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『ヤニス 無一文からNBAの頂点へ』出版記念スペシャル対談:宮地陽子 ✕ 大西玲央 その③「次の日本人NBAプレーヤーは馬場雄大」

『ヤニス 無一文からNBAの頂点へ』の発刊を記念して、翻訳を担当した大西玲央氏がNBA取材のパイオニアであり大学の先輩でもある宮地陽子氏と対談した。これまでの2回はポジションレス、国際化といったヤニスが象徴する現代NBAの大きな流れについてトークしてきたが、そんな流れをふまえて最終回の今回は次の日本人NBAプレーヤーをテーマに語り合ってもらった。

その①その②はこちらから!

NBAを目指すなら、高校・大学からアメリカに挑戦する方がいい

玲央 田臥(勇太/日本人初のNBA選手としてフェニックス・サンズでプレー。現在は宇都宮ブレックス)さんをきっかけに、最近では渡邊(雄太/ジョージワシントン大で4年間プレー。現在はブルックリン・ネッツ)選手、八村(塁/ゴンザガ大を経てワシントン・ウィザーズ)選手がNBAにたどり着きました。それぞれ異なるルートでNBA入りしましたが、今後日本人選手がNBAに行くにあたって、どういうルートを選ぶのが現実的だと思いますか?

宮地 現実的という意味ではアメリカの高校・大学に通うのが一番じゃないでしょうか。八村選手が日本の高校を出てから強豪校に来れたのは、ずば抜けた才能を持っていて、代表で実績を残せたからできたことだと思います。ギリシャもそんなに強い国ではなかったですが、ヤニスぐらいの才能があればスカウトがギリシャまで行ってNBAに引っ張っていく。ヤニスぐらいの才能があれば日本にいてもスカウトの人は見に行くと思うんですが、まだそこまで成長していない選手だったり、ロールプレーヤー型の選手だったら、いきなりNBAというのはかなり難しいと思います。馬場(雄大/筑波大出身。現在は豪NBL・メルボルンユナイテッド)選手がそれをやろうとしていますし、彼はかなり近づいていて、可能性もあると思っています。でも、もし彼が大学でアメリカに出てきていたら、とも思うんです。アメリカのやり方を身につける年齢が20歳か、それとも25歳なのか。これはすごく大きな違いです。20歳ぐらいでアメリカのやり方だったりバチバチぶつかるメンタリティに慣れることが現状では必要だと思います。
 今後Bリーグが変わってくれば、Bリーグにいながらスカウティングされる選手も出てくるかも知れません。でも、Bリーグにいる、日本にいるというのはその選手にとってある意味居心地が良い環境じゃないですか。その居心地の良い環境からいきなりNBAという居心地の悪い環境に来るのはすごく大変だと思うんです。だから1回、大学でいつも自分がいるのとは違う世界に出てからその先を狙う方が現実的だと思います。もちろんいろんな道があっていいと思うし、そうじゃないやり方をしている人を否定するつもりは全然ないんですけど。 

玲央 アメリカの文化を受け入れて、チームメイト同士のやりとりに馴染むという意味では、馬場選手は最適なんですけどね(笑)。

宮地 馬場選手はそれがあったからこれだけNBAに近づけているんだと思います。最初のサマーリーグを見たときに、今までサマーリーグでプレーした選手のなかで一番早く適応していると思いました。 

玲央 宮地さんはいろんな日本人選手の挑戦を見てきましたもんね。

宮地 運動能力もあるので、サマーリーグだと全然見劣りしないんですよ。アグレッシブでしたし。他の日本人選手がどうしても最初に一番苦労する部分で、馬場選手は問題なく適応していました。ああいうメンタリティがないと日本から出てきていきなりGリーグ、NBAというのは難しいと思います。

ディフェンスできてハッスルできる馬場君のような選手はどこのチームも欲しいはず

玲央 先ほど(注:対談その①でポジションレスについて語った)NBAがポジションレスになってきている話をしましたが、今後はどういったタイプの日本人選手がNBAで活躍できると思いますか?

