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入院69日目:県外旅行

よく晴れた日曜日。

私は昨日野外で仕事だったため、疲れがとれないまま朝をむかえた。   
夜中に地震で起こされたのも残念だった。

 
お父さんが朝、「すっきりお父さんも旅行に行かなくなったよ。」と呟く。
お父さんはかつて日帰りバスツアーや県外旅行によく行っていた。
一人でも行ったし、お母さんともよく出掛けた。

お母さんが入院しなければ、本当は今日両親で北海道にいるはずだった。

 
「幻の北海道旅行になったよ。」

 
「それなら、私だって幻のライブだよ。」

来週はセカオワライブだ。

ずっとお母さんが行きたい行きたい言っていてようやくチケットを二枚買えたのに
来週私は一人で行く。

   
 
お父さんも私も外出が大好きだったのに
お母さんが入院してから外出は減った。

それでもお父さんは趣味のウォーキングで最近は県外や遠方によく行っている。
それなのに時折言う「旅行に行く気が減ったよ。」に軽く苛立つ。
県外や遠方に行くのも、私からしたら旅行の一種だ。

 
 
推理小説を読んでハラハラしていると、あと20ページで終わるところでお母さんの病院に行く時間になった。
残念だ。

 
出発準備をしていると姉からLINEが届く。
どうやら昨日今日と県外に行っているらしい。

甥長男の試合の送迎都合とはいえ、県外に行けてうらやましい。
試合が終わるまでの間、甥次男とフラワーパークや遊園地に行っているらしい。

そういえば、この間は東京にも行っていた。

 
…羨ましかった。

 
お母さんが入院する前までは、コロナも五類になり、私も前のようにガンガン県外に出掛けていたのに
今は近場さえあまり出掛ける余裕がなくなった。
コンビニも行かなくなった。

スーパーばかり行っている。

 
 
今日の面会指定時間は15:30だ。
16:00までしか面会できないため、30分しかお母さんに会えない。
病院に着くとホッとする。
お見舞いに来た方々は見知らぬ方だが、仲間意識を勝手に感じている。 

 
 
お母さんの病室に15:30ピッタリに入るが、ベッドは空だった。
テレビはつけっぱなしで、お葬式のシーンが流れていた。縁起でもない。

 
お母さんの病室はメンバーが入れ替わり立ち替わりで
たまたま今は同室の方の名前が全員お母さんの姉妹の名前と同じらしい。
面白いが、やはり縁起でもない。

 
 
お母さんのスケジュール表を見ると、15:30までリハビリのようだった。今日もスケジュールはおしているらしい。

持ってきた着替えをしまったり、差し入れのお菓子をしまっていると、車椅子に乗ったお母さんが帰ってきた。
話し出して5分もしないうちに、従姉妹もやってきたので驚いた。
従姉妹は大抵平日にお見舞いに来るのに。

 
従姉妹は話好きだ。
お見舞いがかぶると話ができないとお父さんも姉も言っていたが
今日もやはりほとんど従姉妹の話が中心で、お母さんとはあまり会話ができなかった。
お母さんは昨日の仕事を気にかけて話をふってくれたが、従姉妹がすぐに話をすり替えてしまう。

 
面会時間は13:00~16:00だが
リハビリの都合で実際はその内30分から1時間しか会えない上
会える時間帯は前日夜に決まる。

 
一週間に一度のお母さんとの貴重な面会時間は
従姉妹の彼氏の惚気や県外旅行の自慢と仕事の愚痴でほとんど終わってしまった。

これなら来なきゃよかった。

週6勤務の疲れもとれないし、振替休日の明後日面会に来ればよかった。
平日だと従姉妹とかぶる可能性あるから今日来たのに。

 
従姉妹から、「ともかがよければファミレスでもっと話をしよう。」と誘われ、断った。

 
今日はお母さんの面会後に一週間分の買い出しをする予定だったし
推理小説の続きも気になる。

それに何より、惚気も自慢も愚痴もこれ以上聞きたくなかった。
早く家事をやって自分の自由時間がほしかった。

 
 
お母さんから、「スカートをともかと○○(従姉妹)にあげるよ。好きなの持っていって。」と言われ、断った。
洋服類の整理や断捨離は退院後にお母さんが直にやった方がいい。

 
お母さんの洋服は寝室、物置部屋、屋根裏部屋に山積みになっている。
何が必要で何が不要かはこちらで勝手には判断できないし
退院後の状況にもよるだろう。

足が麻痺のため五本指靴下はもう履けないと思ったが
先日から履けるようになったし
まだ先が見えない。

 
 
来週はライブのため県外に行くが
来月は土曜日出勤も多いし、ライブ前に買い物や観光を楽しむ余裕はあまりないだろう。

ライブは行ったら行ったで楽しいのだろうが
まだ実感はわかない。
“お母さんと”行きたかったライブのため
複雑な気持ちのままだ。

 
いいなぁ。
私も何もかも現実を忘れて県外にパァーッと遊びに行きたいな。

そんなこと思っても、言えない。

 
だってお母さんは
もう二ヶ月以上病院の中で過ごしているのだから。




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