの時はアンまんを買った。 

肉まんで育った私にとって
甘いシリーズは邪道であったが
20歳を過ぎると、徐々にアンまんの熱い餡子や品のある甘さにハマッてきた。

  
20代になった私は、その日の気分でピザまんとアンまんを7:3位の割合で食べるようになった。
ピザまん一筋ではなくなっていった。

姉はまだピザまん派であった。

 
  
年齢=彼氏いない歴だった私にも、20代になってようやく彼氏ができた。

ただでさえ夢見がちだった私は、まるで青春を取り戻すかのごとく
彼氏と様々な夢を叶えた。
理想のデートやシチュエーションは山のようにあったが
優しい彼氏はそれに付き合ってくれた。

 
 
その内の一つが、肉まんを半分こして食べるである。
私は彼氏と肉まんを半分こにして歩きながら食べることに強い憧れが昔からあった。

だが、私は彼氏ができる前に肉まんからピザまん派になり、アンまんにも浮気するようになった。
【肉まん】を半分こにしたかったが 
もはや私の嗜好ではなくなっていた。
だから、アンまんで夢を叶えたのだと思う。

   
当時付き合っていた彼氏の家の近くにあるコンビニがローソンで
彼氏がアンまんを一個買ってくれた。

  
彼「半分こでいいの?ともかの分も一個買うよ?」

 
私「チッチッチ。一個を半分こというシチュエーションがいいのだよ。」

 
彼「俺がピザまんで、ともかがアンまんで、それぞれ半分こして交換したら、二つの味が楽しめるよ。」

 
私「チッチッチ。違うんだな~それが。それは、応用編なのだ。最初は一個を二人で分け合うところにロマンがあるのだよ。」

 
私は非常にめんどくさい彼女だった。
まずは肉まんを半分こする夢を叶えないと、「一口頂戴♡」編や「それぞれの味を半分こ」編には進めない気がした。

 
 
彼には私のこだわりは通じなかったし
「またいつものともかのロマン語りが始まった(笑)」くらいに受け流していたのだろうが
彼は私の夢を否定せず、叶えてくれた。
優しかった。
私の要望通りにアンまんを買って、お店の外で半分こにした。

彼「はい。半分こ。」

  
私「わーい\(^o^)/ありがとう。」

 
 
二人で冬の道を、アンまんを食べながら歩いた。
空は星がキレイで、二人の息が白くなった。
二人で手を繋いで、彼のアパートへと向かった。
コンビニ袋の中には彼用にビールが、私用にプリンやアイス、チョコが入っていた。 

 
彼は私を甘やかしていた。
好きな物を色々買ってくれた。
美味しそうに食べる私の顔や、夢が溢れる私の笑顔が好きだと言い
私が「甘~い♡美味しい♡幸せ~♡♡」と言いながら甘い物を食べる横で
満足そうにビールを飲んだ。

「太るよ。」なんて彼は一言も言わなかった。
二人で美味しい食べ物を食べる時間が私達は好きだった。

 
友達から、ともかと彼はレミオロメンの「ビールとプリン」のようだと言われ
私はその曲を聴き、よく歌っていた。
 
 
別れてからもなお、その曲は思い出となり
よく聴き、よく歌った。

 
 
あの日の後も、次々に夢を叶えた。
一口肉まんをもらったり、お互いに半分こした別の味を交換して食べたり
様々な物を二人で食べた。

 
そんな日々に永遠を夢見たが、やがて婚約破棄になってしまった。

アンまんを半分こをした日、今の幸せも未来も私は彼に繋がっていた。
彼にとってはいつから、幸せや未来を思い描いた時に私はいなくなってしまったのだろう。

 
 
 
 
彼と別れた後、働いていた障害者福祉施設に、新しい利用者Aが入った。

目がパッチリしていて、一人での歩行は転倒リスクがあり、常に介助者と共に歩いていた。

 
「Aさん、こんにちは。真咲ともかです。」

 
Aさんは話せないが、笑顔がとびきりかわいい方だった。
話しかけるとニコッと笑い、私は心の中で「天使!本当天使!かわいすぎる!」と毎日悶えていた。

 
 
Aさんは毎日笑顔を見せた。
他事業部の利用者の方だったが、その笑顔により、アイドルのように人気があり
みんなが毎日癒されていた。

Aさんと出会ってから初めての冬を迎えた時、私はAさんに話しかけた。

私「Aさん、今日は寒いね~。肉まんかアンまん、食べたくない?アンまん食べたいねー。」

 
A「……アン、まん!」

 
私「え?」

 
A「アンまん!アンまん!」

 
私「えぇぇぇ!?」

 
 
私はビックリした。
Aさんは施設で単語を発したことがなかったからだ。
他の職員どころか、ご家族さえ驚いていた。
自宅でも、アンまんと言ったことはなかったそうだ。

私の食い意地のはった何気ない発言から
Aさんはアンまんという単語をマスターした。
それに私は立ち会ったのだ。

 
私「Aさん、おはようございます。アンまん!」

 
A「アンまん!アンまん!」

 
私「アンまん!」

 
A「アンまん~!」

 
私とAさんの間で、アンまんという単語はコミュニケーションに繋がった。
毎日挨拶のようにアンまんを連呼した。
色々話しかけたり、私の名前を教えたりもしたが
反応したのはアンまんだけだった。
何年関わってもアンまん以外の単語は発さないし
私以外の人がアンまんを言っても反復はしない。