宮地 今はまだ八村・渡邊タイプじゃないでしょうか。サイズがあって、ある程度器用なタイプは通用しやすいと思います。本当はガードの選手にNBAで活躍してほしいんですが、ガードの選手層はアメリカ人も厚いので、そこに割って入るのは簡単ではないですよね。

玲央 どうしてもガードは競争率が高いですよね。

宮地 サイズがあって器用でというタイプの選手も、今はかなり増えてきています。それこそカイ・ソット(218cmのフィリピン人プレーヤー。Gリーグ・イグナイトでプレーしたがドラフトで指名を受けずオーストラリアNBLでのプレーを選択した)ならNBAに入れるかなと思っていたんですが、ドラフトに引っかかりませんでした。サイズがあって器用な選手は可能性は持っていると思いますが、それだけではなく何かもう一つ武器を持っていないとNBAに入るのは簡単ではありません。

玲央 アメリカを含む海外に挑戦する若い選手がだいぶ増えてきました。特に期待している若手の選手はいらっしゃいますか? 富永(啓生/ネブラスカ大)選手だったり川島(悠翔/福大大濠)選手だったり、田中力選手(ベテル大)とかも頑張っていますよね。

宮地 川島選手はすごいと思うんですが、生で見ていないのでなんともわからないところがあります。同様に、一渉いぶ(山﨑一渉/ラドフォード大)選手とか菅野(ブルース/エルスワース・コミュニティカレッジ)選手もかなり若い頃しか見ていないので、今どれだけできるのかわかりません。ただ、この3人はサイズがあっていろいろできるという意味ですごく楽しみでよね。ガードの日本人選手にNBAでプレーしてほしいという意味では田中力選手とか富永選手とか須藤(タイレル拓/ノーザンイリノイ大)選手とかの中からNBA選手が出てきてほしいなと思います。でも、その前に馬場選手にNBA入りしてほしいですね(笑)。本当にあとちょっとだと思うんですよ、彼の場合は。

玲央 僕も本当にそうだと思います!

宮地 本当にあとちょっと。例えば、与えられたチャンスでどれだけ実力を出せるか。サマーリーグでも練習ではシュートが決まっていたのに、試合になったときにシュートが決まりませんでした。そこは小さいようで大きいんですよ。コーチは認めてくれているかもしれないけれど、それとは別に試合では出せなかったという結果も見ています。あとは、合うチームに入れるかどうか。彼の場合はディフェンスできるし、チームに入れることができれば貢献できる場面はいろいろあると思うんです。ロールプレーヤーとして、ディフェンスできてハッスルできる馬場選手のような選手は、どこのチームでも欲しいタイプの選手だと思うので。いろいろ楽しみな若い選手はいますが、まずは馬場選手に次のNBA選手になって欲しいです。

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PROFILE
宮地陽子
東京都出身。シカゴ近郊に住んでいた1988年に月刊バスケットボールにNBAの記事を書くようになり、バスケットボール・ライターとしての活動を始め、1990年代のブルズ黄金期をすべて地元で取材。2004年にロサンゼルスに拠点を移す。NBAや国際大会を取材するほか、1999年に田臥勇太がHoop Summitに出場した頃から、アメリカで活動する日本人選手の取材も続けている。著書に『The Man ~ マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)がある。現在はスポーツグラフィック・ナンバー、ダンクシュート、Web Sportiva、NBA Japan、Akatsuki Five plusなどに寄稿。
大西玲央
アメリカ・ニュージャージー州生まれ。国際基督教大学卒。現在『NBA.com Japan』『ダブドリ』『ダンクシュート』『Number』等でライターとして活動中。記事執筆以外にもNBA解説、翻訳、通訳なども行なっている。訳書には『コービー・ブライアント 失う勇気』『レイ・アレン自伝』『デリック・ローズ自伝』『ケビン・ガーネット自伝』『ヤニス 無一文からNBAの頂点へ』。近年は、NBA選手来日時の通訳をNBA Asiaより任され、ダニー・グリーン、ドレイモンド・グリーン、レイ・アレン、ケンバ・ウォーカー、トニー・パーカーら多くの選手をアテンド。

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