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駆け込み乗車という、意志と意志のぶつかり合い

昨日から、「発車メロディをやめる実験」が常磐線各駅停車で始まっている。

実は、この手の実験は、今回が初めてではない。
今から約10年前の2009年1月には、こんなニュース記事が投稿されている。

これは、

・新宿駅では、完全に発車メロディをやめる
・東京駅では、発車メロディを極端に短くする

を、それぞれ一部のホームで行うという実験であった。

また、今回と同じように「車両から発車メロディを流す」実験は、吉祥寺駅で行われていたことがある。
これも今から約10年前。

つまり、10年前に小規模ながら行った実験を、今度は路線単位でやってみようということなのだ(マツコ・デラックスは某番組で「常磐線の利用客は駅の50メートル以上手前から走っているから、意味がない」とコメントしていたが)。
そのときの実験結果が今回の施策に繋がったかは不明であるが、10年も経って同じことをやっていると思うと、技術革新に対する人間の進歩の遅さを感じて、なんだかモヤっとする。

ところで、今回の実験の目的は「駆け込み乗車の防止」とされている。
駆け込み乗車は、荷物挟まりやドアの再開閉で電車に遅延が生じて他の乗客に迷惑がかかるし、やった本人がケガをする可能性がある。
鉄道会社からすれば、厄介な行為であることは間違いない。
だからこそ、車内放送で駆け込み乗車が注意されたり、駆け込み乗車防止のポスターが駅のホームに貼られたり、電車のドア上のモニターで映像が流れたり、とにかくあの手この手で「啓発」している。

一方で、「駆け込み乗車を全くしたことがない」という人はどれくらいいるだろうか。
申し訳ないことに、自分も駆け込み乗車をしたことがある。
ドアに挟まれて放送で怒られたこともあるし、うまく体を回転させてギリギリ挟まれなかったこともある。
(余談ではあるが、駆け込み乗車に失敗し、傘や荷物が飛び出たまま発車した列車を、ホームの非常停止ボタンで停めたこともある)

「駆け込み乗車」はマナー違反なのか、それともルール違反なのか。
ルール違反の一例として、「信号無視」を考えてみる。
信号無視をするとどうなるか。
警察に見つかると、歩行者であれば笛やスピーカーで注意されるし、車であればその場で捕まって罰金である。
信号無視をすることによって、誰かが傷ついたり、最悪の場合死んでしまったりする可能性があるから、警察のこの対応は当たり前である。
それでも信号無視が無くならないのは、「急いで目的地に着きたい」という違反者の良からぬ軽率な意志があるからであり、一方で警察が一生懸命取り締まるのは「そんなことは(法律が、もしくはそれを定める国が)許さない」という、強い意志があるからである。
その強い意志によって、違反の種となる良からぬ意志を押え込んでいるとも言えるだろう。

話を戻して「駆け込み乗車」について考えてみる。
「駆け込み乗車」をしても罰金を取られることはないし、ましてや逮捕されることもない。
ケガという高い代償を払うか、周りから白い目で見られるか、放送で怒られるか、電車が遅れて結局駆け込み乗車の意味がなくなるか、それくらいである。

「駆け込み乗車」をする乗客の意志は、せいぜい「その電車に乗りたい」だけであろう。
ただし、“どうしても”なのか“間に合いそうだから”なのかで、意志の強さは違ってくる。
“どうしても”について深堀してみると、いくつか理由が思いつく。

1:階段やエスカレーターでチンタラしている人がいて、余裕で乗れると思っていたのに余裕がなくなった(これに関しては、後日改めて考える)
2:乗換案内で経路検索したら、その電車に乗れという経路が出てきて慌てて乗った
3:予定よりも遅れて駅についた、もしくは既に遅刻気味だった
4:終電だった
5:次の電車まで間隔が大きく空く、もしくは次の電車は自分の目的地には行かない

どれも身勝手であることは間違いないが、1~5の中で、結構厄介な問題が5である。
山手線や地下鉄みたいに「次でもいいや」と思える路線であれば、駆け込みたい気持ちは起きにくいだろう。
しかし、例えば、次の電車が30分後だったり、自分の目的地に行く次の電車まで相当間隔が空いてしまう場合は、駆け込んででも乗りたくなってしまう。
ちなみに、実験対象となっている常磐線各駅停車も、日中は10分に1本で、東京23区を通る路線としては、お世辞にも本数が多いとは言えない(地方都市のほうが本数が多いケースすらある)。
おそらく帰宅時間帯では同じような問題が、他のいろいろな路線で発生しているのではないだろうか(総武線の千葉行き少なすぎ問題、とか)。

となれば、駆け込み乗車を完全に防止するためには、発車メロディのような小手先の対策ではなく、こういった乗客の意志を打ち消すための本気の対策が必要である。
極論を言ってしまえば、駆け込み乗車をした乗客から罰金を徴収したり、定期券を取り上げてしまったりすればよいし、サンクトペテルブルクの地下鉄のような、恐怖を感じるくらいのホームドアをつけてもよい。
そこまで実施すれば、乗客の“どうしても”という強い意志に対抗できる気がするし、鉄道会社として「絶対に許さない」という意志を見せることができると思う。

もしくは“どうしても”という意志を持つ人間を減らせばよいのである。
「次の電車まであまり間隔は空かないし、行先も同じです」とするのが一つのアイデアである。
乗換案内が普及してしまった今、この施策で全員のデマンドに応えるのは無理であろうが、それでも何人かの“どうしても”という意志は削げる可能性がある。

個人的には、「1,2,3」という号令でドアを閉めれば、駆け込む余地がなくなって一番良いのではないかと思っている(同じような意見が、某SNSにも書かれていたが)。
「1,2,3」で閉めれば、「駆け込み乗車」が減るだけでなく、大混雑した電車で荷物や鞄がはみ出てたとしても、皆合図に合わせて車内に引き込んでくれるのではないだろうか。
(今もやっているかはわからないが、JR東海は「ピッ、ピッ、ピーッ!」という笛の合図でドアを閉めていた。「1,2,3」の号令に近い例であると言えるし、なんならこのアイデアを他の鉄道会社でも実践してみては、と思ってしまう)

皆の行動を画一化するように「仕掛けて」しまう。
これなら意志と意志はぶつからないのではなかろうか。

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