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【俺の日本語ラップ#03】『Awich / 洗脳』人類の営みは「バカばっかだ!全く!」

今回も5月27日、イベントバーエデン福岡にて開催の『日本語ラップバー』に向けての連載記事『俺の日本語ラップ』でございます。

2022年の5月。GWの連休も終わり(アタクシ接客業なんでその間、休みの方々のお相手をさせて頂いてますがー!)、皆様は仕事が始まることに憂鬱になっていることかと思いますが、いかがお過ごしでしょうか?

例のパンデミックから早2年半が過ぎようとしておりますが、以来今年は初めて「まん防」も「規制要請」もない連休でした。

街に出ればキャリーバックを引く観光の方々、久しぶりに再会した孫とお爺ちゃんお婆ちゃん、この2年よりも前のかつて"通常だった"GWを謳歌しようと、沢山の人の賑わいが肌身で伝わります(なんせ接客業ですから……)。

ただ以前と違うのは、みなマスクを着けているということ。
かつての"通常だった"世界の賑わいを享受しようという想いと、マスクで顔の半分を隠すことが新しい"常識"となった2022年今の日本のGWは、実は大きなターニングポイントになるような気がしています。

そして、今回紹介する曲は今から丸2年前の2020年の2月、まさにパンデミックが始まりだしたターニングポイント的な瞬間に世界にブッ放されたこの曲!

『Awich / 洗脳 ft. DOGMA & 鎮座DOPENESS』

今年3月14日にワンマン武道館ライブを行った、今や日本を代表する女性ラッパー・Awich。

彼女の波乱に満ちた半生、その経験から放たれる破壊力抜群の言葉とライム。まさに"Queen"ともいえる貫録と美貌を備えたAwich嬢の脇を固めるのは、激渋な低音ボイスと鋭い眼光でライムを放つDOGMA!、そしてまるで妖術奇術のように言葉とフロウを操るラップ妖怪(だと自分で思ってますw)こと、鎮座DOPENESS!

この3人が揃えばまさに、この曲のリリックにあるように「三体の菩薩」である!今回はこの曲とそのMVについて熱く語っていこうと思います(まずは上のMVをご覧になってから記事を読んで下さいネ)!

【まるで昭和ノワール映画のような『洗脳』MVの構成】

本題の入る前にまず、このMVの構成を説明したい。
このMVはまさに映画である。
三人の主人公=Awich、DOGMA、鎮座DOPENESS、それぞれのラップがこの映画の世界観とテーマを構成しながら物語が展開してゆく。

◾️権力の表舞台の裏側で、その美貌に隠した毒牙を用いて陰で密かにパワーバランスを操る政治家の愛人(Awich)。

◾️労働者たちを金と労働で操り、時間と人生の搾取を繰り返すダークサイドの真実を叩きつける中小企業の社長(DOGMA)。

◾️その下で齷齪(あくせく)働き続けるも、変わることのない生活苦と日常に小さな革命をもたらすべく、社会システムへ反旗を翻す工場労働者(鎮座DOPENESS)。

この三方から放たれる言葉と、彼らの見事な演技を見ながら、是非ともこの映画『洗脳』をお楽しみください!

【Verse1/ 政治家の愛人:Awich】

MVをリードするのは政治家の愛人に扮したAwich嬢。
その美しさと同時に危険な芳香が匂い立つ妖艶な出で立ちで、この劇場型犯罪的ラップソングは始まる。

Street democracy, Pussy Power Politics 
スキャンダル 種まき分割統治

『Street democracy(路上の民主主義)、Pussy Power Politics(女性の力による政治 / スミマセン、今更"Pussy"は説明不要でしょ?) の二語はまさに天上=国会で行われる政治とは真逆のものを意味してる。そのすぐ後に『スキャンダル 種まき分割統治』という具合に続く。

政治家の愛人であるはずのAwichが、実は権力側の人間ではなく、彼らを利用し、混乱に陥れ、内部分裂を画策する恐ろしき諜報者であり、彼女の魂の根底には「路上の民主主義」と「女性の力による政治」というスローガンが高々と掲げられているに違いない!

指をさし合う 愚かな凡人 
Stigma 中心 勢力解体

もっとも権力に近しい"女王"が、彼ら(愚かな男ども)が求める女性的な美しさにからめとられ、権力闘争の泥沼にハマってゆく。

運命という名の情報戦
とは知らずに受け取る処方箋 
(中略)
しっかり咥えたルアーの針 
ゴクリ飲み込み 後頭部を圧迫
失脚 Now what you wanna do?

