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2年ぶりに社会人サッカーに復帰した話

去年の8月末、2年ぶりに社会人サッカーに復帰した。それもウェールズという辺鄙な場所で。そして先日今シーズンの全ての試合が終了し、私の所属するチームは降格となった。

やるつもりはなかった社会人サッカー

私は2年前まで神奈川県の社会人チームでプレーしていた。街クラブのユースを卒団した後は約3年半社会人チームでプレー。最後の1年は選手兼監督としてチームを支えた。2020年の9月からイギリスはウェールズへ留学したので、お世話になった社会人チームからは離れる決断を強いられた。

ウェールズへ留学するとそこから約1年のロックダウンへと突入。サッカーをプレーするどころか、町に買い物以外で出歩くことは禁じられるような世の中に変貌してしまった。そして、昨シーズンはようやくロックダウンも完全解除されてサッカーができる環境が戻ってきた。23歳だった昨シーズンは大学のサッカー部に所属してサッカーを続けた。

私の日常生活はサッカーを軸に動いている。大学のサッカー部の練習は月曜日の一回のみで、水曜日に試合があるだけの週2回の活動だ。そのため、サッカー部で良いパフォーマンスを発揮できるように指導や大学の授業の合間を縫って地元のジムへ行き、コンディションを保っていた。ただ、昨シーズンはU-19の女子チームとU-8のコーチを勤め、U-19の男子チームの分析官としても働いていたので、1週間のスケジュールは常にタイトだった。

そもそも働き過ぎたということもあるのだが、私は今後サッカーの指導者として生きていくと決めているので、「来シーズンはプレイヤーとしてサッカーをするのはやめて、指導だけに集中しようかな」なんて考えていたのが去年シーズン終わりだった。

そんな気持ちで迎えた今シーズン。私の友達がウェールズの4部に所属する社会人チームと契約した。どうやら彼と一緒に働く指導者が去年見ていたチームで、選手が揃わなくて困っていた所に友達に白羽の矢が立ったらしい。そしてその友達から「一緒に社会人サッカーやりましょう、僕らがいたら無双できると思いますよ!」なんて調子の良い誘いが私のところにきた。そもそもプレイヤーとしてはサッカーを続けない気持ちでいた今シーズンだったが、「ボールを蹴りたい」という欲求に抗えずにウェールズ4部の社会人チームと契約することになった。

厳しいチーム事情と苦しいシーズン

友達と一緒に社会人チームと契約して迎えた初めてのマッチデイ。私は車を車検に出していたので、チームの監督が私とその友達を車で迎えにきてくれた。私はそのマッチデイがチームに合流する初めての日だった。チームのグループチャットに試合の前日に試合のスカッドが発表されるのだが、練習も何もしていない私と友達の名前が入っていた。

この時点でそもそも「どういうことやねん」って感じなのだが、試合会場へ向かう監督の車の中で衝撃の事実が発覚する。監督から「ポジションどこ?」と聞かれて、「MFです」と応えると、監督から「今日スタメンだからよろしくね」と伝えられた。その言葉聞いて私は内心「どこの誰かもわからないでポジションも知らないやつを普通スタメンで起用するかな」というのが正直なところだった。しかも、大学サッカーのシーズンが終わったのが去年の2月の中旬で、このマッチデイが8月末。約半年のブランクがある中でいきなりスタメンはフィットネス的にキツイなと感じた。

試合のスカッド表
初めての試合は4-3-3のLIHで出場となった。
チームのホームユニフォーム。試合のポジションによって背番号が毎回変わる。

ロッカールームで知らないチームメイトと軽く挨拶を交わして、ウォームアップへと向かった。ロッカールームやユニフォームがしっかりしていることや、アップ用の練習着やソックス、シャワーを浴びる用のタオルやバンテージやテーピングは全部使うことができる。

ロッカールームの様子

身体のアクティベーションから始まり、パスコン、ポゼッション、シュート練を行い、約35分程度のアップは終了。個人的にサクッとアップが終わるのは試合前に疲れなくて済むので好きだ。