 
Aさんがアンまんと発する時、意味を理解しているかは分からない。
なんとなく語感が気に入っただけかもしれない。
私が「Aさん、かわいいな~。天使だ!」と内心思いながら笑顔で話しかけたので
その笑顔が嬉しくて、キーワードのアンまんを言っただけかもしれない。

はたまた、私の名前をアンまんだと勘違いしていたのかもしれない。

 
それでも、私はAさんの発語や笑顔が嬉しくて、春夏秋冬毎日毎日「Aさん、アンまん!」と話しかけた。
Aさんはいつも応えてくれて
二人で笑い合った。

 
アンまんというキーワードだけで幸せを私にもたらすなんて
人生とは何が起きるか分からない。

 
 
 
 
Aさんの影響もあり、私は社会人になって数年後、アンまん派に切り替わった。
また、期間限定でチョコまんやクリームまんなど、甘い●●まんシリーズが出ると
セブンイレブン関係なく色々食べた。

ピザまんは今でも食べるが
まさか甘いものシリーズが好みになるとは思わなかった。
人の食の好みとは変わるのである。

 
 
 
 
去年、友達と遊んでいた時に、友達が車に乗せてくれた。
「ちょっとコンビニに寄っていい?」と友達が言い、車内で私は一人待っていた。
私は特に買いたい物はなかった。

  
友「お待たせ~!ともかちゃん、肉まん食べない?半分こ♡」

 
友達は笑顔で私に差し出した。
どうやら、私への肉まんサプライズのために、コンビニにわざわざ寄ったらしい。

私「アッハッハッハ(笑)彼氏か(笑)」

 
友「ウケる(笑)ともかちゃんに喜んでほしくて♡」

  
私「さっき、プリンも奢ってもらったのに、まさか肉まんまでもらえるとは(笑)も~彼氏みたーい♡」

 
友「ラブラブだよね~♡ともかちゃん、かわいいんだもん♡」

 
私「キャーッ♡照れる♡」

 
 
女友達と二人で肉まんを半分こして食べた。
憧れの肉まん半分この夢は、こうして30代になってから女友達によって予期せぬ形で叶えられた。

恋愛がどうにも上手くいかない私は
だけど友達には恵まれた。

 
私は甘ったれでこだわりが強い、いかにもな妹気質だが
私と仲良くなる子はみんな、姉御肌というか、面倒見がよいというか
彼氏的な役割で私をかわいがり、甘やかした。

   
 
男性との恋愛や結婚を夢見ても
傷つけられ、泣いてばかりだった。
どうにも上手くいかなかった。

 
そんな私を受け入れて仲良くしてくれるのは
女友達ばかりだった。
ケンカは一つもしない。
色々な話ができるし、会うたびに前向きな気持ちになり、笑い溢れる時間を過ごした。 

結婚する未来よりも
女友達とのルームシェアの方が幸せな気がした。
楽しい未来が思い浮かべる気がした。

 
「もしも●歳になってもお互いに独り身なら、ルームシェアしない?」

 
私は女友達とよく言い合った。
恋人じゃなくたって、肉まんを半分こして心もお腹も満たせるし
きっと幸せになれるよ。

 
私は多分、恋愛には向いていないのだろう。

 
 
 
 
 
 
今年の秋、コリラックマの形をしたコリラックまんがローソンで期間限定発売された。
中にはイチゴの甘々の熱々のソースが入っている。

私はまず耳を外して食べ、目などのパーツも外して食べ
半球体状の白い形に正した。

 
去年、シナモンロールまんを食べる際にアイドルちゃんがそうやって食べていて、私はなるほどと思ったのだ。
今までは「ごめんっ!」と言いながら
キャラクターまんは頭からかじったり、半分こにして食べたが
まずパーツを外せば、ただの半球体だ。
罪悪感が減る。
ナイスアイデアだ。

最初に撮影してから、パーツ食べをするのは
なかなかに賢いやり方だと私は思った。

 
姉「え?お前、何やってるの?」

 
私「パーツ食べをすると、キャラクターまん食べる時の罪悪感が減るやん。」

 
姉「いや、ちょ、お前、それはそれで残酷だぞ?」

 
私「わがままだなぁ。しゃあない。んじゃ半顔メイクみたいに、半分でパーツ食べやめてやる。一口食べたいんだろ?」

 
私はコリラックまんを半分こにした。
私はパーツ食べをして、一見ただの肉まんにしか見えない側を手にして
姉には顔を残した半分を渡した。

 
姉「それはそれで、いやぁぁぁあ!」

 
私「キャラクターまんを食べる時にはこの試練を乗り越えなければいけないのだよ。」

 
 
私はひょいっとコリラックまんを口に入れた。
うむ、甘くて美味しい。
姉は悶絶しながらもコリラックまんを食べた。
食欲には勝てまい。
 
 
 
 
今年も店頭には肉まん等が並び
秋だなぁ冬が近づいたなぁとしみじみ思う。

今気になっているのはホットケーキまんだが
まだ売っているのを見掛けていない。
甘党の私はきっと気に入る味だと思うのだが
近隣のスーパーでは見掛けない。

 
今年の目標は肉まんを彼氏と半分こすることではなく
ホットケーキまんを頬張ることだ。

  

 

 

 

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