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自転車通勤中の交通事故と会社の責任について

自転車活用推進法などにより自転車通勤が推奨されているが・・・通勤途中の自転車の交通事故は、はて?
企業の責任になるのか?それとも個人責任なのか?
ということが問題になることがあるので、自転車通勤者のためのアドバイス的なことを少し書きますね。


|自転車活用推進法

自転車活用推進法は、平成28年12月16日に公布され、平成29年5月1日施行された法律で、その理念は

自転車の活用の推進が,公共の利益の増進に資するものであるという基本的認識の下,交通体系における自転車による交通の役割を拡大することを旨として行うとともに,交通の安全の確保を図りつつ行われなければならない。

としている。

そしてこの法律の定める自転車活用推進計画の中で「自転車通勤の促進」なども定められているのだ。https://www.mlit.go.jp/road/bicycleuse/pdf/gaiyo2.pdf

|使用者責任とは

会社は、通勤時の交通事故自体には直接関与していないが、実は民法715条で定める使用者責任が認められた場合には、交通事故を起こした従業員が負うべき損害賠償債務を負わなければならないとされている。

また被害者(相手方)も同条に基づき会社側にも損害賠償責任として補償を金の請求をすることがあるのだ。

(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

e-Gov法令

民法715条は、使用者が、従業員を使用して利益を上げている以上、その雇用によって生じたリスクも負担しなければならないというのが趣旨であり、ある意味当然なことであると思う。

そして「通勤」は、その業務、会社の仕事のための一部であるととらえることができるのだ。

|通勤労災との関係

労災保険とは、労働災害に遭った労働者に対して、国が給付をおこなう公的な補償制度。

労働災害は、業務中に起きた「業務災害」と通勤途中に起きた「通勤災害」の2種類がある。

自宅と会社の往復や、仕事場間の移動中のケガは「通勤災害」に該当する可能性があるのだ。

ということで、「通勤災害」についてちょっと触れてみる。

(1)労災給付を受けられる“労働者”とは?
労災保険の対象者は、パートタイマーやアルバイトなどを含む、すべての労働者である。しかも雇用形態を問わない。
そして労災保険の保険料は全額会社負担が原則である。
※参考:労働者の取扱い:厚生労働省HP

(2)通勤災害に認められる範囲は?
通勤災害と認められる“通勤”とは、就業に関し、次のいずれかの移動を“合理的な経路及び方法”で行っている場合に該当する。

➤ 住居と仕事場との往復
➤ 仕事場から次の仕事場への移動
➤ 住居と仕事場との往復に先行し、又は後続する住居間の移動
(単身赴任先の住まいと自宅との間の移動など)

なお、通勤経路を逸脱し、または中断すると、その間は“通勤”と認められず、そのあとの移動も“通勤”と認められない可能性もあるのだ。
多くの自転車通勤を認めている企業では「自転車通勤届出」や「自転車通勤誓約書」などを作成している。また通勤ルートを地図に落として届出
ることとしている企業もあるので、そのルートから外れると出勤途中でも労災の対象にならない場合があるので要注意だ!

なお、通勤労災では、自転車のみならず車やバイクの場合でも同様の考え方があるので注意しよう。
※参考:労災保険給付の概要|厚生労働省

|業務執行性の有無

会社に使用者責任が認められるためには、使用者の業務執行中であったことが必要である。

業務執行性の有無については、現実の会社業務そのものではなく、外形から業務執行性があるかで判断されるというのがー般的である。
すなわち加害車両の所有権の帰属、業務の内容、業務との関連性や会社の許容の程度などを総合に考慮して判断されるというのが一般的な見解である。

<参考>
(1) 東京地方裁判所平成27年3月9日判決(平成26年(ワ)15934号事件)
被用者の自転車通勤は、被用者が、自己の便宜と嗜好によって自由に選択した交通手段であり、私的活動範囲において私物を利用しているに過ぎないと述べ、会社の事業の執行行為とは何ら関係がなく、自転車の走行を外形から客観的に見ても、使用者の事業執行に属すると|認められないと判断し、使用者責任を否定した。

(2)平成25年8月6日判決(交民46巻4号1051)
会社は、運転手の当該自転車の使用により利益を享受していたものと認められる。事実関係の下においては、交通事故は、会社の事業の執行中に発生したものと認めるのが相当であるとし、使用者責任を肯定した。

|マイカー通勤の使用者責任の裁判例

ちょっと性格は異なるがマイカー通勤の場合のマイカー通勤途中での事故につき、会社も社員によるマイカー通勤を許し、通勤手当も支給していることから、勤務する会社の使用者責任を認めたものがある(名古屋地方裁判所判決昭和53.10.18) 

|会社がリスクを避けるには?

まず、先ほどの裁判例も、事業執行性が認められるリスクを減らすためには、通勤に使う自転車は、配達や取引先への移動等、業務のための移動には絶対に使わないように指導すること、従業員の安全教育や万が一事故を起こした場合に備えて保険(自転車損害賠償保険等)に加入させることが必要である。

過去には自転車通勤者に帰宅途中に郵便物をポストに差し出すことを依頼した事案で、帰宅途中とはいえ業務性があるとし会社側にも賠償責任を負わせた判例もある。

|まとめ

以上自転車通勤に関する事故等の場合の労災や企業側の負担等について極めて雑駁に記載した。
会社側のとるべきリスク軽減策をちょっとまとめてみると、

・ 通勤に使う自転車は、配達や取引先への移動等、業務のための移動には絶対に使わせない。
•  自転車通勤を行う者に対し、自転車の安新IJ用のための研修や清報の提供等を行うこと。
•  保険に加入させること。
•  会社が駐輪場を確保するか、その従業員が駐車場所を確保していることを従業員に対して徹底すること。
•  これらのルールを就業規則等で明文化し、ルールを遵守することを自転車通勤の許可条件とする。

ことなどが重要であると考える。

通勤中や業務中、私用など用途は様々だが自転車利用者が自転車損害賠償保険などに加入した上で、安全な自転車利用につとめて欲しいです。


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