試合になると多くの地元の観客がウェールズ4部という草サッカーの試合に集まった。

試合会場の様子

私と友達は揃ってスタメン出場を果たし、私は83分までプレーして交代。試合は1-5と大敗となった。

初めての試合は厳しい結果となった。

初めてウェールズの社会人サッカーでプレーしてみて感じたことは、このリーグはとにかくフィジカルがモノを言う。

頭が1つ、2つと抜けている相手とマッチアップする場面も

シーズンを通してこのリーグで戦ってきて選手の立ち位置を意識してボールを動かすというような現代サッカーをしてくるチームはリーグの上位にいる数チームのみ。大半のチームはCBや低い位置にいるSBからCFをターゲットにした空中戦に持ち込むか、ディフェンスラインの背後へロングボールを送り快速FWが裏抜けする攻撃が主流だ。

そもそも基本的な技術レベルはかなり低い。リーグ上位にいるチームの選手でさえ、「なんかこの選手怪しいぞ」というようなのがいるから面白い。ボールを思ったところにコントロールできない、パスがズレる、状況判断が壊滅的というのは日時茶飯事だ。しかし、フィジカルのレベルはかなり高い。大抵の相手選手は胸板が厚く、腕はユニフォームの袖がぴちぴちになるくらい太く、ほとんどの選手は180cmは軽く超えてくる。そんな彼らが効率的に攻めようと思ったら、ロングボール主体のフィジカルゲームに持っていくのも理解できる。

また、このリーグの盛り上がりポイントは高く舞い上がったボールをピタッと足下に止める技術や味方とのワンツーで抜け出すコンビネーションプレーではなく、1vs1のボディコンタクトで相手を吹っ飛ばした時や、ファウル覚悟の殺人スライディングタックルをかました時が1番盛り上がる。そして、指導者もそういった『デュエルの強さ』で選手を評価することが多い。

私のチームはそもそも昨シーズンに監督を務めていた方がチームを退団したことがきっかけで、元々いた選手たちの多くが退団していった。今シーズンの頭は監督が決まらないままシーズンが始まってしまい、開幕から2試合は人数不足による試合延期を余儀なくされ、リーグから懲罰として勝点-6を食らっていた。

私と友達が加入する1ヶ月前くらいにようやく監督とコーチが決まり、選手を集めだしたタイミングで私達が合流した。そのため私達が加入までにリーグは既に4試合消化していたが全敗の勝点-6という厳しいスタートだった。

勝点を手に入れるまでの半年間

私が加入してからリーグ戦で勝点を手にするまでにかかった時間は約半年。敗戦に敗戦を重ね、この半年間はサッカーをやっていて苦しいと感じることが多かった。

弱いチームには弱いなりの理由がある

先程説明したようにこのリーグはフィジカルがモノをいう。しかし、私のチームはあまり高身長の選手がいない上に、足が速いといった身体能力的に突出している選手がいない。

私と一緒に加入した友達は身長189cmの恵まれた体格を持ち、日大藤沢高校のAチームでレギュラーを張っていった実力者。彼はCFやCBもできる確かな技術もあるのだが、9月の頭に大学のサッカー部の練習試合で膝の大怪我をしてそのままチームに戻ってくることはなかった。そのため彼と一緒にプレーしたのは最初の4試合のみでチームとしても彼の不在は大きく響いた。

私のチームの基本的な失点パターンは背後へのロングボールにDFが簡単に裏を取られて失点、セットプレーからの高さにやられて失点、あるいはDFの自陣での変なミスからボールを失って失点がほとんどだった。その結果、リーグ戦の28試合での失点数は116点に上り、リーグで下から3番目の記録だ(更に失点しているチームが2ついることが恐ろしいが)。

基本的にチームの戦術はほぼないので選手1人ひとりの能力に委ねられる。チームの決まりごととしては下記の通りだ。

チーム戦術
・体力を維持するためにハイプレスには行かないこと
・ボールを奪うと基本的にキープして味方に休む時間を与えるが、失いそうになったら前に蹴っ飛ばしてリスク回避する
・WGはCFに近付いてセカンドボールを拾ったり、背後に抜ける
・CKの守備時はハーフウェイに前線3枚を残し、他の選手はマンツーマン
・GKはなるべく時間をかけてプレーを行い、味方が体力回復する時間を作る

戦術とは呼べないレベルの決まりごとでまさに『草サッカー』という感じだが、弱いチームには弱いなりの理由があるものだ。チームとして組織的に戦うということが全くできないチームなので、攻撃は個に依存した単独突破がメイン、守備はチャレンジ&カバーができないので誰かが抜かれたり、背後を取られればGKと1vs1に繋がる。そんなサッカーをしていれば116失点というのも頷ける結果だ。

