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飽きっぽいから、愛っぽい/岸田奈美

岸田奈美さんの新刊エッセイである。

 
岸田さんにはダウン症の弟さんがいて
エッセイでもよく彼のエピソードが出てくるが
今回のエッセイにはあまり出てこない。

 
この本では、今は亡き父親への思いや思い出、幼少期の頃の思い出が中心に描かれている。

 
最近では認知症になった祖母について書くことも多かったが
今作では認知症になる前の祖母や祖母と母親の関係性にも触れている。

 
日本を北から南まで色々な場所に出向いて思いを馳せたり
忘れていたことを思い出す岸田さん。

 
これは今は亡き父親と娘の物語であり
娘から父親に向けたラブレターのようにも感じた。

 
本書には愛とか好きとかそんな言葉で父への思いは綴られていないが
ユーモラスな文章の中、随所に散りばめられたのは愛でしかない。

 
父親の愛車ボルボについては既に別のエッセイ本でも書かれていたが
幼少期にこうしてボルボに乗り、家族四人で出掛ける思い出に触れるとジンワリする。

 
ボルボを車椅子のお母さんが乗れるように改造して手に入れた背景を
私はようやくこうして触れられた気がする。

 
学校で上手く友達が作れなかった岸田さんに与えられたパソコンが
今では自分の思いの丈を綴るなくてはならないものになり、それが仕事となり
こうしてたくさんの人と繋がっている今に涙が込み上げる。

 
例え記憶が薄れていたとしても
父親によく似ているという岸田さんのルーツは
間違いなくお父さんなのだろう。

 
印象的な章は【50万円で引き換えた奇跡@とある川沿いの雪国】と【絶対に取れない貯金箱@小豆島の旅館にあるゲームセンター】だ。

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