権力の陰で暗躍するAwichの物語も終盤。
彼女が仕掛けた巧妙な罠に権力者の首がかかる。

男目線からのセックスシンボルとしての女性像に擬態(これをルアーと表現する辺りが、詩的だとおもいませんか!?)した彼女がついにその正体を現す!

『バカばっかだ!全く!』

彼女を弄んできた自らを覇者だと勘違いしている権力者に"死"という「運命」が下り、権力者を「失脚」させた彼女は再び権力の蠢く政界の闇の中に消えてゆく(とにかく最高にイカすBAD ASSであることが分かる)。

【Verse2/ 中小企業の社長:DOGMA】

この曲の二人目の主人公、中小企業の悪徳社長であり、Verse1のAwichの運転手もしていた怪しい男・DOGMA。

もう飽きたんだよ 味のしないガム
派手なビジュアルに客は並んでる
引っ張って押した 一般の世間体 
目に見えねーヒモが見えるぜ

いきなりの比喩表現にはいくらでも解釈ができるが、この『味のしないガム』は瞬く間に広がり一気に終息を迎えるブームのスピード感や、『引っ張って押した』という表現にはスマホのスワイプと「いいね!」ボタンへの例えのように思え、SNS上でバズるという現象の消費速度への比喩のようだ。

次から次へと変化と目新しさを求められ、表現者たちの努力はそのスピード感の中で「もう飽きたんだよ」と冷笑され、まるで「味のしないガム」のように吐き捨てられてしまう。そして顔を上げれば、新たにバズったコンテンツにまるでマリオネットのように「見えねーヒモ」に操られた人々が「派手なビジュアルに」並んでいるのである。

サテンシャツ着た、ペテン師は踊る
マウンティングとる、マーケティングビジネス
バズれスキャンダル、アタりゃ札束が頭ひっぱたく

この段階にきて、DOGMAのキャラクター性が表れてくる。
この映画において彼は最上ではなくても中小企業の社長という権力者側の人間である。よって捕られる側ではなく、捕る側の人間なのだ。

このリリックは「マーケティングビジネス」を行う人間が持つ、数字を根拠にした「マウンティング」意識への痛烈な批判も込められているが、同時に立場上このキャラそのものでもある。

そしてどんなに不謹慎で、バカバカしいスキャンダルでもバズりさえすれば、そこには大金が舞い込んでくる。その札束に頭をひっぱたかれても痛さよりも、倫理観の方が吹っ飛んでゆく。彼は「ペテン師」として、さらに上手く「踊る」ことができるようになる。

未曾有の恐怖に操られてまで
欲しがる情報源は半透明
この命で弄ばれちゃ、
菩薩に輸血で 死ぬか大怪我

このリリックが恐ろしくこの後のパンデミックを予見しているように思えてならない。

もちろん兼ねてよりネット上の情報がどこまで本当のことで何が虚偽なのかを断定するのは困難で、誤情報が拡散して起きた悲しい事件も多々ある。

しかし「未曾有の恐怖」という抽象表現が、姿の見えない新型ウイルスという形でこの曲を発表した2020年の2月から、まもなくして全世界を覆うことになるというのは、偶然の一致にしては恐ろしいほどマッチしている。

さらにその後のワクチン接種などに関する世界的な議論も予見していたかのようなこの最高のパンチライン『この命で弄ばれちゃ、菩薩に輸血で 死ぬか大怪我』の破壊力の凄まじさたるや!

【Verse3/ 工場労働者:鎮座DOPENESS】

ついに登場、鎮座DOPENESS!
この3人の中で最も弱い立場の工場労働者である彼はどのような言葉を繰り出すのか!?

