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冷たい男 第5話 親友悪友(4)

「へえ、お兄さんお笑い芸人なんですかー!」
 ロングヘアの女子高生は、興味津々に目を大きく開ける。
「私、芸能人なんて初めて会いましたよ」
「いや、そんな大層なもんやない。駆け出しやで」
 そう言ってハンターは照れくさそうに笑いながらも満更でもなさそうだった。
「昨日も巡業でガッポガッポ笑いを取ってきたでえ」
「すごーい!」
 ロングの子は、胸元で両手を合わせて女子高生らしくキャッキャッと騒ぐ。
 ガッポガッポは、表現が違うだろうと冷たい男は、隣ではしゃぐ親友を横目で睨み、目の前に座るショートヘアの女子高生に目をやる。
 ロングの子とは対照的に全く話さず、目を合わそうともしない。とっ言うか関心すら持っていない。スマホの画面に指を走らせ、その動きに合わせて指を動かしているだけだ。
 それに気づいたロングの子が「ちょっと!何、ゲームばっかしてんのよ!」と肩を掴んで窘めるがショートの子は意に返した様子も見せず「んっお腹空いた」と画面に目を向けたまま言う。
「ははっ」
 ハンターは、苦笑いして冷めた唐揚げの皿をショートの子の側に寄せる。
「これ食べるか?」
「いらなーい」
 そう言ってゲームがいいところまで行ったのかスマホをガッチリ構えて前傾姿勢になる。
 ロングの子が小さくため息を吐いて小さな額に手を当てる。
 この様子からロングの子が姉でショートの子が妹なのだろうと推測する。
「ところでお兄さんたち、どうやって私たちの連絡先を知ることが出来たのお?」
 ロングの子が愛らしい形の唇に人差し指を当てて聞いてくる。
「何いうとんねん。これやこれ」
 そう言ってハンターは、自分のスマホを取り出すとキャラからは想像も出来ないくらいに器用に指先を動かし、サイトを開く。
 そこには半裸に近い艶かしいポーズを決めた双子の写真が載っており、「私たちと一緒に食事しませんか?」というキャッチフレーズが書かれており、その下にどちらのものかは分からないがメールアドレスが書かれていた。
「こんなもん見せられたら誘わん訳にはいかんやろ」
 いやらしさ全開に鼻の下を伸ばしてハンターは言う。
「いやだ、スケベー!」
 ロングの子は、キャッキャッキャと笑いながらハンターの肩に手を伸ばして思い切り叩く。
 その様子を冷たい男は、あだ名通りに冷たい目で見て、ショートの子は関心すら示さず、ゲームに勤しむ。
「でも、君らの制服、この辺でも有名な女子高のもんやろ?こんなことしてええの?」
 ハンターが聞くとロングの子は、今までの日照りのような明るさから一転、雨雲に覆われたように表情が暗くなる。
「実は・・・私たちの両親、去年事故で亡くなったんです」
 ロングの子は、ガラス玉のように大きな目に指を当てて泣く仕草をする。
 冷たい男は、思わず咽せ混みそうになる。
 小説でもテレビでも定番のような手の話しに思わず目を疑う。
「だから私たちは自分たちで生活費と学費を稼がないといけなくて・・・」
 そう言ってショートの子の肩に顔を乗せて泣きじゃくる。
 ショートの子は、うざそうにロングの頭を退けようとし、「ねえ、お腹空いた」とむすっとした表情で言う。
 それだけでこの話しが大嘘であることは明らかだ、ていうか、こんな手に引っかかるやつなんて今時いるわけが・・・。
「なんて健気なんや!」
 ハンターは、テーブルに突っ伏して大泣きする。
「いるんかい・・・」
 冷たい男は、思わず関西弁で小さく呟く。
 ハンターは、両腕を伸ばし、ロングの子の手を握る。
 ロングの子は、露骨に嫌そうな顔をするが、ハンターは、それに気づいてないのか、サングラス越しにロングの子の顔を見て、力強く手を握る。
「オレらがいっぱいご飯食べさせたるから遠慮なく頼みや!」
「あっ・・・ありがとうございます」
 ロングの子は、少しこめかみを引き攣りながらもお礼を言う。
「とっ、いっても金出すんはこいつやけどな」
 てへっとオチをつけるように言う。
「お前な・・・」
 冷たい男は、呆れて何も言えなくなる。
 そう言えば冷たい男が来るまで水だけしか飲んでなかったのを今更ながらに思い出す。
 ロングの子は、冷たい男に目を向ける。
「ところでお兄さんは何のお仕事してるんですか?」
 突然に話しを振られて冷たい男は、驚いて目を開く。
「オレ?」
 思わず自分を指差す。
 ロングの子は、にっこりと微笑んで頷く。
 冷たい男は、困ったように人差し指で頬を掻く。
「・・・葬儀会社の社員だよ」
 その言葉にロングの子は、大きな目をさらに大きく目を開き、全てにおいて無関心であったショートの子もスマホから目を離して冷たい男を見る、
 突然に2人の視線が集まって冷たい男は戸惑う。
「葬儀会社ってあの葬儀会社?死んだ人が来る?」
 ロングの子は、身を乗り出して何度と確認する。
「うんっそれ以外に葬儀会社ってあるのかな?」
「若い人も来る?」
 ショートの子が目を輝かせて聞いてくる。
「まあ、そりゃご遺族の方には若い人はいるけど・・」
 ショートの子は、苛立った表情を浮かべて首を横に振る。
「違う。若い死体は来るのかと聞いている」
「若い死体?」
 冷たい男は、眉を顰める。
「そりゃお亡くなりになればいらっしゃるけどそれが?」
 しかし、ショートの子は冷たい男の質問には答えない。
 ただ、この場に来て初めて満面の笑み表情を浮かべただけだ。
 ショートの子は、ロングの子の肩を叩くと、スマホに指を走らせる。
 ロングの子のスマホのバイブが震える。
 ロングの子は、スマホの画面を見て小さく笑う。
 ショートの子もニヤリと小さく笑う。
 冷たい男は、2人のやりとりを訝しげに見る。
 ロングの子は、スマホをカバンに仕舞うと立ち上がり、そしてハンターの隣に触る。
「お兄さん、そろそろどお?」
 耳元で蕩けるような声で話しかける。
 濃厚な甘い香りが漂い、大きな目が蠱惑的に光る。
 ハンターは、ニャーっと鼻の下を伸ばして笑い、「オーケー」と彼女耳に吐息とともに答える、
 ロングの子は、小さく笑う。
「お会計頼むで」
 ハンターは、そう言ってロングの子の腰に手を回して立ち上がるとそのまま2人は店のドアに向かって歩いて行く。
「おい、こら」
 冷たい男は、呼び止めようとするも完全に無視して歩いていく。
 外に出る前にロングの子がショートの子に向かって小さく手を振る。
 ショートの子もにこやかに手を振った。
「まったく」
 冷たい男は、小さくため息を吐く。
 ショートの子がじっとこちらを見てくる。
 改めてとても綺麗な子だ、と思う。
 大きな目に白い肌、愛らしい唇。
 とても高校生には見えない妖艶さがエキスとなって滲みてまでいるかのようだ。
 ショートの子が手を伸ばして手袋に包まれた冷たい男の手を触り、その冷たさに驚く。
「なに・・?」
「冷え性だから冷たいでしょ?」
 冷たい男は、小さく笑う。
 ショートの子は、訝しみながらも笑みを浮かべて冷たい男を見る。
「私たちも行きましょう」
 ショートの子の目がほんの一瞬だが血のように赤く揺らめいたように見えた。

#短編小説
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