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心を繋げることからスタート〜③子どもと対話するプレシャスタイム 《後編》

※この記事は、2022年にDAncing Einsteinのwebサイト上で公開された過去のblogを転載しています。

 こんにちは。青砥美穂です。

 前回、心を繋ぐ5つの取り組みより、

1. 持ち物の連絡(宝箱をもってきてもらう)
2.   マインドを整える(対面前の感謝の儀式)

3. 全身全霊その子との出会いを楽しみその子を享受させてもらう時間(プレシャスタイム)

4. 確認、約束の時間(その子との秘密保持契約(笑)と幸せな宿題づくり)
5. 保護者の方への報告(ワクワクレポートタイム)
6. * 2〜5を繰り返す


 3つめの、子どもと対話するプレシャスタイムについてお話しさせていただきました。
 子どもたちとの対話から教えてもらってきた、大切な視点の数々。今回はその後編として、もう2つご紹介させてください。



《前編はこちら↓↓↓》

(過去記事:第1回第2回






子どもと楽しむネガポジラリーと現在地確認


◇ ネガポジラリー

 子どもとの対話の中で、暗かった表情が急に明るくなったり、瞳が輝き出したりする瞬間ってありますよね。私は、「ネガポジラリー」をしているときに、子どもたちがそんな表情になるという経験を多くさせてもらいました。

 ネガポジラリーというのは、ネガティブなことを提示された時、それをポジティブで打ち返す、ネガティブ→ポジティブに変えるラリーです。

 ここでやっていることは、ネガティブを否定するということではなく、それも受け止めた上で違う見方を提示させてもらうという試みです。物事を多面的にみる作業を一緒にしているのですが、この場合はポジティブな見方に限定して提示させてもらいます。

 子どもたちは(大人もですが)、何か悩みを抱えていたり否定的な気持ちになっているときは、どうしても視野が狭くなりがちです。その時に、あなたのその見方ももちろんあるけれど、こういう見方もあるよ、と自分が落ち込んでいたり悩んでいたりすること、もの、状況にポジティブな光が当たると、確かにそういう見方もあるかもしれない!と明るい気持ちになったり、力が湧いてきたりするようです。

 例えば、「友達とうまくいっていない」という悩みを話してくれた子がいました。どうしてそう思うのか、どうしたいのかを聞かせてもらうと、その子のものの見方、感じ方、考え方に加えて、これからの希望もみえてきました。悩んでいるその子は、その友人関係のことをすごく大切に考えていて、傷つきながらもたくさんの試行錯誤を繰り返して頑張っていることがわかりました。少しでも気を引けるように、寝る前には「明日、何て声をかけようか」と何通りも準備するそうです。
 きいていて、涙が出そうになりました。そして「ああ、この子は人間関係の大切な学びをしているんだなあ」と感じたので、それをそのまま伝えました。すると、ハッとした顔をして嬉しそうに言いました。「友達とうまくいってないっていうのは、人間関係を学ぶ絶好のチャンスですね!そう思うとすごくやる気がでます!!」と。
 たとえ100%ポジティブに思えなくても少しでも違う前向きな見方を自分の味方につける、というのは人生において自分を助けてくれることがありますよね。また、こういうポジティブな体験を共有することで心が一気に近くなるというのも子どもたちと何度も体験させてもらっています。

 このように、子どもたちが抱えているネガティブな気持ちを共有してもらえた時は、まずそれをきちんと受け止めた上で、ポジティブな見方も押し付けではなく提示してみてはいかがでしょう。明るい視点を一つ増やすことができ、また、信頼関係の構築にも役立つかもしれません。


◇ 子どもの3段階(ホップ・ステップ・ジャンプ)の現在地確認

 もう一つ、個別に対話させてもらうからこそじっくりみせてもらえることとして、今その子の心理状態が《ホップ・ステップ・ジャンプ》の3段階のどこにあるかというのがあります。

ホップ・ステップ・ジャンプについて少し説明をさせてください。

①ホップ:心理的安全の確保 

②ステップ:安心、信頼の醸成 

③ジャンプ:新しい学び、挑戦

 子どもたちが、何か新しい学びや挑戦をしていくとき、この3ステップをふむと考えています。上記の①ホップと②ステップがないまま、いきなり③ジャンプの新しい学びや挑戦が始まることは難しい、ということを現場で何度も何度も教えてもらいました。