カミに数字が書かれてる
そのカミをみんなで信じてる
御多分にもれずこの僕も 
カミの力の元 おくっている日常

ド頭から資本主義への批判と、それでいてもその力に突き動かされざるを得ない、まさにカミ(=神)の力に翻弄される我々への皮肉を叩きつける。

ここで映画好きの僕としては触れなければならない作品がある。
ジョン・カーペンターのカルト映画『ゼイリブ(They Live)』である。

この映画では密かに地球の支配を目論む宇宙人の存在に主人公が気づき、特殊なサングラスをかけると、彼らの存在とそのプロパガンダ(思想操作)が見えてくるという映画である。

この映画では、紙幣をそのサングラスから通してみると"This Is Your God (これはお前の神だ)"と書いてあるのだ。

俺らはコレに一喜一憂し続ける人生……なのか……(汗)

なんともウマいブラックジョークでありながら、心から笑えず苦笑いになるのはそれが本質を突いた核心だからである。

ルールや普通という言葉
思考回路に巧みに絡みつき
根をはられたが運の尽き
それは想像力に影響して
我々の行動パターンさえも設定

この一連のリリックが凄いのは、人間関係のコミュニケーションの中にある窮屈さを『ルールや普通という言葉』が表していると同時に、後半の『それは想像力に影響して 我々の行動パターンさえも設定』のくだりで現代のネット社会とそこに潜む、便利過ぎるが故になかなか手放せないAIからの管理への皮肉を表現していることである。

まさに今のSNS、Amazon、楽天、ありとあらゆるWebメディアがそうであるように、僕ら一人一人が検索し、購入し、使用した商品、映画、音楽、あらゆるコンテンツはビッグデータとして管理、運営され、僕らの生活に入り込んでいるし、それはもう半分切っても切り離せない現状にある(ぶっちゃけ、便利だしなぁ……汗)。

そんな皮肉と批判を流れるようにライムする工場労働者は、ついに反旗を翻す!

勝敗 商売 になっちゃってる戦争
あっちとこっち、どっちもどっち
にっちもさっちも、行かなくなりゃ
どかーんと一発ぶち込む、核爆弾
人類皆運命共同体、今地球は泣いています!

彼がこのMVで登場したとき、修験者のような出で立ちでDOGMA社長の前に現れた。それは自分たちを苦しめてきた支配者に対して刺し違える覚悟を決めてやってきた反逆者のようである。

言うまでもなく"仕事"というのは金の為であろうが、生き甲斐の為であろうが、ある意味では生きる糧になるものである。しかしリリックに『勝敗 商売 になっちゃってる戦争』とあるようにいつの間にかその"仕事"に勝ち負けが入り込み、その優劣によって一喜一憂したり、それのみを最大価値のように論ずる風潮が蔓延している(Verse 2のDOGMAもそれに対して『マウンティングとるマーケティングビジネス』と発している)。

「あんたらがそう来るなら、こっちも同じ道理でやるしかないけんね!」と言わんばかりに「にっちもさっちも、行かなく」なったDOPENESS工員は、ついに自分たちを苦しめた権力者に「核弾頭」をブチ込みきた!といったところだろう。

人類皆運命共同体、今地球は泣いています!』の一節には、まさに今のウクライナとロシアの対立に頭が寄せられてしまう。

権力を持つ者も、圧迫される者も、どちら側にも相互理解や利潤が必要であり、そのバランスが一度狂い始めると、あとはドミノのように全てが瓦解してゆく。その圧迫と開放の連鎖は人類の歴史の中で幾度となく繰り返され、その度に環境も破壊されきた。

大きな国家間の問題も、結局は一部のごく少数の力を持つ者たちの感情に左右され、大多数の個人はそれに巻き込まれてゆくほかない。
しかしそんな不条理に巻き込まれる小さな個人にも、日常の生活の中でさらに蓄積していく強者からの圧力が彼らを追い詰め、その先にある鬱憤の開放が戦いの場に誘(いざな)わせてしまう(それは裁判であれ、戦場であれ、革命であれ)。

大きな力の圧迫と開放は国家間がそうであるように、友人、恋人、家族、あらゆる人間関係の摩擦にさらされている個人の心の中でも機能している。

このMVの最後は、DOPENESS工員がDOGMA社長へ復讐を、ハンコを押すという形で果たして終わる(正直一体どうやったか分からない、DOGMA株式会社の株を買い占めたのだろうか?)。

結局、DOPENESS工員はDOGMA社長の座を奪い、自らのものにした。
こうして権力の連鎖は再び繰り返され、脈々と続いてゆく。

いま世間では、断捨離だとか丁寧な生活だとか、スローライフだとかが謡われていても、その世界にはその世界の上下や、優劣があるわけで……。

人類が歴史の中で覇権を巡り戦いをやめられないのと同じように、僕らは生活の中でカミ(=紙幣)に突き動かされ、一段でも他者を蹴り落し、ステージを上げようと必死になっている結局は、"愚かな動物"という側面を完全に否定しきれない。

バカばっかだ、全く!

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