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朝一で言われたこと②

利用者に顔を噛まれた日
私は連絡帳に状況を書いた。

 
保護者は連絡帳を見てからすぐに施設に電話をくれた。

 
「申し訳ありません。傷はどんな感じですか?」
「一日も早く治ることを願っています。冷やしていただいて、もしひどいようでしたら通院お願いします。申し訳ありません。」

 
そんな風に言っていた。

 
その利用者に噛まれるのは私は初めてではなくて
私以外もよく噛まれていて
だけど保護者の方は一度も

ただの一度も

施設側を責めなかった。
そして毎回誠実な対応をしてくれて
何度も頭を下げて謝っていたし
子どもにもきちんと注意した。

 
言葉さえ話せない子どもにも
きちんと注意したのだ。
やってはいけない、悪いことだと。

 
その保護者は障害のせいにもしなかった。
娘を一人の人間として接しているように感じた。

 
子どもが最重度だろうとなんだろうと
できることを増やそうと頑張っている
素晴らしい保護者に私からは見えた。

 
私の洋服をよく褒めてくれた。
私の仕事ぶりも褒めてくれたし
よく労ってもくれた。
些細な雑談もよくしている。

 
私はその保護者を尊敬していた。

 
 
噛まれてから二日後
私はその利用者の朝の送迎だった。

「傷の具合はいかがですか?」

私はマスクを外して見せた。
三日くらいじゃ傷は治らず
赤紫色になっている。
パッと見は虫刺されのように見える。

 
「ほんのちょこっとなんですよ、虫刺されみたいなものです、大丈夫なんですよ。私の支援が行き届かず、申し訳ありません。」

私は笑いながら言った。
すると保護者は言った。

 
「真咲さんの大事なお顔に大変酷いことをしてしまいました。申し訳ありません。」

「皮膚が薄いから痛かったでしょう?こんなに赤くなって。」

「真咲さんは優しいから…娘は甘えてるんです。甘え過ぎてるんです。申し訳ありません。」

 
…私はそれを聞いていて泣きそうになった。

 
福祉職員は
利用者から危害を加えられた場合
泣き寝入りもよくある。

 
職員が利用者に何かしたら虐待だが
利用者が職員に何かをしても虐待にはならない。

むしろ
支援不足だと言われたり、思われたりする。

 
痛いし、治るまでに時間がかかるし、情けないし
場合によっては同僚から理解されなくて
余計に辛い時もある。

 
実際今回は辛い思いもしたけれど
保護者からの言葉で私は救われた。

 
この言葉を言ってほしかったんだと思った。

 
利用者は相も変わらず
私に顔を近づけ
保護者が「〇〇!やりません!」といつもより強い口調で注意した。

 
その瞬間、利用者の背筋がピンと伸び、顔を引っ込めて
思わず笑いそうになった。

 
保護者の姿が見えなくなると
相も変わらず、利用者はボディタッチを繰り返す。
そんなところにも笑えてきた。

 
 
福祉職員は利用者のかわいらしさと
保護者の優しさに
たくさん助けられているよ。

ありがとう。

 
顔はまだ治らないけど
でも

もう大丈夫。

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