 まず子どもたちは、その環境やそこにいる自分に安全を感じる必要があります。そこにいても心身ともに危害を加えられる恐れがないこと、自分は安全だと感じることが最初の一歩です。例えば、乱暴な人がそばにいたり、苦手な音や匂いがある環境、極端に寒かったり暑かったりなどの環境では学びどころではありません。
 また、今いる環境は整っているものの、家庭で大きな問題があったり、学校で友達からいじめをうけていたりなどする場合、学びに集中できる状態ではありません。そこが整っていない場合はそこに取り組むことが、まず最初のステップです。

 でも、安全だけでは不十分です。次に、そこが安心できる環境、かつ、信頼できる環境と感じる必要があります。安心して自分を出せる環境、秘密が守られたり、失敗しても大丈夫という信頼がもてるような環境である必要があります。よく知らない人に囲まれていて何を言われるかわからない環境や失敗したら馬鹿にされたり叱責されたりするような環境では安心して新しいことに挑戦はしにくいでしょう。

 これまでの「心を繋ぐ」という取り組みも、まさに子どもたちの心理的安全、安心、信頼を一緒に醸成していく作業の一環です。まず、環境を整え、たくさん質問して対話をして、ネガティブを肯定することで、子どもたちが安心して自分を出せたり、失敗してもOKと思えるように試行錯誤しています。何をすれば安全、安心、信頼を感じてくれるのか、というのは一人一人違うのでそこをじっくり対話の中で教えてもらいます。

 そうして初めて新しい学びや挑戦をする準備がととのいます。

 どのくらい時間がかかるかはその子によって違いますし、一度は③まで行った子でも、学校や家庭、その他の状況でまた①や②に逆戻りするケースもあります。

 ですから、もし子どもたちと何か新しい学びや挑戦をしたいと考えている場合は、今その子が3ステップのうちのどこにいるのかということを最初に見極めることが非常に大切だと考えています。

 まだ安全を探っている状態だなあと感じたらそこを整えることが先決です。安全は確保されたようだけどまだまだ信頼までは到達できていないなあと感じたらそこに取り組みます。①ホップと②ステップが整っていない時に③ジャンプを無理矢理やらせようとしてしまうと、うまくいかないだけでなく、信頼関係がそこなわれる可能性があります

 子どもたちは、大人以上にこの部分に敏感だと感じています。自分をごまかして新しい学びや挑戦というのはしない子が多いと感じています。

 心を繋ぎながらゆっくり進めていきたいですね。

 鋭い子どもたちと一緒にベストタイミングをつくっていくという過程も、その子のことがどんどん知れてとても楽しいと思います。

 そして、そのような体験を繰り返すことによって、ゴールは、子どもたちが自分自身でどんな環境にいても心理的安全、安心や信頼をつくれるようになって自分のしたい学びや挑戦に結びつけていくことです。これは大人でさえも簡単なことではないと思いますが、子どもの頃から安全、安心、信頼をつくっていく作業を繰り返し、自分の安全、安心、信頼には何が必要なのかを自分で理解し自分で醸成することを習慣化していくことでやりやすくなっていくのではないかと感じています。



 以上、子どもたちとの対話のプレシャスタイムに挑戦していることを、一部ですが2回に分けて共有させていただきました。

 次回は、セッションの終わりにする幸せな宿題づくりと秘密保持契約についてです。子どもたちのワクワクと安心を同時につくりだすという取り組みの時間、お付き合いいただけたら嬉しいです。



お読みいただきありがとうございました。

今回のテーマ『子どもとの対話』に紐づけて、DAncing Einstein代表:青砥瑞人による脳の観点からのコメントをお送りします。

ぜひこちらもあわせてお聴きください🎶


あおとのぉと『感情書き換え原理の応用』

《脳memo》ネガティビティバイアス
人間の脳には、ACC (Anterior Cingulate Cortex) というエラー検知を行う機能が備わっており、自分や他者の粗探しや課題をみつけたりすることに優位性があるため、ネガティブな要素や自己の身に不利益をもたらす要素に注意が向きやすい(ネガティビティバイアス)。そのため、知らず知らずのうちに嫌なところに注意を向けてストレスをためやすい。

《脳memo》ヘッブ則
Neurons that fire together wire together.

繰り返し同時に発火する神経細胞どうしは、そのシナプスの伝達効率が増強される。これは脳の中で起こっている記憶の基礎現象とされており、つまりAという行為をする際にBという行為をセットで繰り返しているうちに、脳の中で2つの情報がワイヤリングされ記憶化する。
ネガティブな感情が芽生えた時にそれを受け止め、ポジティブな働きかけをしていく「ネガポジラリー」を繰り返すことで、脳の中のネガーネガ配線がネガーポジ配線にリワイヤリングされ、ポジティブな感情に書き換えることができる。(ネガを見て見ぬふりではなく、受け止めた上でポジに書き換えることが重要!)