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現代長歌

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「現代長歌」
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2023年2月の記事一覧

殺められた天使

殺められた天使を再生する、神。
「死は彼岸ではない此岸である」汚れた下着を打ち捨てる
――沈黙は痛み、生命の流転、死と再生のレクイエム
殺められた神の子を復活させる、神。
「信仰から始まる。復活の意味」残った葡萄酒をくすねてゆく下人
――痛みは命の呼吸、死は永遠の怒り、讃美歌は慰め
「天使は被造物なんだ」と男児が言えば、命を死へとすり減らしゆく
「神の子の贖いの死」と講壇で語ればくしゃみが下座から

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神の住まう国

舌を乾かし空が蒼く淀んでいる「英雄譚を書きたいの」
神の住まう国の夏の終わりは玉音と共に死が無駄になる
「一つの現在は多くの過去をすり減らし、雄弁と絶望は隣り合わせ」
敗戦と統治、回心と煽動、暗殺ときな臭い、戦争の予感。
舌を乾かし流転の池に未来を投げ多くの現在は一つの神話に――
「私なりの帰還物語(ノストス)。英雄譚は、桃山の風葬の鳥の還らぬ行き道」
沈黙と焦燥、狂気と睾丸、暗喩と祭儀、王の胤を

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預言の誕生

我が命 多くの者に支えられ、多くの嘘に身は翳る
「生命(いのち)」を問いつつ天(あめ)を観る 陽は影を落とす――
嗚呼、命を憎みはじめる。嗚呼、沈黙に心は裂ける
我が命 多くの者に支えられ、多くの愛を身に刻む
「愛」が拾った影を踏み けむりの国をすすみゆく
嗚呼、人はみな風のよう。嗚呼、人はみな仮面の劇
我が命 多くの者に支えられ、愛の喜劇を演じゆく
「神」は奇しき計画を 我を用いて進めゆく――

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ヘブライ詩を理想として【雅歌的抒情】

水底を這いつつ我らの貞操は葡萄酒の悦び言葉のない息の対話を
「一時の死を」待ち望む貞操は香油の端を掴みゆく
「ねぇまだ死んではいけないわ。朝まで夜を愉しむのよ」
「あぁまだ死にはしないけど、朝まで君を味わえば水が干上がってしまう」
死海へ注ぐ河の流れをさかのぼり女の口は夜に映え
月影が水面を照らしゆく「私たちは会わない方が良かったわ」
「なぜだい?」「だって貴方って死んでも再び生き返る」(神のよう

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ヘブライ詩を理想として【哀歌的抒情】

嗚呼、琴を奏でてくれるな――
音のしない涙を頬に伝えゆき異国の河に混ざりゆく
嗚呼、言葉を紡いでくれるな――
音のしない涙を飲んであわあわと唇を震わす
嗚呼、人をなぶってくれるな――
喝采をあげる異国の見世物小屋、我が同胞の微かな息
嗚呼、神の名を軽んじてくれるな――
絶望と神の沈黙に突き詰められ我らは河の流れを臨む
    反歌
祖国の歌 笛に遥かな血の疼き涙の河ぞ「わが神『ヤハウェ』よ」

優しい嘘に濡れながら

  ――狂おしいほど涙の雨を、、、
  ――狂おしいほど死が近い夜
「私は怒る」「お前の神はどこにいる?」「今も私と共にいる」
「塵ほどの罪が積まれて『大罪』となりゆき神は怒りを下す」
  ――狂おしいほど涙の雨を、、、
  ――狂おしいほど空々しい夜
「(仮面)と(仮面)少しの本音(笑顔の仮面)」とわの喜劇を――
「――愛ってのは宝石じゃない、飲んだ涙と合意の下の優しい嘘だ」
     反歌

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男はつらいよ

――その女は、男であると誰しもが見上げる程に力強く拍手を浴びる
舞台から下りるのが怖い。私自身に戻るのが怖い、光のない私は何者?
そんな時に、あたしと彼は恋をした、いや、恋をされた。少なくとも
あたしは今でもそう思う。男のように舞台に立ち、心に空いた、その隙間に
彼が入って来た。男のように生きるのに疲れたその時に彼はいて
女であれた「でも、長く続けちゃダメね。やっぱりあたし男を演じる」
「あたしは

