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写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用

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2022年に執筆した論文『写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 』を章ごとに連載しています。友人の死から写真の意味を考察することに始まり、数人の写真家や社会評… もっと読む
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【♯1】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ はじめに / 研究の目的

【♯1】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ はじめに / 研究の目的

はじめに 
 私は5年前の親友の死をきっかけに写真についてよく考えるようになった。彼女が死んだことを知ったとき、彼女が写った写真はいつも見ている他の写真とは全く違う意味を帯びていた。私は写真の中に彼女の声や仕草、彼女との時間など存在そのものを投影していた。その時私はこの自分の感覚に違和感を覚えた。それは実際には彼女ではない写真という単なる「像」に彼女の存在を見出していることへの違和感だった。私が見

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【♯2】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用━ 【第1章 過去とのつながり】 -1

【♯2】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用━ 【第1章 過去とのつながり】 -1

第1章 過去とのつながり 

 「はじめに」でも述べたように、私たちは写真を見ることを通して過去に撮影された対象物と繋がっているような感覚を覚えることがある。これは写真がその誕生から現在まで私たちを魅了してきた一つの要因であると考えられるが、私たちが感じるこのような感覚は一体どのような理由から来ているのか。このことはカメラの成り立ちとその仕組みから考えていくことができる。

1−1 写真の成り立ち

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【♯3】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第1章 過去とのつながり】 -3

【♯3】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第1章 過去とのつながり】 -3

1−3 遺影

1−3− 1 遺影と過去 
 数ある写真の中でも、特殊な意味をもち我々に影響してくるものがある。それは遺影だ。遺影とは言わずもがな故人を偲ぶために仏間などに飾られている故人の肖像写真のことである。遺影に対して我々が持つ特殊な意識と遺影自体が持つ特殊性から写真そのものが持つ性質について触れていきたい。我々は遺影を故人の身代わりであり、ある種神聖なものと捉えるが、それはなぜなのか。 

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【♯4】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用━ 【第2章 写真の場所性】 -1

【♯4】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用━ 【第2章 写真の場所性】 -1

第2章 写真の場所性

第一章で触れた写真が持つ過去とのつながりの過程と、過去とのつながりによって得られる写真の深みの正体を考察したところで、この論文の本題に入ることにする。
 写真とは時間の流れから瞬間を切り取るものであり、動から静を生み出すものでもある。しかし我々はしばしば完全な静止画であるはずの写真から、その写真の中に存在する大小の時間の流れを体感として感じることがある。それは「静から動を生

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【♯5】  写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第2章  写真の場所性】 -2

【♯5】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第2章  写真の場所性】 -2

2 - 2 Timescapeとしての写真

 以上のように、写真の場所性の説明には、場所が内包する(記憶する)時間について理解する必要があった。では、この理論を受け写真が表しうる時間の概念についてもう少し深く考察してみる。
 写真とは言うまでもなく、機械の眼を通して人間の視覚がとらえた場所を像として残す技術である。写真の機能は何か、と聞かれて多くの人は主にこのことを挙げるだろう。しかし、前章で説

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【♯6】  写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第3章 ベンヤミンの歴史観と場所性】 -1

【♯6】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第3章 ベンヤミンの歴史観と場所性】 -1

第3章 ベンヤミンの歴史観と場所性  ここで示した「写真の場所性」に対する私の見解は、ヴァルター・ベンヤミンが彼の著書、『歴史の概念について』*15)などで著した彼独自の唯物史観などの歴史観、時間観念に大きく影響を受けて形成された。そこで語られているベンヤミンの時間に関わる見解は、“写真の中に堆積した時間が保存される”という私の意見を補強し、大きく飛躍させた。

 実際、写真に関してはベンヤミンも

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【♯7】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第3章 ベンヤミンの歴史観と場所性】 -2

【♯7】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第3章 ベンヤミンの歴史観と場所性】 -2

3 - 2 ベンヤミンの史的唯物論と写真の場所性

 ベンヤミンやバルトの写真論の中では、彼ら独自の写真論を展開させる際に時間や生死といったキーワードが関連してくる。これまでの私の論でも、一人の人間の生死から写真を考えることを通して時間や歴史まで考察を伸ばしてきた。ここでは特にベンヤミンが著した歴史観や時間概念や、バルトの写真論などを通して私の主張する「写真の場所性」と、写真が持つTimescap

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【♯8】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第4章 写真と記念碑】 -1,2,3

【♯8】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第4章 写真と記念碑】 -1,2,3

第4章 写真と記念碑4 - 1 ヴァルターベンヤミンの墓標

 写真の場所性とベンヤミンの歴史観の関係をさらに深く考察するために、マイケル・タウシグ*の著書『ヴァルター・ベンヤミンの墓標』*21)第1章を一つを手がかりとして考えてみる。第1章ヴァルター・ベンヤミンの墓標は、文化人類学者マイケル・タウシグがベンヤミンの墓標を探すため、彼が1940年に自死を遂げたスペイン、カタルーニャ地方及びピレネー

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【♯9】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第4章 写真と記念碑】 -4

【♯9】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第4章 写真と記念碑】 -4

4 - 4 他作品から考える風景の保存

4 - 4 - 1 ベアトリス・ゴンザレス『無名のオーラ』

場所を作品として保存した例として、ベアトリス・ゴンザレス *『無名のオーラ』を取 り上げる。この作品は、70 年前に建造され 2003 年に取り壊しが決まったコロンビアの ボゴタ中央墓地を、記憶の共有場所として保存する取り組みである『Lugar de memoria(記憶の場所)』というプロジェ

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