合わない、認められらない自分

本当にこの半年間は苦しいことの方が多かった。土曜日にあるリーグ戦ではほぼ毎週のように相手チームにボコボコにやられる。試合前に監督やコーチが選手たちのモチベーションを高めようと色々話していたが、モチベーション以前の問題の方が多かった。

私はというと、WG、WB、IH、トップ下と様々なポジションで起用されてきたが、なかなかチームのやりたいことと自分の特長が出るプレーが噛み合わないことが多く、思い通りのパフォーマンスが出せないことが多かった。基本的に押し込まれたところからボールを奪って攻撃が始まる。前線と中盤から後ろで完全に隔離されているので、前線で待機している私に送られるロングボールは相手と50/50のような乱雑なパスが多かった。身長が158cmしかない私は180cmを越える大柄な相手DFとマッチアップをしてボールを収めることは簡単なことではなかった。

そもそも私はこのチームに来るまではボランチやトップ下といった中盤でプレーすることがほとんどで足下でボールを受けて味方の選手に繋げるという技術で勝負してきた。しかし、このリーグの特徴とチームのプレースタイルは中盤を省略したロングボールでの攻撃が多いので、足下でボールを受けて何かをするという機会があまりなかった。更にはパサータイプの私に求められたのはWGとして1vs1で相手DFを剥がして決定的な仕事をすること。これまでのサッカー人生であまりドリブルで勝負することを得意としてこなかったために、求められるタスクに悩まされることが多かった。

毎週土曜日の試合のためにコンディションを整えて、なるべく最大限のパフォーマンスを発揮できるように努めていたが、毎試合チームは大敗、自分の得意としているプレーが発揮できない状況に対して、「正直、何のためにプレーしているんだろう」と感じたことは多々あった。

チームの結束とコツを掴んだシーズン終盤

約半年全敗だったチームは2/3に行われた試合で今シーズン初めての勝点を手に入れた。

初めて勝点1を手に入れた試合。

この試合の後は2連勝を果たし、ようやく1つのチームになっているような感覚があった。

実は初めて勝点を手に入れた前の試合でも90+5分くらいまでは2-2の状況で、ラストワンプレーで相手のFKから失点し、2-3で負けてしまった。その試合の対戦相手はリーグで4位に付けており実力のある相手だったのだが、攻撃ではある程度ボールを持つ時間を増やすことができていたし、守備では人数をかけて守ることができていた。以前のように1人ひとりが好き勝手なことをやるのではなく、全員が同じ方向性を持って戦うことができていた。そして、その後の初めての勝点や勝利という流れへと繋がっていった。

このチームでプレーしてみて感じたことはサッカーはつくづくチームスポーツだということだ。当然1人ひとり勝ちたいという思いを持ちながらプレーしているが、「自分の担当するエリアやマークではハードワークするものの、他のチームメイトのカバーに入ろうという姿勢はない」、自分が他のチームメイトへパスを繋げられればそこで終わりで、オーバーラップして選択肢を与えたり、サポートをする気は無い」というような『独りよがりのプレー』が蔓延していたシーズン途中。やはり毎試合人が集まらないが故にメンバーがコロコロ入れ替わり、チームとしての結束力を高められなかった弊害も大きかっただろう。しかし、ある程度メンバーを固定できてからは徐々に「チームために」というプレーが増えていった。そして、チームとしてまとまるプロセスを経て、勝点や勝利という結果が付いてきた。

3/18に今シーズン3勝目を達成したが、この時点でリーグの降格が決定。来シーズンはリーグのストラクチャーが変わり、今までは4部、5部、6部が1つのローカルリーグ(県リーグのようなもの)になっていたのだが、更にもうひとつカテゴリーが加わることとなった。その結果、4部からは5チームが降格することとになり、私のチームは5部でプレーすることが決まった。

降格が決まると、徐々にチームのモチベーションも下がり再び大敗することが増えていった。そしてそのままシーズン終了。指導者目線で言えば、チームをマネジメントすることの難しさは大きかったはずだ。特に社会人サッカーは選手が仕事の合間や家族との時間を削って何とか時間を作って練習や試合に来ているので、常にベストメンバーが揃わない中で戦わなければならなかった。またチーム崩壊から始まったこのチームが1つにまとまるために時間を要したことも降格の大きな原因だろう。