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晩暉浸礼を享く(昭和二四年)

絞首刑の元帥大将首相また大使総裁、皆勝てば英雄であった
『庭のおもにつもるゆきみてさむからむ人をいとどもおもふけさかな』
首を洗う手が震えている武者震い冷たき水が滴れば目を赤くする
日本国の歴史と共に存する我がこの細き首に熨(の)しかかる運命(さだめ)の重さ
「石原も死んでしまったか。なぁ侍従よ。花を一輪摘んでくれるか」
『夏の日の青天に満つうつせみを数えてはやめ花ぞ一輪』
戦争は確かに終わる。始

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晩暉浸礼を享く(昭和二三年)

帝国の晩暉と共に新しき「日本」の誕生――
国柄は矯正器具の如きもの身じろぐ度に「国体」は禁忌となりぬ
『うらうらとかすむ春べになりぬれど山には雪ののこりてさむし』
「美濃部さんも亡くなりました」「あの頃の日本は良かった」
「食べるために赤子を殺す世の中に成り下がりましたね」
極東国際軍事裁判の判決は、人口膾炙に訴求する――
「我らは負けた、負けたんだ」「負ければ何でもされてしまう」
国体護持は今上

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晩暉浸礼を享く(昭和二二年)

「喧嘩も戦争もそうだ。はなから負けると思っちゃいないだろ」
闇市で辛うじて得た酒とつまみ、肴はいつも武勇伝――
「一発だ、一発、頭にドカンといく。そいでそいつは骸だよ」
「自分が生きてやつが死ぬ。お天道様の腹づもりが分からんもんだ」
(聞けば、君。)(鎮撫の御幸だそうだ)(俺らが闇であくせくやってる内に)
『たのもしくよはあけそめぬ水戸の町うつつちのおともたかくきこえて』
(今上陛下に罪はないだろ

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八日目の割礼

「この世で最も美しいのは何ですか?」「新たな命が息をする」
――産声にある
「それでも、愛されたのでしょうか?」捨てられた子である僕は
自らに問うかの如く聞いていた。両親であった、いや今も両親である
父母は哀しむように「――お前は私たちの子だ。昔からそして今もだ」
飢えている愛が叫び出す。この世で独り似ない父母の愛こそが
最も貴くそれ故に最も残酷で「――昔からそして今もだ」
その愛が大きくて怖い「

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えくぼ

日常が日常を捨てる、そんな時に――
「花は散るものよ」いつまでも君のえくぼは春である
「来年もまた見ようね」と僕たちの距離に穏やかな春風が吹く
日常を取り戻す 朝、そんな時に――
「私 きれい?」と君が言うえくぼが春に埋もれる時
「あぁきれいだとも」恥ずかしく鼻に触れながら僕は言う
日常が日常を捨てる、そんな時に――
君は僕から逃げていく。揃いのマグカップには冷めた牛乳が薄膜を張る
     反歌

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白い鴉

親指の関節を鳴らす、癖がある。男が全てを知っている――
「コーヒーはブラックですか?」この合図に男はカッと目を開く
「砂糖は幾つ?」「二個ほどかな」――『二十万』――さっと封筒を出す
一口飲んで「全体と一つのものを語る時」「何でしょうか?」「じゃあこうだ」
「黒い鴉が全体で白い鴉がいたらどうなるか?」「殺されますね」
「そうなのだ。しかし、ヨソデは?」「有難がられる」「分かっただろう」
親指の関節

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自由の刑

――神は、人を殺す。
「明日が晴れであろうと僕にとって何も関係がない」
自由の刑、自由の茨、自由の嘘。――神は、人を殺す。
「幾人もの希望を奪い、幾人もの幸せを奪う。神なんて僕にはいない」
「明日が雨であろうと僕にとって何も関係がない」
――君が、君を殺す。神は、殺しもすれば生かしもする。
神は、君が思うような知られる神ではない。(ヨハネ4章24節)
  反歌
知らぬ人と明日の天気を語り合う命は斯

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