コツを掴んでいったシーズン

個人としては試合を重ねるごとに徐々に自分より大きい相手と対戦することに慣れていった。シーズン序盤は不慣れWGをやらされて相手DFにボールを見せてしまい、強烈なタックルを受ける場面が多くあったが、身体でボールを隠してキープするコツを得るとプレーの精度を上がっていった。

また、相手との間合いも徐々に改善されている。まだ1vs1で仕掛ける時の間合いが上手くいかない時があるが、それでもRWGでプレーしてカットインからのクロスやシュートまで持っていける場面も増えていった。1vs1の仕掛けはもう少し研究する必要があるが、タイミングと間合いを掴めればスピードがなくてもある程度抜けるようになるのではないかと感じている。

シーズンを全て終わっての結果は以下の通り。

リーグ戦では18試合(1229分)に出場して4ゴール、2アシスト。WGでの起用が多かったのでもう少しゴールやアシストを増やしたかったのが、全体的に見ればぼちぼちのパフォーマンスだったように思う。

シーズン序盤は自分がボールロストして散々監督に「Fuck me!」、「Fucking Come on!」と怒鳴られていたが、徐々に監督の言葉も「Fucking good!」、「Keep going」といったポジティブなものに変わっていった。シーズン終了後には監督から「来シーズンもうちでプレーして昇格を目指そう」というオファーをいただくことができた。来シーズンのチームに関してはプレイヤーとしてサッカーを続けるかということも含めて検討中なので、監督からのオファーは保留にさせてもらっている。1ヶ月くらい前にリーグで対戦したクラブのコーチからもオファーをもらっているので、様々な可能性も含めて検討したいと思っている。

サッカー×コミュニティ

このチームでシーズンを通じてプレーして、正直なところ苦しい時間やキツいと感じる期間の方が多かった。しかし、サッカーをプレーする楽しさはかけがえのないものだと感じられた。また、チームのスタッフ、コーチ、監督、チームメイトには"外国人"である私をフレンドリーに迎え入れてくれて本当に感謝している。特に彼らはローカルな人たちで、ローカル特有の訛りがあるのでコミュニケーションの面では難しさはあるのだが、そんな状況でも彼らは温かく接してくれた。"外国人"がローカルコミュニティに入るというのは簡単なことではないが、そういう環境を与えてくれたことに感謝していると共に、「サッカーは様々な壁を乗り越えさせてくれる素晴らしいスポーツだ」ということを改めて認識させてくれた。

日々の身体のメンテナンスやコンディション調整は結果が付いてこなくて、もどかしいことが多かった。24歳になり、徐々にベストコンディションで試合に臨めないことが増えつつあることも気になるところだ。ほぼ毎試合、体のどこかが痛いというのがあって、全く違和感なくプレーできたのは3〜5試合くらいだろうか。シーズン終盤は足首をテーピングでグルグル巻きにして試合に出ることが続いた。ただ、そんな思いをしながらも、チームとして試合に勝てた時やゴールを決めた時の嬉しさは計り知れない。

またホームの試合後にはみんなでクラブハウスでご飯を食べたり、お酒を飲んだりするのも1つの楽しみだ。

試合後には選手、スタッフ(対戦相手も含めて)全員にポテト、ソーセージ、トーストがクラブから振る舞われる。

「絶対アスリートが食べたらダメでしょ」というようなメニューだが、試合後には対戦相手も含めて楽しく過ごせるのもウェールズの草サッカーの醍醐味だ。

2年ぶりの社会人サッカー復帰は厳しいことも多々あったが、温かい人たちに恵まれて無事にシーズンを終えることができた。来シーズンもプレーするかはわからないけど、ウェールズならではの『サッカー×コミュニティ』という文化は魅力に溢れている。サッカーには興味がない人でもコミュニティがあることによって、より多くの人を巻き込むことができる。

リーグ最終戦も多くの観客が足を運んだ。

日本でもサッカーとコミュニティが掛け合わせることができればサッカーが文化として定着していくのではないかと思う。サッカーを通じて人々が出会い、会話をして、仲良くなる。こんなに素敵なことはないだろう。

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